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ネカマバレしたくない俺、相棒にベタ惚れされて女装で会いに行ったら美少女でした【大幅改稿版】  作者: 谷三
エピキュクルス・オンライン ~伝説の女帝とネカマな俺~
14/30

【番外編】ヒゲモジャール、大いに暴れる


 午後の表参道。平日だというのに、通りは買い物客で賑わっていた。

その中を、ショートボブの美しい人物が歩いている。

今日の萩原蓮は、少し女性寄りのファッション──白いブラウスにハイウエストのワイドパンツ、足元は黒のローファー。


「あっ、蓮くんだ!」

声をかけられる。蓮は、完璧な笑顔で振り返った。


「こんにちは」

「写真いいですか?」

「どうぞ」


 スマートフォンを向けられ、ポーズを取る。慣れた動作。一日に何度も繰り返される、日常の一コマ。

写真を撮り終えた女性たちが去っていく。蓮は、また歩き始めた。


(さて、カフェでも──)

「蓮さん!」

また声がかかる。今度は、若い男性グループだった。

「あの、ファンなんです!」

「ありがとうございます」

蓮は、にこやかに応じた。


「あの……質問いいですか?」

「はい、どうぞ」

「なんで、女物の服着てるんですか?」


蓮の笑顔が、一瞬だけ──本当に一瞬だけ、固まった。


 でも、すぐに元に戻る。

「好きだからですよ。それだけです」

「へえー、でも男なのに女物って──」

「服に性別なんてないと思いませんか?」

蓮は、丁寧に、穏やかに答えた。完璧な、モデルとしての対応。


 男性たちは、「なるほどー」と納得したように頷いて去っていった。


 蓮は、深呼吸をした。

(……大丈夫。よくあることだ)


 カフェに入り、コーヒーを注文する。窓際の席に座り、スマートフォンを取り出した。

SNSを開く。自分の名前で検索すると──。

『萩原蓮、今日も中性的ファッションで街を歩く』

『ユニセックスの先駆者、蓮の私服センスが話題』

そして、その下には──。

『男と女、どっちもいけるの?』

『性的指向も中性なのかな?』

『付き合うなら男?女?』


 蓮は、スマートフォンの画面を伏せた。

(……こういうの、本当に嫌だな)

コーヒーを飲み干し、会計を済ませる。店を出ると──。


「おい、見ろよ。あれモデルの蓮じゃない?」

少し離れたところから、男性たちの声が聞こえた。

「マジ? あー、本当だ!」

「リアルだとマジ美人だな!」

「でも、結局は男だろ?」

「えー、でもあれだけ綺麗なら、俺は全然アリかも」

クスクスと笑い合う声。


 蓮は、笑顔を保ったまま──足早に、その場を離れた。

(……性別とか、関係ない、か)

(そういう問題じゃないんだけどな……)


 駅に向かう途中、今度は若い女性に声をかけられた。

「あの、蓮さんですよね!」

「はい」

「すっごいファンです! あの、質問いいですか?」

「……どうぞ」


「男と女、どっちが恋愛対象ですか?」


 蓮の笑顔が、また固まった。


「……それは、プライベートな質問ですね」

「あ、すみません! でも、気になっちゃって」

女性は、悪気なさそうに笑っている。本当に、ただの好奇心なのだろう。


 でも──。


「ごめんなさい、急いでいるので」

蓮は、そう言って足早に去った。

背後から、「えー、逃げられた」という声が聞こえた。


(……もう、やだ)

駅の改札を通り、電車に乗る。車内は混雑していて、蓮は隅の方に立った。

向かいに座っている女子高生たちが、こちらをチラチラ見ている。

「ねえ、あれ……」

「蓮じゃない?」

「マジ?」

「写真撮る?」

「やめなよ、盗撮じゃん」

「でも、綺麗だよね」

「うん。でも、男なんでしょ?」

「え、マジ?」

「そうだよ。知らないの? モデルの蓮」

「えー、嘘。あれが男?」

「超綺麗じゃない? 信じられないよね」

「なんで女装してるんだろうねー」


 クスクスと笑い合う声。


 蓮は、イヤホンをつけた。音楽を大音量で流す。

でも、聞こえてくる。

『面白がられてる』

『好奇の目で見られてる』

『男からも、女からも、どこか距離を置かれてる』


(疲れた……)


 *****


 自宅に戻った蓮は、玄関のドアを閉めると同時に──大きく、息を吐いた。


「はあああああ……」


 靴を脱ぎ捨て、リビングに倒れ込む。

天井を見つめたまま、しばらくじっとしていた。


(……ゲームしよう)

蓮は、起き上がった。


 VRグラスを装着し、「エピキュクルス・オンライン」にログインする。


 視界が真っ白に染まり──。

次の瞬間、蓮は「ヒゲモジャール」になっていた。


 ずんぐりむっくりとした体型。短い手足。もじゃもじゃの髭。

どこからどう見ても、リアルの蓮とは正反対の姿。


「……ふう」


 蓮は、深呼吸をした。

この姿になると──なんだか、落ち着く。


 誰も、蓮を「美しい」とは言わない。

誰も、「男なのに」とは言わない。

ただの、ドワーフの戦士。それだけ。


「ヒゲモジャールさん、こんばんは!」

そらぽんの声が聞こえた。草原の向こうから、栗色の髪のヒーラーが手を振っている。

「おう、こんばんは」

「今日は、新しいダンジョン行こうよ!」

アストラ──美月の声も聞こえる。エルフの少年剣士が、剣を掲げている。

蓮は──ふと、思った。

(……今日は、暴れたい)

