ようこそ、「今夜も寝落ち団」へ
その後、アストラと何度か遊んだ後のある日。そらぽんは、アストラからギルドに誘われた。
「ねえねえ、そらぽん。俺のギルドに入らない?」
ギルド──プレイヤー同士で結成するチーム。最大で五十人まで所属でき、専用のチャットルームやギルドホールが使える。
「俺のギルドは『今夜も寝落ち団』っていうんだけど、名前の通りまったり系のエンジョイ勢ばっかりだから気楽だよ! 」
「そらぽんみたいな優しい子、きっとみんな歓迎してくれるよ」
そらぽんは少し迷った。
ギルドに入るということは、もっと多くの人と関わるということだ。女性キャラを演じ続けなければならない場面も増える。
でも──
「アストラさんがいるなら……」
「おっ、いいの!? やった!」
「それと、俺のことはアストラって呼び捨てにして! 敬語もなしね!」
アストラの喜ぶ様子が、テキストからでも伝わってくる。そらぽんは、小さく笑った。
「うん、わかったよ。アストラ」
(この人と一緒なら、大丈夫かもしれない)
こうして、そらぽんは「今夜も寝落ち団」の一員となった。
*****
ギルドメンバーは、本当に気さくな人たちばかりだった。
ギルドマスターは「バーン」という豪快な戦士。副マスターの「不気味だいふく」は名前に似合わず優しい魔法使い。他にも、個性豊かなメンバーが二十人ほど在籍していた。
「そらぽんちゃん、よろしくね〜!」
「アストラの紹介なら安心だ! 歓迎するぜ!」
「かわいい〜! ヒーラーさんありがたい!」
(緊張したけど、思ったより優しそうな人ばかりで良かった……)
それからというもの、そらぽんとアストラはペアで冒険することが多くなった。
森のダンジョン、古代遺跡、湖畔のフィールドボス──二人で駆け抜けた場所は数え切れない。
アストラの軽快な剣技と、そらぽんの的確なヒール。コンビネーションは日に日に磨かれていった。
そして、冒険の合間に──二人はよく、他愛のない話をした。
ある日、湖のほとりで休憩していた時のこと。
「アストラって、リアルではどんなことしてるの?」
何気なく尋ねると、アストラは少し考えてから答えた。
「俺? えーっと、高校生だよ。最近はギターばっかり弾いてるかな」
「ギター! かっこいいね」
「兄貴が就職して家出る時に置いてったんだよね。最初は暇つぶしだったんだけど、弾いてるうちにハマっちゃってさ」
「ギターってさ、弦を抑えるから左手の指先が固くなるんだよ」
ギターをやったことのない空にはよくわからないけど、空手家の拳も突きの練習で固くなると聞く。
(そんな感じなのかな?)と納得する。
「中学の時はサッカー部だったんだけどね」
アストラの声──プリセットボイスの、明るい少年の声──が、どこか懐かしそうに響く。
「ギターにサッカー! 陽の者だ……」
「まあ、辞めちゃったんだけど」
アストラの声が、少しトーンを落とした。
「背が伸びなくてさ。男子ってどんどん大きくなるじゃん? 俺、中学の途中で止まっちゃって」
「フィジカルで勝てなくなって……ああ、これが限界かなって」
そらぽんは、何も言えなかった。
(背が伸びなかった……)
それは、空自身が抱えていたコンプレックスと重なる悩みだった。
小柄で華奢な自分。「男らしくない」と言われ続けた自分。
「でもさ、ギターは楽しいよ! 背の高さとか関係ないし、自分のペースで上達できるし」
アストラの声が、また明るさを取り戻した。
「そらぽんは? 趣味とかある?」
「わ、私は……その、読書とか……」
「へえ! どんな本読むの?」
「ファンタジーとか、SFとか……」
「いいね! 俺もたまに読むよ。今度おすすめ教えてよ」
何気ない会話。でも、空にとっては──久しぶりの友との語らいが、嬉しかった。




