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ネカマバレしたくない俺、相棒にベタ惚れされて女装で会いに行ったら美少女でした【大幅改稿版】  作者: 谷三
エピキュクルス・オンライン:リターンズ ~伝説の女帝はアイドルに、ネカマな俺は彼氏になりました~
27/30

新人アイドル、アンバサダーに就任です!

 

 新人アイドルとして、美月の活動が起動に乗ってきた頃──。


「え!?」

 空は、絶句した。


「そうなの。私、エピキュクルスのアンバサダーに指名されちゃって」

 美月はいたずらっぽい顔で笑った。


「それって、向こうは美月が『ルナ』だって知ってるの?」

「うーん、多分知らないと思う。知っているのは運営さんのほんの一部だけで、多分広報の人は知らないんじゃないかな」


 なんという偶然。


「で……。当然、ルナってことは内緒なんだよね?」

「うん。初めてプレイする人が感情移入できる初心者として、公式番組でゲームプレイしてくださいって」

「初心者……」


 空は頭を抱えた。

 目の前にいる可愛らしい女の子は、初心者どころか、唯一全土統一を成し遂げたガチ勢を率いていた伝説のマスターなのだから。


「あ、それとインフルエンサーとして蓮さんも一緒に出演するんだって。あの騒動の時、すごいバスってたもんね。蓮さん」

 しっかりものの蓮がフォローするなら、なんとかなるだろうか。

 一抹の不安を抱えながら、空は「頑張ってね……」と言うしかなかった。


 事件は、公式ネット番組の開始三分で起きた。


『本日は! エピキュクルス・オンライン公式アンバサダーとして、

 新人アイドルの美月さんと、有名プレイヤーの蓮さんにお越しいただいています!』


 拍手SE。

 コメント欄はすでに高速スクロール。


『美月ちゃんだ!』

『かわいいいいい』

『蓮きたあああ』

『初心者プレイ配信だって?』


 空は、自室のパソコンの前で正座していた。


(初心者……初心者ね……)


 画面の中で、美月は可憐に微笑んでいる。

 完全に“何も知らない新人さん”の顔だ。


「今日は初めての冒険なので……右も左も分からなくて……。蓮さんに、教えてもらおうと思います」


『可愛い』

『守りたい』

『初々しい』


 ――ここまでは、完璧だった。


 問題は、キャラ操作が始まってからである。


「じゃあまず、街の外に出てみましょうか」


 蓮がそう言った瞬間。


「はい! じゃあ、初期クエ受注して、

 移動速度上がるバフだけ先に取りますね!」


『……』

『……』


 コメント欄が、一瞬だけ止まった。


 空は画面の前で叫んだ。


(初心者が! 初手で! バフ取るな!!)


 蓮の笑顔が、ほんの0.3秒ほど固まった。


「……えっと、美月さん? それ、どこで知ったんですか?」


「あっ……!」


 美月は、はっと口を押さえる。


「えっと……勘です!」


『勘で取れる知識じゃない』

『初心者とは』

『???』


 蓮は内心で頭を抱えていた。


(まずいまずいまずい)


 その頃、空は一視聴者として必死にコメントを打っていた。


『最近の初心者さん、攻略動画見てる人多いですよね!』

『配信前にちょっと予習したんじゃ?』

『今どきの子は情報収集力すごい』


 ――流れろ!

 頼むから流れてくれ!!


 ……美月はその後もやらかし続けた。


 初見では見切れないような、敵の鋭い攻撃。

 しかし──。

 長年プレイしてきた反射的な反応なのか、あるいは棒立ちで食らうのは上級者プレイヤーとしてのプライドが許さなかったのか……。

 美月は、あっさりとかわす。


 『すげえ!』

 『スーパープレイやん』

 『本当に初心者?』


 蓮の額に、見えない汗が浮かぶ。


「す、すごい反射神経ですね!」


 必死なフォロー。

 しかし美月は、さらに自然に続ける。

「この敵、詠唱長いから後ろ取れますね!」


『初心者???』

『完全に分かってる動き』

『プロの匂いがする』


 空はもう、キーボードを叩きながら半泣きだった。


『初心者なのにセンスありすぎるだけです!』

『才能型だ!』

『初見でも分かる人は分かる!』


(俺は何をしているんだ……)


 番組後半。


 蓮からのお叱りがあったのか、美月は「初心者らしい」プレイに徹していた。


 だが──。

 ミスを装おうとして、逆に最適解を引いてしまうという奇跡を連発していた。

 何もいないところに撃った、暴発したはずの魔法が隠れていた敵にクリティカルヒット。

 ダンジョンで道に迷ったはずが、致命的な罠をピンポイントで回避。


「え? 今の、そんなにすごいですか?」


『天然でやってるのが一番怖い』

『これは伝説級』


 蓮は、もはや笑顔で悟りを開いていた。


「……美月さん、すごいですね。本当に」


「えへへ……?」


 配信終了。


 コメント欄は、微妙なざわつきを残したまま幕を閉じた。


『何かがおかしい』

『お前のような初心者がいるか』

『でもかわいいからヨシ!』


 パソコンの前で、空はぐったりと椅子に沈んだ。


「危なかった……」

 ……というかこれは、はたしてセーフなのか?


 スマホが震える。


【美月】

『ごめん……もう体に染み付いちゃってるんだよね、このゲームが』


【空】

『頼むから初心者の演技して……』


【美月】

『だって楽しかったんだもん』


 画面越しに、美月の笑顔が浮かぶ。

(美月って、こういう子なんだよな……)

 一見清楚で大人しそうな美月だが、内面は結構活発でいたずら好きなことを、相棒としての長い付き合いで空は知っていた。

 でも、そのギャップが、可愛い。


 視聴者たちにも、違和感は、確かに広がっていた。

 でもそれは、不信でも不快でもなく――


「なんかおかしいけど、面白い」


 そんな、温度だった。


 空はため息をついて、画面を閉じる。


(この人、どこに行っても目立つな……)


 伝説の予感は、

 すでにコメント欄の向こうで、芽を出していた。


 *****


 最初に気づいたのは、声だった。


「……あ」


 配信アーカイブを何気なく再生していた元ギルドメンバーの一人が、思わず呟いた。


 美月が、画面の中で笑っている。

 初心者役を演じながら、少し照れたように首を傾げる仕草。


「……これ」


 聞いているだけで落ち着く綺麗な声。

 言葉の紡ぎ方のテンポ。

 照れたときに首を傾げる癖。

 そして、何より──結果的にギルドを崩壊させてしまった、「傾国の美少女」の魅力的な笑顔。

「うちの、ギルマスじゃん……」


 *****


 別の場所でも、同じような反応が起きていた。


「美月ちゃん、うまいなぁ……」


「……うまい、っていうか」


 画面を止めて、スロー再生。


 キャラの立ち位置。

 敵の誘導。

 ヒーラーなのに、全体を見渡す視線。

 敵がスキルを発動しようとしたときの、的確な妨害。


「これ……ルナだよな」


 しかし、誰も騒がなかった。


 SNSに書く者はいない。

 掲示板に投下する者もいない。


 彼らは、ただ黙って画面を見つめていた。


 かつて、ルナが崩壊したギルドの中心にいたことを、彼らは知っている。

 そして、彼女がどれだけ傷ついたかも。


「……幸せそうで、よかった」


 元ギルドメンバーたちは、気付いたことを、こっそりと、そして大切に胸の中にしまい込んだ。


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