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ネカマバレしたくない俺、相棒にベタ惚れされて女装で会いに行ったら美少女でした【大幅改稿版】  作者: 谷三
エピキュクルス・オンライン ~伝説の女帝とネカマな俺~
19/30

みんなの世界を守る戦い


【─バフの効果時間は1時間です!それまでに、協力してボスを倒しましょう!─】

「ルナ」のワールドチャットが響く。


 怒涛の勢いで「始まりの丘」からアントクイーンの巣の最深部へと、団結した大集団が押し寄せる。

美月──ルナ──を先頭に、空も蓮も、そのうねりの一部となった。

雑魚はあっというまに倒されていく。


「これなら楽勝だな!」


「いや、ボスはこんなもんじゃない! 油断するな!」

天狼星のギルドの旗をつけた、上級者らしきキャラが檄を飛ばす。


 最深部。巨大でおぞましい昆虫型のモンスターが、巣の中央に鎮座していた。


「こいつがボスか……」


 アントクイーン。今回の事件の元凶。


「こいつを倒さなければ、未来はない!」

空は自然と手を強く握りしめていた。


 全体チャットによるルナの指揮が飛ぶ。

【─アントクイーンは頭を切り落とさない限り再生します! アタッカー職は頭を集中攻撃し、タンク職は手足からの攻撃からみんなを守って!─】

【─ヒーラー職はタンクにヒールを! 毒を食らった人がいたら、キュアの呪文を使える人はすぐに毒を治してあげてください!─】


「うわっ!」


 叫び声。

空が振り向いた瞬間、初心者装備の少年キャラが宙を舞っていた。


(――え)


 理解が追いつかない。

さっきまで、確かに隣にいたのに。


 少年の体力ゲージが――一瞬で、真っ赤に染まった。


「ヒール!」


 考えるより先に、空の手が動いていた。

空のヒールで、HPが安全圏まで戻る。

(あれほど強力なバフがあっても、ボスの一撃では即死しかねないダメージなのか……)

敵の強大さに、あらためて戦慄する。


「ヒール、ありがとう!」

「危なくなったらすぐに下がれ!」

天狼星のギルドメンバーらしきキャラが、傷ついた初心者と入れ替わるようにアントクイーンと対峙する。

 一度は大陸のすべてのボスモンスターを倒したギルドの残党である。

その彼らが、初心者を守って奮闘している。


「なかなかアントクイーンの体力が減りません!」

「バグのせいか!? 俺達が倒した時より数段強いぞ!」

「まずいな、このペースだと削り切る前にバフが切れる…」


 空も、必死にヒールで戦線を支える。しかし──

(負傷者が、多すぎる……!)


 そこに、エリアチャットで声が響き渡った。ヒゲモジャール、蓮の声だ。


「おーい! この段差ギリギリから攻撃すると、左半分からの攻撃が届かないみたいだぞ!」


 右側の崖に殺到するプレイヤー。崖の上からだと、

ヒゲモジャール、つまり蓮の言う通り確かに左半身の攻撃を無効化できているようだ。


「これはいいな! おい、左からの攻撃を受けてた部隊は頭の攻撃に回れ!」


 戦力を集中させたことで、あきらかにアントクイーンのHPの減りが早くなる。

しかし、バフアイコンが危機感を煽るように点滅し始める。これは、バフがあと10分で切れるということを意味していた。


【─みんな、もう少し……。頑張って……─】


「時間がない! もう全員で頭に総攻撃だ!」

誰かが叫ぶ。


 誰も彼も、アントクイーンの頭に突撃する。

死人が出るのも厭わない。


「おい、初心者!そんなに無理するな!」

「構うものか!レベルの低い俺達は再びレベルを上げるのも簡単だからよ!」

「単純な戦力ではあんたらに敵わないけど、俺達でも役に立つってところ見せてやんよ」

特に低レベル帯である彼らの突撃は果敢なものだった。


「もう少し! もう少しだ!」


 しかし──苦しみ暴れるアントクイーンの攻撃が、ますます無差別で、暴力的なものになっていく。


「まずい!」


 天狼星の誰かが叫ぶ。


「長引きすぎた! あれが来るぞ!」

「アルティメット・スローンか!?」

「食らったら全滅するぞ! 本当は、発動させる前に倒すのがセオリーなんだが……。クソッ!」


 アントクイーンの何本もの腕が天を指すと、

 

 頭上に、紫色の光が集まり始める。

 

 みるみる巨大化していくそれは、美しかった。そして、恐ろしいほど禍々しかった。


 (これを食らったら――)


 言葉にならない確信が、空の背筋を凍らせる。

こんな攻撃を防げる盾なんて、どこにも、ない。


(なにか……。なにか、ヒーラーとしてできることは!)

そらぽんが、必死に少しでも軽減できそうなスキルを、使えるスキルから探す。


 禍々しく淀んだ紫色のエネルギー弾は、みるみる間に大きくなり──


 その時、空のインターフェースに見慣れないアイコンが光る。


 ──星影の聖域──。


 こんなスキルは、見たことがない。

「ルナ」の、特殊スキル? でも、なぜ自分が──。


 カーソルを合わせる。説明欄には、

「伝説のマスターとその配偶者が共にヒーラーだった場合のみ使えるスキル」


 そう、書いてあった。


 空は直感した。これは、普段でもよく使っていた結婚スキル、「星影の守り」の進化スキルだ。


 そらぽんは、ルナに個別チャットを送る。


<ルナ! スキル欄を見て!「星影の聖域」を発動させるんだ! タイミングはこっちで合わせる!>


<そらぽん……。うん!わかった!>


 ルナの周りに光のオーラが集まり、詠唱のためのマナを集めだしたことを示す。しかし──。


 アントクイーンの禍々しいエネルギーが、巨大な真球となって、ついに討伐隊全員に放たれた。


「うわああああ!」

「くそっ! ここまでか!」


(間に合え……!)

