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ネカマバレしたくない俺、相棒にベタ惚れされて女装で会いに行ったら美少女でした【大幅改稿版】  作者: 谷三
エピキュクルス・オンライン ~伝説の女帝とネカマな俺~
11/30

甘いデートと、苦い秘密

 

 空と美月は、駅ビルの中にあるエピキュクルス・オンラインのポップアップストアへ向かった。


 店内には、ゲーム内の武器や防具を模したグッズ、キャラクターのぬいぐるみ、

限定デザインのTシャツなどが所狭しと並んでいる。


「わあ……! すごい……!」

美月が、目を輝かせて店内を見回す。その表情は、ゲーム内のアストラそのものだった。


「ねえねえ、そらぽん。これ見て!」

美月が手に取ったのは、エルフの剣士が使う細身の剣を模したキーホルダーだった。

「アストラの剣だ……!」

「そうなの。可愛いでしょ?」

 美月は、嬉しそうにそれを手のひらで転がす。

空も、思わず笑顔になった。

(本当に……アストラだ)


 見た目は絶世の美少女。でも、その仕草や表情は──

確かに、ゲームの中で何度も見た「アストラ」そのものだった。


「そらぽんは、何か欲しいのある?」

「え、えっと……」

 空は、店内を見回した。

ヒーラーの杖を模したペン、回復ポーションを模したマグカップ──

そして、目に留まったのは──


「これ……」

 ディスプレイケースの中に、美しく輝く指輪が二つ、並んで飾られていた。

結婚指輪レプリカ。

ゲーム内で、結婚システムを使うともらえる指輪──それを、実物として再現したものだった。

シルバーの台座に、小さな青い宝石が埋め込まれている。シンプルだが、上品で美しいデザイン。


「あ……」

 美月も、その指輪に気づいた。

二人は、しばらく無言でそれを見つめていた。

「……買おっか」

 美月が、小さく言った。

「え?」

「だって、私たち──ゲームの中では、もう結婚してるんだもん」

 美月の頬が、ほんのり赤く染まる。

「リアルでも、お揃いの指輪……欲しいな」

 空の胸が、激しく高鳴った。

(美月と……。お揃いのリング……)

「う、うん……!」

 空は、頷いた。


 二人は、結婚指輪レプリカのペアセットを購入した。

レジで包装してもらい、受け取る。

店を出て──

「ねえ、つけてみよっか」

 美月が、包装を開けて、指輪を取り出した。

そして、空の左手を取る。

「そらぽん……指、出して」

「う、うん……」


 空が左手の薬指を差し出すと、美月は優しくそこに指輪を滑り込ませた。

ぴったりと嵌まる。

「……わ」

「似合ってる」

 美月が、微笑んだ。

「じゃあ、私のも……」

 今度は空が、美月の左手を取った。

華奢で、柔らかな手。でも、指先には確かに──ギターのタコができている。

(……本当に、アストラなんだ)

 空は、震える指で美月の薬指に指輪を嵌めた。

「……ありがとう」

 美月が、指輪を見つめて──幸せそうに笑った。

空は、胸が締め付けられるような気持ちになった。

(俺……このままでいいのかな)


 空は美月に告げる。

「ねえ美月……、私の本名、空っていうんだ」

「へえー! だからそらぽんなんだ、可愛いね!」

 本名を明かしたのは、芽生えた罪悪感のせいだろうか。

男女どちらでも通る本名で良かったと、空は思った。これ以上、嘘は増やしたくなかったから。


 *****


 次に向かったのは、同じ駅ビル内にあるコラボカフェだった。

「エピキュクルス・オンライン」とコラボした店内は、ゲームの世界観を再現した装飾で彩られていた。

 メニューも、ゲームをイメージした食べ物ばかりだ。


「わあ……! 可愛い……!」

美月が、メニュー表を見て歓声を上げる。

「回復ポーションのパフェ」

「サラマンダー肉のハンバーグプレート」

「エルフの森のサラダ」

 どれも、ゲーム内のアイテムや料理を模したものだった。


「これ食べよう! あ、これも!」

 美月が、次々と注文していく。その姿は、まるで子供のように無邪気だった。

空も、つられて笑顔になる。

「食べ過ぎじゃない?」

「私、育ち盛りだし。それに、結構運動するからいっぱい食べるんだよ」

「そんなに食べるように見えないって、よく言われるんだ」

「……ふふっ。そう言えば、バレンタインではチョコいっぱいもらってたって聞いたよ?」

「だから、私アストラが男の子だって疑わなかったのに」

「ああ、あれね。本当に、友チョコだよ? 私がいっぱい食べるって知ってるからみんな面白がってくれるんだ」

「下級生からもらったってのは?」

「はは……。なんか、私のファンみたいな子が結構いてね。女の子同士なのにどうしてだろね?」

「女の子が女性アイドル応援するってよくあるじゃない? あんな感じなのかも。美月ちゃん可愛いもんね」

「もー、褒めても何も出ないからね!」


 他愛のない話が続く。だけど。

(……楽しい)

