嘘だった私たちが、本当になるまで
週末の午後。
駅前の広場は、まるで祭りのように賑わっていた。
「ねえ、あれ……。蓮じゃない……!?」
「マジ!? 本物の萩原蓮!?」
「え、隣の二人誰!? 美女と美少女連れて歩いてるんだけど!?」
歓声がどっと巻き起こり、スマホが向けられる。
その中心にいるのは――蓮、美月、そして空の三人だ。
蓮はさすが有名モデルらしい落ち着いた足取りで歩き、
美月は人目を一切気にせず楽しげにスイーツ店の袋を揺らし、
そして空は……。「そらぽんスタイル」の女装姿で、そわそわしながら二人の後ろを歩いていた。
「……すっごい視線を感じる……。死ぬ……」
「そらぽん、背中丸まってるよ? ほら、しゃんと」
「む、無理ぃ……、蓮と美月が並んでる時点で美形オーラが渋滞してるのに……」
蓮は笑って肩を竦めた。
「空、今日のコーデ完璧だよ。だって僕がコーデしたんだからね。自信持っていい」
そう言われても、空の心臓は落ち着かない。
道行く人は、彼らを見るたび目を丸くしている。
「蓮くん、リアルでも美人連れてる!」
「モデル仲間かな?」
「ちっちゃい方の子超美少女すぎてヤバっ!」
「後ろのすらっとした子も、めっちゃ美人じゃね……!」
(だから死ぬってば……!)
そんな空の腕を、美月がつん、と引っぱった。
「ねえ、空くん」
不満げな、むすっとした顔。
美月がこんな表情をするのは珍しい。
「……どうして今日、三人で遊ぶの?」
「え?」
「どうして……空くんと、わたしの二人きりのデートじゃないの?」
蓮が「あー、ほら来た」と言わんばかりに笑いを押し殺し、
美月は空を見上げる。
「ねえ、空くん。今日……そらぽんの格好で来たの、どうして?」
直球すぎて、空は言葉に詰まった。
「似合ってるし、いいんじゃないの?」と呑気な蓮。
少し間を置いて、ぽつりと空から本音がこぼれる。
「……まだ、自信がないんだ」
「自信?」
「二人でデートするなんて……、しかも横にいるのが冴えない男の俺だなんて……、もう少し、時間が欲しいというか……」
視線を落としたまま、空は続けた。
「かといって三人でも、蓮みたいな美形と、美月みたいな正真正銘の美少女と並んで……」
「『空』のままで歩くって、怖いんだよ。だから……、そらぽんなら、まだ……」
言い終わる前に、美月はふっと表情を和らげた。
「……そらぽんの君も、好きだよ?」
柔らかく微笑む。
ほんの少し、照れたように。
「でもね。今度は……、『空』くんと、二人だけでデートしたいな?」
空は顔を上げて美月の微笑みを見た。
その笑顔は、かつてギルドチャットで話題になった「傾国の美少女」――ルナの微笑みに重なる。
「う、うん……。わかった……」
(これが……傾国の美少女スマイルか……)
カンカンカンカン。脳内でレフリーストップのゴングが鳴る。空は完全にノックアウトされた。
蓮が横でくすくすと笑っている。
「ほら、どっちも顔赤い。やれやれだね、若いなあ二人とも」
「蓮くんだって大して歳変わらないじゃない。何おじいちゃんみたいなこと言ってるの」
軽口を叩きながら──美月は空の手をそっと取る。
空は驚き、けれど拒めなくて――結局、そのままで街を歩き続けた。
騒がしい街の声も、スマホを向ける人々の視線も、
握られた手の温もりのせいか、今はもう、それほど怖くない。
空と美月。
そして蓮という、少し変わった友人。
三人の関係は、これからもきっと賑やかに続いていく。
そして、空と美月の距離も――ゆっくり、確実に、縮まっていくだろう。
全てが嘘から始まった関係。それでも。
二人の手を繋ぐ温もりは、この瞬間の、偽りのない「真実」だから。
あとがきです。
この話にはなろうに投稿済みの、大筋が同じなプロトタイプがあるのですが、アストラ=美月が女の子だということは展開の都合上伏せていたので、BLを期待して読む方がいる可能性や、逆に本来のターゲットである女装男子×美少女を好む方に届かないのではないかと思い改題しました。
また、本来はもっと楽しいラブコメを予定していたのですが、プロトタイプでは思ったよりシリアスに寄ってしまい、
空が辛い目に遭うシーンや罪悪感を抱えるシーンの描写が意図したよりかなり多めになっていたため、女装によるドタバタなエピソードを増やしてもっとコメディに寄せたいなと思い再構成したりエピソードを追加するなどして書き直しました。
また、蓮は好きなキャラなのですが、ちょっと完璧超人かもしれないと思ったので内面では結構苦労してるんだよというギャグテイストの番外編を書き、掘り下げました。
意図したところが上手く行っているかわかりませんが、楽しんでいただけたら幸いです。
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最後まで読んでいただきありがとうございました。