そらぽんは、ルナを見つめながら祈る。1秒が、数分にも感じる。

ルナのオーラが、最大まで高まりつつあり──

そらぽんは、空は、決して目を離さぬようにその輝きを見つめた。


 呼吸を合わせる。

 いつも、そうしてきたように。


 何度も、ダンジョンを駆け抜けた。

 何度も、背中合わせで戦った。

 何度も、お互いを守り合った。


 (そして、今も――)


 空の指が、アイコンに触れる。


 (いまだ!)


 同時に、二人の光が弾けた。


 金色と銀色。

 そらぽんのオーラと、ルナのオーラが――

 交わり、混ざり合い、螺旋を描いて天へと昇る。


 それは、まるで二つの魂が一つになったかのような、眩い光。


 アントクイーンの紫の球体が、光のバリアに呑み込まれ、

 

 ――消滅した。


 「……おお」


 静寂。誰かの、呆然とした声だけが、その場に響いた。

(成功した……。ルナと、寸分違わぬタイミングで、「星影の聖域」を発動させられた……)

それは、いつも二人で冒険してきたから、ずっとアストラを守り続けていたからゆえの阿吽の呼吸だった。


「アルティメット・スローンが……。消えた!」

「そらぽん」のオーラと、「ルナ」のオーラが混ざり合い、

オーロラのようなバリアとなって、アントクイーンの「アルティメット・スローン」はかき消えた。


 しかし代償のように、そらぽんとルナは、同時に倒れ込む。

<MP、使い果たしちゃったね……。私も、そらぽんも、もう動けない。あとは、みんなが……>


「助かったぜ!」

「ル、ルナ様! ありがとう!」

「あとは俺達が倒すだけだ!」


 ──しかし無常にも、バフが切れるカウントダウンが始まる。


「10…9…8…」


 空の手が震える。画面の向こうで、無数のプレイヤーが必死に剣を振るっている。


「7…6…」


 アントクイーンの巨体が、まだ蠢いている。

体力ゲージは――わずかに、残っている。

「まだ倒れないのかっ……!」

悲鳴のような声。


「5…4…」


「何も考えず全力を出せっ……!」

全員が、決死の覚悟で突撃を繰り返す。


「3…2…」


「もう少し、もう少しなんだっ……!」

(お願いっ、みんな……!)

美月のMPゲージは空っぽだ。もう、祈ることしかできない。


「1……」


 バフがついに切れようとしたその時──。


 ──激戦の終わりはあっけなく訪れた。


 「グオオオオオオオオォ!!……」


 プレイヤーたちの集中攻撃を受けた「アントクイーン」は、断末魔の叫びと共に力尽きた。


 ドオオオオオオンンン……。轟音と共に巨体が倒れ、

地響きが、空の足元まで伝わってくる。


「やった!」


「倒した! 倒したぞ!」


 ──歓声が、アントクイーンの巣にこだました。


 消滅するアントクイーン。同時に、サーバー負荷のメッセージも嘘のように消え去った。


 最難関コンテンツであるエリアボスに、多数の初中級者を抱えて挑んだ討伐だったが、

伝説の強力なバフ、そして最高位クラスのヒーラーである「ルナ」と「そらぽん」の合体防御魔法により、

大量の消耗品は使ったものの、懸念されていた被害はほとんど出ることがなかった。


 その代わり、封印されていた間の長い時間経過により強化されていたルナのバフは、

もうこれほどの効力を発揮することは二度とないだろう。


「お前ら、初心者っていうけどやるじゃねえか! 見事な突撃だったぞ」

「あんたらの指揮凄かったな! さすが上級者プレイヤーって言われるだけあったぜ」


 初級者たちは上級者たちが惜しみなく使った消耗品による支援と、その確かなプレイヤースキルに感服し、

また上級者たちも、何もできないと高を括っていた初級者たちの果敢な突撃による貢献を認め、

お互いの間で生じていたわだかまりが、この戦いで溶けていくようだった。


 すべてが終わった。

 静寂が戻った世界に、ふたたびルナの声が響き渡った。


【ワールドチャット:伝説のギルドマスター・ルナ】


【みんな、ありがとう。】


【私は、キャラを変えて、まだこの世界にいます。】


【今日、私たちは一つになれた。その力を、どうか忘れないで。】


【上級者の皆さん。目の前の困っているキャラは、ひょっとしたら、あなたのゲームライフを彩る、大事な人かもしれません。】


【優しく、手を差し伸べてあげてください。】


【この世界を、憎しみではなく、優しさで満たしてください。】


 それが、伝説のギルドマスター「ルナ」が世界に残した、最後の言葉となった。

美月は、かつて混乱をもたらした自分の過去を、優しさへ満ちる未来へと変えてみせたのだ。


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