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ネカマバレしたくない俺、相棒にベタ惚れされて女装で会いに行ったら美少女でした【大幅改稿版】  作者: 谷三
エピキュクルス・オンライン ~伝説の女帝とネカマな俺~
8/30

爆誕「美女・そらぽん」


 オフ会当日。

空は、鏡の前で何度も深呼吸を繰り返していた。

メイクは完璧。付きっきりで教えてもらった上に、メイクしているところを撮影して動画にまでしてくれた。

 それを見ながら何度も練習し、自分でも再現できた。

ウィッグも自然に馴染んでいる。ワンピースも、補正パッドも、全て完璧だ。

鏡に映るのは──「そらぽん」だった。


「……行くしかない」

空は、震える手でドアノブを握った。


 駅前の待ち合わせ場所に向かう道中、空は死刑宣告を待つ囚人のような気分だった。

(バレたらどうしよう……)

心臓が、激しく脈打っている。スカートの足が、スースーして落ち着かない。

(女の人は、この感覚にも慣れっこなんだろうか?)

それに──なんだか、周囲の視線が妙に刺さる気がする。

(じろじろ見られてる……?)

すれ違う人が、チラチラとこちらを見ていると思うのは、多分気のせいではない。

(やっぱり女装だとバレてるんだろうか──)


「ねえねえ、お姉さん」

突然、声をかけられた。

空は、びくりと肩を震わせて振り返る。

そこには、軽そうな雰囲気の男性が二人、ニヤニヤと笑いながら立っていた。

「一人? よかったら俺たちと遊ばない?」

「え、あ、その……」

(ナンパ……!?)

空は、頭が真っ白になった。

「ま、待ち合わせがあるので……!」

しどろもどろに断ると、男たちは「えー、残念」と言いながら去っていった。


 空は、その場に立ち尽くした。

(……男には、見えてないんだ)

少し、安心した。

蓮のメイク技術は本物だ。完全に女性として通用している。

でも同時に──なんだか、不思議な感覚もあった。

(俺、ナンパされたんだ……)

くすぐったいような、恥ずかしいような。


 そこに。

「そらぽんちゃーん!」

今度こそ、聞き覚えのある声が響いた。

ギルドメンバーの「不気味だいふく」──本名は佐藤さんという、三十代の主婦──が手を振っている。

その隣には「ひのきのぼう」もいた。

「あ、は、はい! こんにちは!」

空は、できるだけ自然に声を出した。

か細いと散々言われてきた声は、元々高い。本来より少し高めに出せば、女性の声として通用するはずだ。

「わあ……! そらぽんちゃん、めちゃくちゃ美人!」

不気味だいふくが目を輝かせた。

「マジか……! これは……!」

ひのきのぼうも、明らかに驚いている。

「え、あ、ありがとうございます……」

「いやいや、本当に! モデルさんみたい!」

「背も高いし、スタイルいいし!」

(バレてない……!)

空は、内心でほっと胸を撫で下ろした。

そして同時に──褒められることが、なんだか嬉しかった。

(こんな感覚、初めてかも……)


「じゃ、電車乗ろっか! 他のメンバーは現地集合だから」

「はい!」

三人は、電車に乗り込んだ。


 *****


 イベント会場に到着すると、既に他のギルドメンバーたちが集まっていた。

「おお、そらぽんちゃん!」

「うわ、マジで美人……!」

「写真撮っていい? オフ会の記念にSNSに上げたい!」

 口々に称賛の声が上がる。

空は、恥ずかしさと安堵が入り混じった複雑な気持ちだった。

(みんな、気づいてない……)


 そして──


(アストラは……?)

 一番会いたくて、そして一番会うのが怖かった相手。

 エルフの少年剣士、アストラ。その中身は、きっと爽やかで活発な高校生の少年──

「アストラは来てないの?」

 不気味だいふくが尋ねると、ギルドマスターのバーンが答えた。

「ああ、アストラはまだ高校生だからな。今日はちょっと都合が合わなかったらしい」

「そっか、残念」

 メンバーたちが残念そうにする中──

空は、複雑な気持ちだった。

(会いたかった……でも)

これで、彼に「そらぽんは冴えない男だった」と知られることはないだろう。

(……これで、よかったのかな)

安堵と落胆が、胸の中で渦巻いていた。


「さ、入ろう! イベント楽しもうぜ!」

「そらぽんちゃん、一緒に写真撮ろ!」

「アトラクション回ろう!」

賑やかな声に押されて、空は笑顔を作った。


 イベントは、想像以上に楽しかった。

ゲーム内の街並みを再現したセット、実際に体験できる剣技アトラクション、モンスターの等身大フィギュア──

 そして何より、ギルドメンバーたちと直接顔を合わせて話すことが、新鮮で嬉しかった。

「そらぽんちゃん、本当に優しいんだね」

不気味だいふくが、笑顔で言った。

「ゲームの中でも、いつも気配りしてくれるけど、リアルでもそうなんだね」

「そ、そんな……」

「いやいや、本当だよ。みんな言ってるよ」

そんな風に、認めてもらえることが──空には、とても嬉しかった。


 *****


 その日の夜。

ギルドチャットは、オフ会の話題で持ち切りだった。

「そらぽんちゃん、めちゃくちゃ美人だったな!」

「マジで! モデルかと思ったわ」

「写真撮らせてもらっちゃった」

「いいな〜、俺も行けばよかった」


 空は、照れながらもチャットを返した。

「み、みんなありがとう……」

「アストラ、お前いなくて残念だったな!」

「うん……都合つかなくてごめん」

アストラの声が、少し沈んでいるように聞こえた。

「でも、楽しそうでよかった」

「次は絶対行くから!」


(次……)

空は、少し複雑な気持ちになった。


次があれば、アストラに会える。

でも、それは同時に──

嘘が、いちばん近づく瞬間でもある。


会えなくてよかった。

でも……会いたかった。


 突然、プライベートチャットの通知が鳴った。

アストラからだ。

<そらぽん、ちょっといい?>

<うん、どうしたの?>

<あのさ……美人って言われてたけど、オフ会で嫌な思いとかしなかった?>

 その言葉に、空は胸が温かくなった。

<大丈夫だよ。みんな優しかったし、楽しかった>

<そっか……よかった>

 アストラの声が、ほっとしたように響く。

<みんないい奴だってのは知ってたけどさ。美人だって知ったらリアルで豹変する奴もいるから>

<だから、変な奴に絡まれたりしてないか心配で>

<ありがとう、アストラは優しいね>

<そんなことないよ。当然のことだし>

 空は、画面を見つめながら微笑んだ。

(アストラは、いつもこうだ)

人のことを気遣って、優しくて──

(好きだな……)


 その感情を、もう否定することはできなかった。


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