 初めて会うのに──まるで、昔から友達だったみたいに。

いや、ゲームの中では、確かに──ずっと一緒にいた相棒だった。


 料理が運ばれてくる。

青く輝くゼリーが層になった、回復ポーションのパフェ。

サラマンダーの肉を模した、赤いソースのハンバーグ。

色とりどりの野菜が盛られた、エルフの森のサラダ。


「美味しそう……!」

美月が、スマートフォンを取り出して写真を撮る。

「ねえ、そらぽんも一緒に!」

「え、あ、うん……」

 二人で、料理と一緒に自撮り。

画面に映る二人は──誰がどう見ても、美女二人の楽しいデートだった。


(……これ、SNSに上げたりするのかな)

 少し不安になったが、美月は「自分用」と言って保存していた。

「いただきます!」

「いただきます」

 二人で、料理を口にする。

「美味しい……!」

「本当だ……」

 パフェのゼリーは、ほんのり甘くて爽やか。ハンバーグは、ジューシーで肉汁が溢れる。

サラダのドレッシングは、ハーブの香りが爽やかだった。


「コラボカフェって、結構料理がガッカリなこと多いんだよ。でも、ここのは再現度もヤバいし美味しいね!」

 友達もいなくて、こういうところに来るのも初めての空としては、

「そうなんだ」と相槌を打つのが精一杯。

「ねえねえ、そらぽん。これも食べてみて!」

美月が、自分のスプーンでパフェをすくって、空の口元に差し出した。

「え、あ……」

(間接キス……?)

 顔が、熱くなる。


 でも、断るわけにもいかず──空は、恐る恐る口を開けた。

「はい、あーん」

美月が、嬉しそうに笑う。

甘い。そして──

(美月の、スプーン……)

心臓が、バクバクと鳴っていた。

「美味しい……?」

「う、うん……」

正直、味わう余裕なんて、なかった。

「よかった!」

 美月の笑顔が、眩しい。

空は、思わず目を逸らした。

(だめだ……好きになっちゃう)

いや、もう──既に、好きになっていた。

ゲームの中で「アストラ」として出会った時から。


 そして今、こうして目の前にいる美月を見て──その気持ちは、もう抑えられないほど大きくなっていた。

 でも──

(俺は、嘘をついてる)

 女じゃない。男だ。

この姿は、蓮が作り上げた偽りの姿。

(もし、バレたら──)

美月は、どんな顔をするだろう。

 失望? 怒り? それとも──


 料理を食べ終わり、最後に飲み物を飲みながら──美月が、ゆっくりと話し始めた。


「ねえ、そらぽん」

「うん?」


「私ね……昔、エピキュクルスで別のキャラを使ってたことがあるんだ」


 空は、黙って美月を見つめた。


「『ルナ』っていうキャラ」


 その名前を聞いた瞬間──空の胸が、ざわついた。

「あの……伝説のギルドマスターの?」

「うん」

 美月は、コーヒーカップを両手で包み込むように持って、俯いた。

「私が、ルナだったんだ」


 空は──あまり驚いていない自分に気づいた。

(やっぱり……)

 どこかで、予感していたのかもしれない。

みんなが夢中になるほどの、絶世の美少女ギルドマスター。

それが、目の前の美月に──ぴったりと重なる。


「当時は……女子中学生がギルマスだって、オープンにしてたの」

 美月の声が、少し震えた。

「面白がられて、みんな冗談半分で姫扱いしてくれて」

「本当に女子中学生だって信じてた人も、信じてなかった人も、多分半分半分くらいだったと思う」

「……」

「でも──オフ会で、すべてが変わった」

 美月の指が、カップを強く握りしめる。

「中身が本当に女子中学生で……。可愛い、可愛いってみんなが騒ぐようになって」

 空は、何も言えなかった。

「ギルドは、だんだんと狂っていった」

 美月の声が、さらに震える。

「ギルドメンバーが……ルナを巡って、争い始めたの」

「リアルでも、ストーカーされた。学校に来る人もいた」

「家族にも迷惑かけて……引っ越しまで、した」

 空は、思わず手を握りしめていた。胸が、痛んだ。

(そんな……)


