表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネカマバレしたくない俺、相棒にベタ惚れされて女装で会いに行ったら美少女でした【大幅改稿版】  作者: 谷三
エピキュクルス・オンライン ~伝説の女帝とネカマな俺~
12/30

三人での冒険、そして──消えない違和感

 

 その夜、空は「そらぽん」としてログインした。

いつもの草原。青い空。遠くに見える森。

VRグラス越しに広がる世界は、相変わらず美しかった。


「そらぽん!」

アストラが、手を振りながら駆け寄ってくる。

エルフの少年剣士──その中身が、あの絶世の美少女だと知っている今でも、

空はアストラの姿を見ると胸が温かくなった。


「アストラ……」

「今日はさ、ヒゲモジャールも呼んでるんだ」

「うん、聞いてる」

 しばらくすると、ずんぐりとした体型のドワーフ──ヒゲモジャールが、のっしのっしと歩いてきた。

「待たせたね」

ヒゲモジャールの声が、ビジュアルとは似つかわしくない蓮本来の美声で響く。

「じゃあ、三人で新しいダンジョン攻略しようぜ!」

アストラが、剣を掲げた。

「おう!」

「はい!」

 三人は、森の奥深くにある古代遺跡へと向かった。


 *****


 ダンジョン内は、薄暗く、石造りの廊下が迷路のように入り組んでいた。

三人の連携は──想像以上にスムーズだった。

アストラが前衛で敵を引きつけ、ヒゲモジャールがタンクとして盾になる。そらぽんは後方から回復を担当。


「ヒゲモジャールさん、上手ですね!」

「ありがとう。あまりやったことないんだけど、僕はこういうの得意みたいだね」

「そういうアストラこそ、ステップがすごく綺麗だよね」

 今度はそらぽんがアストラを褒める。

「えへへ、ありがと。サッカーやってて意外と体育会系なんで」


 三人は、次々とモンスターを倒していった。最深部のボス、巨大な石像ガーディアンゴーレムも、

結婚したペアだけが使える、そらぽんとアストラの合体スキル「─星影の守り─」で、

致命的な攻撃を防ぐことに成功し、撃破できた。


「やった!」

「お疲れ!」

「みんな、すごかった!」

三人は、ハイタッチを交わす。


(……楽しい)

空は、心から思った。

ゲームを、こんなに楽しいと思ったのは初めてかもしれない。

アストラ──美月と。

ヒゲモジャール──蓮と。

三人で冒険する時間が、とても幸せだった。


 ダンジョンを出て、街に戻る道すがら。

「ねえ、ヒゲモジャールさん」

アストラが、話しかけた。

「ん?」

「リアルのほうの蓮さん、この前SNSで見たよ。本当に大人気のモデルさんなんだね」

「まあ……そうだね」

「男性の美しさと女性の美しさを両方持ってる、目が離せないような不思議な魅力のある人だなって思った」

 蓮は──少しの間、沈黙した。

「……うん、ありがとう」

 その声に、空は違和感を覚えた。

(嬉しそうじゃないみたい……)


 空は、思わず尋ねていた。

「注目されるのも……やっぱり苦労があったりする?」

蓮は、また沈黙した。

そして──ゆっくりと、語り始めた。


「僕さ、子供の頃から……容姿が男らしくないって、よく言われてたんだ」

「……」

「好きな服も、自然と女物が多くて、よく姉のお下がりの服で過ごしてた」

「両親はそんな僕に対しておおらかに接してくれたけど……」

「男子からは、からかわれたし、女子からは、面白がられた。純粋な友達は……ほとんどいなかった」

(蓮……)


「別に、男物の服も嫌いじゃない。ただ、好きな服を着てるだけだったんだ」

「でも、いくら綺麗と褒められても、結局僕は……明らかに異物だった」

 アストラが──美月が、小さく息を呑む音が聞こえた。

「……わかる」

 美月の声が、静かに響いた。

「私も、同じだった」

「美月……?」

「綺麗だね、可愛いねって言われるたびに……なんだか、檻に閉じ込められてる気分だった」

 美月の声が、震える。

「外見ばかり注目されて、中身はどうでもいいような扱いをされることもあって」


 空は、二人の言葉を聞きながら──自分自身のことを考えていた。

(俺も……)

男らしくない、と言われ続けた。

覇気がない、と言われ続けた。

だから、ゲームの中では──女性キャラになった。

(俺たち、三人とも……)


 女性キャラの空。

 少年キャラの美月。

 そして、似ても似つかない短躯の髭男キャラの蓮。

 みんな、現実とは違う姿をしている。

 みんな、何かから逃げている。


 でも──


(だから、こうして繋がれたのかもしれない)


「ねえ、二人とも」

そらぽんが、口を開いた。

「私……二人と出会えて、よかった」

「そらぽん……」


「私も」

アストラ──美月が、優しく笑った。


「俺もだ」

ヒゲモジャール──蓮も、頷いた。


「これからも、一緒に冒険しような」

「うん!」

「ああ」

 三人は、並んで街へと歩いていった。


 夕日に染まる草原。風に揺れる草花。

画面の向こうで──三人は、確かに繋がっていた。

空は、ふと思った。

(蓮が、女装に協力してくれたのは……)

何かシンパシーを感じたからなのかもしれないな、と。


 同じように、外見で苦しんできた者同士。

同じように、本当の自分を見てもらえなかった者同士。

(だから……)


 でも、それは──美月には、まだ言えない。

空が女装していること。

空が、本当は男であること。


(いつか、言わなきゃ……)

左手の薬指に嵌まった指輪が、VRの中でも光っている。

ゲーム内の結婚指輪と、リアルで買った指輪。

二つの指輪が──空の罪悪感を、重くしていた。


 *****


 街に戻った三人は、ギルドホールで休憩することにした。


「あ、そういえば」

アストラが、何かに気づいたように言った。

「さっき倒したゴーレム、死体が消えてなかった気がする」

「え?」

「ほら、普通モンスター倒したら、しばらくして死体が消えるじゃん?」

「ああ、確かに」

ヒゲモジャールが頷く。

「でも、ゴーレムの死体、ずっと残ってた気がする」

「バグかな?」

そらぽんが、首を傾げる。

「かもね。まあ、最近たまにあるらしいよ。死体が消えないバグ」

「へえ」

「運営に報告しとけば、そのうち修正されるでしょ」

 三人は、それ以上気に留めなかった。


 たかが、モンスターの死体が消えないだけ。

ゲームプレイに支障はない。

でも──


 実は、この時から。

ゲーム内の異変は、静かに進行していたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