いつもなら、冷静に戦略を練る蓮。

でも、今日は──。


「今日は暴れるぞー!!」


 ヒゲモジャールが、斧を振り上げて叫んだ。

「え?」

「ヒゲモジャールさん?」

そらぽんとアストラが、驚いたように声を上げる。


 でも、蓮は止まらない。


「行くぞ! ダンジョン最深部まで、一気に突っ込むぞ!」

「え、ちょ、ちょっと待って!」

「いつもみたいに、慎重に進まないの!?」

 蓮は──ヒゲモジャールは──答えない。

ただ、走った。

ダンジョンの入口に突っ込み、出会ったモンスターを片っ端から斧で叩き潰す。

「おりゃああああああ!」

「でやああああああ!」

「うおおおおおお!」


 鬼神の如き暴れっぷり。


 普段のヒゲモジャールは、タンク役として冷静に敵を引きつけ、仲間を守る戦い方をする。

でも、今日は違う。

ただ、ひたすら、攻撃。

斧を振るい、モンスターを蹴散らし、突き進む。


「ちょ、ちょっとヒゲモジャールさん!」

「速い! ついていけない!」

そらぽんとアストラが、慌てて後を追う。


 ダンジョンの通路を、短い足で、猛スピードで駆け抜けるヒゲモジャール。

「待ってよー!」

「罠チェックしなくていいの!?」


 蓮は、答えない。


 ただ、走る。


(今日は──何も考えたくない)


(ただ、暴れたい)


 次の部屋に突入。そこには、大量のゴブリンが待ち構えていた。

「どりゃぁああああ!」

ヒゲモジャールは、真正面から突っ込んだ。

(蓮さんが、ど、どりゃぁああああって……)

固まる二人をよそに、ひげもじゃドワーフは、斧を振るい、ゴブリンを次々と薙ぎ払う。


「おりゃー!」

「でやー!」

「せいやー!」


 ゴブリンたちが、次々と倒れていく。


「す、すごい……」

「ヒゲモジャールさん、めちゃくちゃ強い……」

そらぽんとアストラが、唖然としながら呟く。


 蓮は、止まらない。

次の部屋。また次の部屋。

出会うモンスターを、片っ端から倒していく。


(気持ちいい)

(何も考えなくていい)

(ただ、斧を振るうだけ)


 そして──最深部。


 巨大なボスモンスター、ボスゴブリンが立ちはだかる。


「ヒゲモジャールさん、ちょっと待っ──」


「うおおおおおお!」


 蓮は、そらぽんの制止を無視して突っ込んだ。

ボスゴブリンのこん棒が、ヒゲモジャールに向かって振り下ろされる。


「危ない!」

そらぽんのヒールが飛ぶ。

でも、ヒゲモジャールは怯まない。

斧を振るい、ボスゴブリンの脚に叩き込む。

「でりゃああああ!」

ボスゴブリンが、よろめいた。

「今だ! アストラ!」

「う、うん!」

アストラが、剣を振るう。ボスゴブリンの頭部に斬撃が入る。

そらぽんは、必死にヒールを撃ち続ける。

三人の連携──というより、ヒゲモジャールの暴走に、そらぽんとアストラが必死についていく形で──。


 ついに、ボスゴブリンが倒れた。


「や、やった……」

「勝った……けど……」


 そらぽんとアストラは、息を切らしていた。


 一方、ヒゲモジャールは──。


「ふう……」


 満足そうに、息を吐いた。


「……すっきりした」


「え?」

「すっきりした……?」


 そらぽんとアストラが、顔を見合わせる。


 いや、顔を見合わせている──ように見える。VRだから、実際には画面越しだけど。


「ヒゲモジャールさん……」

「今日、なにかあったのかな……」


 二人の声が、小さく響いた。


 蓮は──ヒゲモジャールは──。


「いや、別に何も」


 と、しれっと答えた。


「絶対なにかあったでしょ!?」

「普段のヒゲモジャールさんじゃなかったよ!?」

「気のせいだ」

「気のせいじゃないです!」

「そうだよ! いつもは冷静なのに、今日は猪突猛進だったよ!」


 蓮は、斧を肩に担いだ。


「……たまには、暴れたくなる日もあるんだよ」


 その声には──どこか、疲れた響きがあった。


 そらぽんとアストラは、それ以上何も聞かなかった。

ただ、そっと──ヒゲモジャールの隣に並んだ。


「……お疲れ様」

「うん、お疲れ様」


 三人は、並んでダンジョンの出口へと歩いていった。


 *****


ログアウトした蓮は、VRグラスを外して──天井を見上げた。


「……ふう」

少し、落ち着いた。


 スマートフォンを手に取り、SNSを開く。

また、自分についての投稿が流れている。


 でも──。

(まあ、いっか)


 蓮は、スマートフォンを置いた。


(ゲームの中では、僕はただのドワーフ戦士だ。それだけで、十分)


 蓮は、小さく笑った。

明日も、きっと声をかけられる。好奇の目で見られる。


 でも──

ゲームの世界に、自分の居場所がある。

それだけで──今は、十分だった。


 *****


 翌日。


 蓮は、いつものように笑顔で街を歩いていた。

声をかけられ、写真を撮られ、質問される。


(うん、大丈夫だ)


 心の中で、ずんぐりむっくりのドワーフが斧を振るっている姿を思い浮かべる。

どんなぶしつけな質問でも、答えているのがひげもじゃのドワーフだと思うと、自然と笑みがこぼれる。


(耐えきれなくなったら、また、ゲームで暴れるから……。ふふっ)


 蓮は、笑顔のまま──歩き続けた。


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