ずっと、ふたりで
大騒ぎのネットとは対照的に、
その日の街は、やけに平和だった。
「……なんでこうなったんだっけ」
空――いや、そらぽんは、ショーウィンドウに映る自分を見て、真顔で呟いた。
長めのウィッグ。
ナチュラルメイク。
柔らかな色合いのワンピース。
どう見ても、可愛い女の子だった。
「やっぱり美人。すっごく似合ってるよ」
隣で、美月が心から楽しそうに笑う。ぎゅっと空の手を握り、腕はしっかりと絡めている。
「ありがとう……いや、そうじゃなくて!」
「配信大成功のお祝いデート、でしょ?」
「それはそうだけど……」
そらぽんは、少しだけ視線を逸らした。
「見た目女同士で、こんなにくっついてるの、ちょっと恥ずかしいなぁ……」
美月は一瞬だけ瞬きをして、それから指を一本立てる。
「だってね」
「今の私は、表向き“彼氏いません”のアイドルだから」
「うん」
「でも、そらぽんは“彼女”だから」
「論理がおかしい!」
くすくすと笑いながら、美月はそらぽんの腕に絡んだ。
「久しぶりだね。こうやって二人で出かけるの」
「俺は美月の……彼女。……彼女かぁ……」
通りすがりの人たちが、二人を見て微笑む。
仲の良い女の子同士──。いや、仲が良すぎるように見えるかも知れない。そんな距離感。
「ねえ、空くん」
「今はそらぽん!」
「じゃあ、そらぽん」
美月は少しだけ声を落とした。
「ちゃんと、言ってほしいな」
今までとは打って変わって、真面目な顔で、足を止める。
真剣な空気。
それを察し、空は深呼吸して、そらぽんの姿のまま、まっすぐ美月を見た。
「美月」
「うん」
「俺と……正式に、恋人として付き合ってください」
大きな瞳をちょっと瞬いたあと、美月は、迷いのない笑顔で言った。
「喜んで」
「即答!?」
「だって、断る理由ある?」
「……いえ、嬉しいです」
二人で、思わず笑ってしまう。
少し歩いてから、空が気まずそうに切り出した。
「でもさ……アイドルって、彼氏厳禁なんだろ?」
「うん」
「嘘つかせることになるよな……ごめん」
美月は首をかしげ、少し考えてから、にやっと笑った。
「空くん」
「なに」
「“彼氏いますか?”って聞かれたらね」
「うん……?」
胸を張って、堂々と。
「ゲーム内で結婚した、大好きな彼女がいます! そう宣言するから」
「それ、嘘じゃないけど誤解を生む!」
「でしょ?」
二人で声を出して笑う。
ひとしきり笑ったあと、空はぽつりと、こぼした。
「……俺、こうやって一生そらぽんやってるのかなぁ……」
美月は立ち止まり、そらぽんを見上げる。
「ねえ、そらぽん」
「……なに?」
「それって、一生、私と付き合ってくれるってこと?」
一瞬、思考が止まる。
顔が熱くなるのが、自分でも分かった。
「……そ、それは……」
美月は、当たり前みたいな口調で言った。
「大丈夫だよ」
「アイドルは、いつか卒業するから」
少しだけ距離を詰めて、柔らかく笑う。
「アイドル辞めても――一生、付き合ってね!」
「……ずるいだろ、それ」
「えへへ」
そらぽんは小さく息を吐いて、笑った。
「……じゃあ、よろしくお願いします。一生分」
夕暮れの街。
女装した彼氏と、アイドルの彼女。
人には言えないことだらけだけど、
気持ちだけは、最初から最後まで本物だ。
「ねえ、そらぽん」
「なに?」
「次はどこ行く?」
「……普通のデートコースでお願いします」
「じゃあ、春物のスカート見にいこ! 双子コーデで」
「女子か!」
笑い声が、街に溶けていく。
こうして――
伝説のギルドマスター改め現在美少女アイドルの少女と、
美女だけど陰キャ男子な二人の恋は、
少し変だけど、幸せなかたちで、
これからも、続いていくのだった。




