1_2 昼下がり、日向と影
日が高く昇っている。食べ盛りの子ども達には耐え難い午前の最後の授業が終わり、学び舎は先ほどとは打って変わって賑やかな顔を見せる。小柄な少女が小走りで他の生徒の間を縫い、風を切り、食堂に急いでいった。
そんな後ろ姿をグレゴールはぼんやり眺めていた。急がなくても飯は逃げないのに。まあ、混みはするか。グレゴールも食堂へ向かった。さすがに昼食は食べたい。
食堂へ向かう道すがらグレゴールは祝祭のことを考えていた。祝祭__総合実技発表会のことである。何がどうなって発表会が祝祭と呼ばれるようになったのかはわからない。が、ともかくこの学び舎での学習の成果を見せるの行事の一つに過ぎない。日向と影が交互に続く廊下を歩く。左足で陽を踏み、右足で影を踏む。繰り返す。きっと祝祭も予定調和で終わるだろう。去年も一昨年もそうだった。今年も繰り返す。
そういや班はどうだったっけ、放課後は確か顔合わせだ。確かとんでもない人がいて。と考えていたらやけに遠くの顔がこちらを向いていることに気づく。気のせいかと思って歩みを進めると、遠くの顔がこちらに向かってきた。気のせいかと思ってもどんどんこちらに近づいてくる。何なら手を振ってる。笑顔で。
「君がグレゴール・スキエンティアくん、かな」
目の前で立ち止まった青年は楽しげに問いかけた。日焼けがよく似合う笑顔のあまりの爽やかさにグレゴールは一瞬戸惑った。相手に失礼のないように、はい、とは答える。誰だ。
「急に押しかけてごめんな、俺はアリ・フォンス、同じ班だよ、祝祭の。食堂に行くところだよな?俺も一緒に行ってもいいかな。ああお腹空いた!今日の献立は何だろうな」
こちらが答える前に質問を連ねないでほしい。グレゴールは返事になるかわからない声を漏らしながら、歩き始めた青年の隣へ並んだ。
「俺、班に新しく人が来るって聞いて楽しみにしてたんだ。こういう行事はいろんな人と関わってこそだろう?どんな人なんだろうって気になっちゃって、話しかけにきたんだ。あわよくば一緒に昼食取れたらいいなって。あ、俺ウンディーネ寮、五年生。せっかくの縁だし、敬語なんて使わなくていいよ。仲良くしよう。グレゴールはザラマンダー寮なんだよな?」
「あ、ああ。うん。牡羊座だから」
え、とアリは大きな声をあげた。その声量のまま続ける。
「牡羊座なら今日と誕生日近くないか?誕生日はいつ?そうだ、誕生日には贈り物がなくっちゃな。何がいい?」
「い、いや、いい。もう過ぎてるし」
えええ、とまたもやアリは大きな声をあげる。大きく落胆する姿に不思議と笑ってしまう。アリが大きく体を動かすごとに洒落た耳飾りが軽い音を立てて揺れる。窓側を歩くアリを見上げると、彼の青い髪が太陽の黄色い光を集めていて、まるでひかりの欠片のように見えた。青い空の下にいるのも絵になるんだろうなとグレゴールは何となく頭の中で一つの絵画を飾った。
食事の乗ったトレーを日当たりのいいテラス席に置いた。アリはどうやら喋るのが得意、というか好きらしく、器用に皿の上のものを片付けながらずっと話しかけていた。対してグレゴールは変に口に詰め込み過ぎてしまい頬を袋鼠のようにしながら、返事をするために大急ぎで顎を動かすなんてことが数回あった。悪かったな。こういうのに慣れてないんだ。
特にこれといった話をしているわけではないが、いや、特にこれといった話をしていないからこそいいのか。昨日の、優しくはあるものの少し説教くさい老人を思い出しながらグレゴールはいつもより小さな一口で食べ進めた。
どうやらアリはもう食べ終えてしまったらしい。おれよりよく喋っていたのに。少し待っててくれと言い残しどこかに行ってしまった。
戸惑いがあるがいつもより少し彩りを感じる食卓。明日もこうであればいいのにな、と思っていると背後から呼ばれた。こちらに向かってくるアリの手元を見ると赤色の大ぶりの木苺がたくさん乗ったタルトが静かに、だが確かに皿の上に飾られていた。アリはその木苺と同じ赤い瞳でこちらを伺っている。
「やっぱり、十五歳のお祝い、させてくれないか」




