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ネカマバレしたくない俺、相棒にベタ惚れされて女装で会いに行ったら美少女でした【大幅改稿版】  作者: 谷三
エピキュクルス・オンライン ~伝説の女帝とネカマな俺~
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名前のない守護者(ガーディアン)


一方、現実社会でも、静かな異変が起こっていた。


「最近、視線を感じるの」

そうゲームチャットで切り出したのは、アストラ─美月だった。

「ふむ……」

ヒゲモジャール──蓮はもじゃもじゃのあごひげを弄りながら思案顔をする。

「多分、気のせいじゃないだろうね。僕も、何度か経験したことがある」

 ずんぐりむっくりのこんなアバターだが、リアルの蓮は人気美形モデルだ。

そんなことがあっても、なんらおかしくない。

いや、むしろ今まで相当嫌な思い、怖い思いをしてきたのではないか。


「もし良かったら、お互いの連絡先も交換しておかないかい? 何かあった時、助けになれるかもしれない」

「わ、私も……!」空も名乗りを上げる。

未だ男だと明かしていない空ではあったが、美月が危ないとなれば、じっとしてはいられなかった。


「ご両親に送り迎えしてもらうことはできないのかい?」

「うん……。明後日からは頼めると思う。でも、急な話だから明日だけは一人で帰ることになるかな」

 空は、なんとなく嫌な予感がした。


 *****


 次の日の夜、帰宅中の美月は暗くなった道を歩く。

歩幅が少しだけ早くなるのを、自分でも意識せざるを得なかった。


 ──その数十メートル後ろ。

フードを深くかぶった空は、胸の内側で鼓動が爆発しそうなのを必死に抑えていた。

そして美月と空の間には──、明らかに美月を付け狙う不審者がいる。


 前日。空は、美月から帰宅時間と帰宅ルートを教えてもらっていた。

過去、ストーカー被害に遭った美月。

その美月が、身元の特定につながりかねないような情報を空に明かしてくれているということ。

──これは、深い信頼だ。

そう思うと、なんとしてでも彼女を守らねばという決意が湧いてくる。


 「そらぽん」である自分は、男の姿は彼女には晒せない。空は、遠くから美月を見守っていた。

(客観的に見たら、俺こそストーカーに見えるだろうな)


 その時。周りをキョロキョロと伺いながら、常に美月を監視している不審なスウェットの男を、空は発見した。

怪しい。でも、もし勘違いだったらという思いが、空に通報をためらわせる。


(まだ何もしていない段階では、警察は呼べない……!)

空は、気づくとその男を追いかけていた。


(怖い……。こんなひ弱な俺が駆けつけたって、何の役にも……)

(でも──)


 今、美月は一人だ。


 空は震える指でフードの端を握りしめた。


(俺が怖いなら、美月はもっと怖い! 逃げるな……! 美月を守るんだ!)

足が勝手に前へ出る。

胃の奥がぐっと縮むほど怖いのに、それでも足は止まらない。


 美月が角を曲がった瞬間、

急速に速度を上げ、背後から駆け寄る足音がした──。


(──!!)

美月が息を呑んだその刹那。

スウェットの男と美月の間に、深くパーカーのフードを被った空が滑り込んで、

割り込むように立ちはだかった。


「か、彼女に、何か用ですか」

スマホの画面を男に突きつけ、「緊急通報」のボタンに指を置いて、いつでも通報できるところを見せつける。


 いきなり男が二人も乱入してきたというのに、美月はなぜか安堵を覚えた。

(この喋り方、聞き覚えが……)


 不審者は予想外の介入に驚いたように足を止めた。

さらに空はカメラの撮影ボタンを押す。シャッター音が響くと同時に、不審者は舌打ちして逃げ去っていった。


「……助けて、くれたんですか?」

フードの人影は答えない。

会話すれば素性がバレると悟っているように、ただ静かにうなずいた。


 街灯の下に差し込むわずかな光が、

その手の震えを露わにする。


(……震えてる)


 怖かったはずだ。

逃げてもいいのに。

でも、この人は──自分を守ってくれた。


(この人、もしかして……)


 確信があった。

でも聞いたら崩れてしまう、そんな繊細な気配があった。


 代わりに、美月は震える手をそっと伸ばす。

フードの人物の手を握りしめる。彼の手も、また震えていた。

「……ありがとう」


 その瞬間、空の胸の奥で、何かがほどけた。

こちらこそ、ありがとうと言いたかった。

でも声を出すことはできなくて。空は小さく頭を下げて逃げるように背を向けた。


「待って……」

美月の声が追いかけたが、空は何も言えない。自分が男だとバレてはいけない。

今のままの関係すら壊してしまう。


 フードの影が角の向こうへ消えていく。

美月はしばらくその場に立ち尽くし、胸に手を当てながら、その影を見送った。


(あの人だった)

妙な確信だけがあった。


 ──言葉にしないまま、

ふたりの距離は確かに縮まっていた。


 後日、ゲーム内でいつものように三人が集まっていた。

今日は暖かい陽射しの中、川でのんびりと釣りをしながら、雑談をしている。


「それで、不審者注意の貼り紙が通学路に貼られてね」

とアストラ──美月は言う。

「不審者も出なくなったし、お母さんも送り迎えしてくれるようになったから、もう大丈夫だよ」

「良かったね」

ヒゲモジャール──蓮は自分の事のように笑顔になった。

「本当、二人には助けてもらって感謝してる」

「いや……。本当良かったよ」


 そらぽん──空は頭をかく。実は、あの時撮影した不審者の写真を、警察にも送っていた。

貼り紙にも掲載されたこの写真が、不審者への抑止力になった可能性も、もちろん高い。


(空……、君には特にね。とっても感謝してるんだ)

美月は心のなかでひっそりと礼を言い、微笑んだ。


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