「女装して、行くしかない!」
日が経つにつれて、そらぽんはアストラのことを少しずつ知っていった。
学校では、かなりモテているらしい。
「アストラってさ、リアルでも人気者なんだろうな〜」
あるギルドメンバーがそう言うと、アストラは慌てた様子で否定した。
「そんなことないって!」
「いやいや、この前バレンタインのチョコもらいすぎて食べるのに困ったとか普通に言ってたじゃん」
「あ、あれは……。ただの友チョコってやつで……」
「でも下級生の女の子からもいっぱいもらったらしいやん」
「下級生の女の子まで友達? どっちにしろモテまくりだろー」
「まあまあ、アストラはモテる自覚ないタイプだからな」
「フレンドも多いしな、天然たらしってやつ?」
「ち、違うから!」
その話を聞いていて、そらぽん──空は、自然と無口になる。
(アストラの中身は……きっと、明るくて活発で、みんなに好かれる少年なんだろうな)
自分とは正反対。俺なんかとは、全然違う……。
その時。アストラが叫んだ。
「俺は、そらぽんがいればそれでいいから!」
一瞬静まり返るギルドチャット。そして──。
「うわー!これって愛の告白やん!」
「アストラ、だいたーん!」
「ち、ちがっ……」うろたえるアストラ。
そらぽんは、一瞬唖然とし、
「……ふふっ」
思わず笑った。
一瞬浮かんだ負の感情など、どこかに消えてしまった。
(ずっと、一緒に遊べたらいいのにな)
そらぽんは、画面の向こうのアストラを見つめながら、そっと思った。
それからというもの、まるで約束したわけでもないのに、二人のログイン時間は自然と重なっていった。
「今日もそらぽんとアストラは一緒だね〜」
ギルドチャットで、不気味だいふくがからかうように言う。
「ほんと仲良しだよな、お前ら」
「もう夫婦みたいなもんじゃん」
「ち、違うって!」
アストラが慌てて否定する。
「ただの相棒だし!」
「相棒ねえ〜」
ひのきのぼうが、意味深に笑う。
「でもさ、二人で移動するの大変じゃない? 」
「さっきもアストラが北のフィールドにいて、そらぽんが南のダンジョンにいたから、合流するのに時間かかってたし」
「あ、確かに……」
そらぽんが頷く。
待ち合わせ場所まで移動するのに、十五分以上かかることもしばしばだった。
「転送ポイントまで遠い場所だと、もっとかかるしな」
「だったら、結婚すれば?」
突然、ギルマス──バーンが、あっさりと言った。
「け、結婚!?」
そらぽんとアストラが、同時に声を上げる。
「そうそう。結婚システムって便利なんだぞ」
「え、どういうこと?」
「結婚スキルの中に『絆の召喚』ってのがあってさ。お互いの元へ瞬時に飛べるんだよ。クールタイムは一時間だけど、移動の手間が省けて超便利」
「マジで!?」
「それに、『愛の祝福』っていうペアでいる時だけ能力が強化されるスキルもある。攻撃力と回復力が15%アップ」
「へえ……」
「しかも」
ひのきのぼうが、得意げに続ける。
「ログインしてない時に使わなかったスキルの使用回数は、繰り越しでストックされるんだ」
「ストック?」
「そう。例えば『絆の召喚』は一日三回まで使えるんだけど、その日使わなかったら次の日に持ち越せる。だから時間が合わなかった日があっても、回数が無駄にならない」
「なるほど……」
そらぽんは、少し考え込んだ。
確かに、便利そうだ。アストラとの冒険がもっとスムーズになる。
でも──結婚、って。
「じゃあさ」
アストラが、突然言った。
「俺たち、結婚する?」
「え!?」
「だって、便利じゃん! それに──」
アストラの声が、少し真剣なトーンになった。
「俺、そらぽんと一緒にいるの、すごく楽しいし。ゲームの中だけの結婚だけど……俺は嬉しいな」
そらぽんの胸が、どくん、と高鳴った。
「アストラ……」
「そらぽん」
アストラが、まっすぐにそらぽんを見つめる──ように感じられた。
画面越しでも、その視線の熱さが伝わってくる。
「俺と、結婚してください」
まるで、本物のプロポーズのような熱意が、アストラの声に込められていた。
ギルドチャットが、一斉に沸騰した。
「おおおお!?」
「プロポーズきたああ!」
「そらぽんちゃん、どうする!?」
「これは、もう、YESしかないでしょ!」
「アストラ、男前すぎるだろ!」
空は、モニターの前で真っ赤になっていた。
(これ、ゲームの中の話だよね……?)