「だから、もう二度と──素性は明かさないって、決めたんだ」

 美月が、顔を上げた。

その瞳には──涙が浮かんでいた。

「ルナも……本当に削除するつもりだった」

「でも、運営が『初めて全土統一した唯一の称号持ちだから』って」

「特例で──誰にも見えない形で、休眠・保存してあるの」

「ルナの封印解除は……私だけが、できる」

 空は、息を呑んだ。

「もう、ルナとして活動するつもりはないよ。でもね」

美月が、空を見つめた。

「そらぽんは……どんな時も、優しかった」

「え……」

「ルナ騒動が、また燃えそうになった時──そらぽんは、自分の素顔を晒してまで、助けてくれた」

 空は、はっとした。

(あの時の……)

「容姿で注目されて、炎上したのは同じだったのに」

「そらぽんは……私を、助けてくれた」

 美月の手が、テーブル越しに空の手を握った。


「だから……。助けてもらったルナとして、自分のこと、直接話したくなったの」

「美月さん……」

「それに」

 美月が、少し頬を染めて──

「男の人とは……。会うのが、怖かった」

「でも、そらぽんが本当の女性だって聞いて──会う気になったんだ」

 その言葉が──空の胸に、鋭く突き刺さった。

(……そうか)


 美月は、「そらぽん」が女性だと信じている。

だから、こうして会う気になった。

だから、こうして──心を開いてくれた。

(俺が……男だって知ったら)

この関係は、終わってしまうのだろうか。

空は、何も言えなかった。


「ねえ、そらぽん」

美月が、両手で空の手を包み込んだ。

「これからも……一緒にいてほしい」

 その瞳が、真っ直ぐに空を見つめている。

「ゲームでも、現実でも」

 空は──震える声で、答えた。

「……うん。ずっと、一緒だよ」

「ありがとう」

 美月が、心から嬉しそうに笑った。


 そして、立ち上がる。

「続きは、また明日ね。ゲームでも、現実でも」

そう言って、美月は去っていった。


 一人残された空は、コーヒーカップを見つめながら──深く、深く、息を吐いた。

左手の薬指に嵌まった指輪が、照明を反射して光っている。

(どうすればいいんだ……)

 美月の笑顔が、脳裏に焼き付いている。

あんなに嬉しそうに、笑っていた。

でも──

(俺は……)

嘘をついている。女じゃない。男だ。


 美月が心を開いてくれたのは、「そらぽんが女性だから」。

もし、男だと知ったら──。空は、頭を抱えた。

でも、いつまでも、嘘をつき続けることはできない。

 いつかバレたその時、美月はどんな顔をするだろう。

そのことを考えただけで、胃のあたりがきゅっとする。

それでも。いつかは、ちゃんと、向き合わないといけない。

美月と──そして、自分自身に。


 空は、立ち上がった。

まずは──蓮に、相談しよう。一人で抱え込んでいても、答えは出ない。

空は、店を出て、夕暮れの街へと歩き出した。

夕日が眩しくてかざした左手の指輪が、オレンジ色の光を反射して──静かに輝いていた。


 *****


 翌日、空は大学の中庭で蓮と待ち合わせていた。


「どうしたの? 深刻な顔して」

 蓮が、ベンチに座りながら尋ねる。

今日の蓮は、少し男性寄りのファッション。でも、その美しさは変わらない。


「相談があるんだ」

 空は、深呼吸をして──全てを話した。

美月と出会ったこと。

美月が「ルナ」だったこと。

そして──美月が、「そらぽんは女性だから安心した」と言っていたこと。


「……なるほどね」

 蓮は、話を聞き終えると──少し考え込んだ。

「難しい問題だね」

「うん……」

「でも、朝野くん」

 蓮が、空を見つめた。

「嘘をつき続けるのは、辛いよ」

「……」

「きっとバレる。そして、その時──二人の関係は、もっと傷つく」

「でも……」

 空は、唇を噛んだ。

「怖いのは、わかる」

「自分を見せるのは怖いし、受け入れられないのは、もっと怖い。だよね?」

「でも、先延ばしにするべきじゃない」

「うん、そうだね……。でも、俺が男だと知っても受け入れてもらえるまで、もう少し時間が欲しいんだ」


(僕が見る限りでは、君たちの間には、もう揺るがない信頼が出来ていると思うんだけどね)

蓮は、優しく微笑む。

空の心は、冬の大地のようにまだ凍っているのかもしれない。

それなら、春が来て、芽が出るまで友人として見守ろう。


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