1_1 夕暮れ、痛むつま先
鐘の音が夕暮れの空に響く。
子ども達の学び舎は静かに西陽を受けていた。その中を柔らかい風がじゃれていく。子ども達の足の間を走り過ぎ、机に置かれたままの紙束で遊び、窓から外へ飛び出していった。橙色から青、紫と色とりどりの空の中で小さく鳥が巣へ飛んでいく。子ども達もまた、自分の家とも呼べる寮へ帰っていく。
子ども達といっても、皆が同じというわけではない。夕食を待ち遠しく思う者、出された課題に文句を言う者、一目散に友人の元へ駆ける者、そそくさと早歩きで帰る者。そして、まだ帰らず教室の中佇む者。
「グレゴールくん、ちょうどよかった」
教室の中佇んでいた少年__グレゴールは、静かな老人の声のする方を見た。
「はい、何の用ですか」
そう言いグレゴールは窓を閉める。まだ遊び足りないのか風が彼の赤い髪を弄んだ。グレゴールは軽く頭を振り髪を撫でる。目の上の者と話すための最低限の礼儀。正面から向き合う。相手の目を見る。目の前の老人はこちらの用意が整うのを待っていたようだ。
「いやなに、これといった用は無いのだけどね。祝祭の班わけ、変更に応じてくれてありがとう」
「いえ別に、前の班も今の班も知り合いいませんし、拒否する理由もありませんし」
教師はふ、と笑みをこぼしながらそうかいと言った。
「とはいえ、こちらの不手際で結果的に君に迷惑をかけてしまった。謝らせておくれ」
「はあ、特に、困ってないです」
声に困惑が滲む。誰といようが変わらないだろう。どうせ、祝祭が終われば他人になる。
「まあまあ、グレゴールくん、班なんて祝祭限りの関係だと思ってはいけないよ」
お見通しのようだ。
「想定外の縁が君に大きな刺激をもたらすかもしれない。君はまだ三年生になったばかりだ。何があっても不思議じゃない」
ふと足元を見る。最近つま先が痛むことを思い出しながら先生の言ったことを反芻する。ここに来て丸二年が過ぎた。卒業まで丸四年。確かに”まだ”三年生か。
「ともかく、班の皆とはいかずとも気の合う者と仲良くするといい。君と同じ三年生の者も、ザラマンダー寮の者もいるようだよ」
「そう、ですか。ありがとうございます」
別にありがたく思っているわけではないが、そう告げてグレゴールは教室から出た。教師に夕暮れの挨拶をして歩く、当てもなく。夕食の時間が近づいているが、そこまで空腹ではない。課題はやりたくない。駆けつく友人もいないし、帰りたいと思える場所もない。少しずつ暗くなる空を目にしながらただ歩く。
なんとなくこの時間は落ち着かない。