(でも、すごく……嬉しい)
「……うん」
そらぽんは、か細い声で答えた。
「よろしくね、アストラ」
「やった!!」
アストラの喜びが爆発したような声が響き、ギルドチャットが祝福のメッセージで埋め尽くされた。
「おめでとう〜!」
「ついにこの日が来たか!」
「結婚式やろうぜ!」
「ギルドみんなで祝おう!」
「幸せにしろよ、アストラ!」
「任せろ!」
こうして──そらぽんとアストラは、ゲーム内で結婚することになった。
それから数日後。
ギルドメンバー総出の、盛大な結婚式が執り行われた。
配られた虹色の花びらのアイテムをばら撒いて祝福するギルメン。
その中央には、緊張した面持ちのそらぽんと、満面の笑顔のアストラがいた。
(彼を傷つけることだけは、できない)
空は、アストラの笑顔を見つめながら、改めて誓った。
*****
「おおーい、みんな見た!? 公式サイト!」
ある日のギルドチャットに、ひのきのぼうの興奮した声が響いた。
「なになに? また新イベント?」
「それもあるけど──リアルイベントだよ! 『エピキュクルス・オンライン』の世界を再現した体験型イベント!」
「マジで!?」
ギルドメンバーたちが一斉に食いついた。そらぽんも、慌てて公式サイトにアクセスする。
画面には、豪華な告知が表示されていた。
ゲーム内の街並みや森を再現したセット、実際に体験できるアトラクション、限定アイテムの引き換えコード配布──
「すげー! 行きたい!」
「これ、全国五都市で開催だって」
「あ、俺たちの地域でもやるじゃん!」
「マジ? じゃあ行こうぜ!」
「どうせならオフ会兼ねちゃう?」
オフ会──その単語が出た瞬間、空の背筋に冷たいものが走った。
「いいねいいね! ギルドメンバーで集まろう!」
「何人集まれるかな?」
「俺行ける!」
「私も!」
次々と手を挙げるメンバーたち。
(やばい、やばいやばい……!)
胸の鼓動が早くなるのが自分でもわかる。
オフ会に行けば、顔を合わせることになる。「そらぽん」が女性ではなく、男だとバレてしまう。
何か断る理由を──
その時だった。
ガタガタガタッ──
部屋が揺れた。
「じ、地震!」
空は思わず声を上げた。地震だ。そこまで大きくはないが、はっきりと揺れている。
幸い、数秒で揺れは収まった。空は、安堵の息を吐いて──
そこで気づいた。
マイクがオンになっている。
ギルドチャットに、自分の声が流れていた。
「え、今の悲鳴……そらぽん?」
「地震だって言ってなかった?」
「マジで? 俺の地域も今揺れたぞ」
「ああ、俺もだ」
「じゃあそらぽんも同じ地域なのか!」
空の顔から、血の気が引いた。
「そらぽんちゃん、大丈夫!?」
「怪我してない!?」
「そらぽん!」
アストラの声が、心配そうに響く。
「だ、大丈夫です……すみません、驚いて……」
何とか返事を返す。だが、もう遅かった。
「近くに住んでるなら、そらぽんもオフ会来れるじゃん!」
「そうだそうだ! 一緒に行こうよ!」
「楽しみだな〜、そらぽんちゃんがどんな子か」
空は、頭が真っ白になった。
断る理由が──思いつかない。
毎日ログインしている。ギルドイベントにも積極的に参加している。同じ地域に住んでいることもバレた。
今さら「都合が悪い」と言えば、不自然すぎる。
「そらぽん……?」
「……わ、わかりました。行きます」
空は、震える声でチャットを返した。
「やった!」
「楽しみだね!」
「じゃあ詳細決めよっか!」
賑やかなギルドチャット。
その向こうで、空は一人、頭を抱えていた。
アストラにだけは、中身が男だなんて、しかもこんな冴えない奴だなんて、知られたくない。
彼を、がっかりさせたくない。
(どうしたらいいんだ……)
悩み抜いた挙げ句。空は、とんでもない結論に達した──。
「女装して、行くしかない!」
初めてリアクションをいただきました! 押してくださった方、本当にありがとうございます。
改稿前の前作に評価ポイントを入れていただいた方々も、本当にありがとうございます。
改稿版となる今作を完成させる上で、励みとさせていただきました…!




