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ネカマバレしたくない俺、相棒にベタ惚れされて女装で会いに行ったら美少女でした【大幅改稿版】  作者: 谷三
エピキュクルス・オンライン ~伝説の女帝とネカマな俺~
10/30

「そらぽん。二人きりで、会いたい。──リアルで」


「蓮、ちょっと相談があるんだけど」

 翌日、空は「そらぽん」の姿で、大学近くのカフェに蓮を呼び出していた。

空には計画があった。それを、すぐにでも実行できるように「そらぽん」の姿で来たのだ。

向かい合って座る二人。


「どうしたの?」

「この騒動、俺が収めないと」

 空は、スマートフォンの画面を蓮に見せた。

「ルナ」と「そらぽん」を巡る、SNSでの憶測の嵐。


「なるほどね……」

蓮は、画面をスクロールしながら頷いた。

「確かに、このままだと収まらなさそうだ。で、どうするの?」

「蓮のアカウントで、発表してほしいんだ。『そらぽん』は蓮の友人で、メイクの練習台だったって」

「……ああ、なるほど」

蓮は、すぐに意図を理解した。

「俺のアカウントなら、それなりにフォロワーもいるし、信憑性もある」

「うん。それで、メイクを半分落とした写真も載せて──」

二人は、カフェで打ち合わせを続けた。


 その日の夜。

ギルドチャットに、アストラからメッセージが届いた。

「そういえば、今日外でそらぽん見かけたよ」

「え!? どこで?」

「〇〇大学の近く。声かけようと思ったんだけど、誰か一緒にいたから」


 空は、はっとした。

(蓮と一緒にいたところを……!)

「すごいイケメンだったね。デート?」

アストラの声が、どこか棘のある響きだった。

嫉妬──?


 空は、思わず笑ってしまった。

「可愛い」

「え!?  何が!?」

「あ、ごめん! えっと、あれは『ヒゲモジャール』だよ。私の友達」

「ヒゲモジャール!? あの!?」

 アストラの声が、驚きで跳ね上がった。

「キャラと中身、違いすぎない!?」

「そうだね」

空は、くすくすと笑った。

「でも、みんなそういうものでしょ? ゲームの中では、違う自分になれるんだから」

「……そっか」

アストラの声が、少し落ち着いた。

「うん、そうだよね」


 *****


 数日後。

蓮のSNSアカウントから、一枚の写真が投稿された。

そこには──メイクを半分だけ落としたすっぴん風の「そらぽん」が映っていた。

片方は完璧にメイクされた美女の顔。もう片方は、特徴のない、地味な顔。

すっぴん風だが、男の空だとバレない程度には軽くメイクされている。


 そして、キャプションには──

「この人は私の友人で、メイクの練習台になってもらっていました。

 大学生で年齢も一致しませんし、素顔はこの通り全然違います。『ルナ』さんとは全く別人です」

 さらに、蓮は続けた。

「外見の美しさは時に、その人の本質から目を逸らさせる呪いになることがあります。無責任な憶測で、私の知人や、過去の『ルナ』さんのプライバシーを侵害するのはやめてください」


 投稿は、瞬く間に拡散された。

蓮のフォロワー数は数十万。その影響力は絶大だった。


 コメント欄には──

「納得した」

「メイクってすごい」

「勝手に騒いでごめんなさい」

「ルナさん、今は幸せに暮らしてるといいな」

徐々に、騒動は収束していった。


 一方で──。

「なんだ、素顔は全然じゃん」

「がっかりした」

などの軽い中傷じみたコメントも、中にはいくつかあった。


 *****


 その夜のギルドチャット。

「よかったね、そらぽんちゃん」

「うん。蓮さんに助けてもらった」

「ヒゲモジャールさん、すごい人だったんだな」

「まあね」

空は、少し誇らしげに答えた。


 そして──アストラが、久しぶりにいつもの明るい声で話していた。

「なんか、最近カリカリしてたよね、アストラ」

不気味だいふくが指摘する。

「悩み事でもあった? でも、落ち着いたみたいだから解決したのかな。よかったね」

「う、うん……まあ、色々と……」

アストラの声が、少しだけ曇る。


 そらぽんは、何気なく言った。

「何かあったら、相談してね。私でよければ」

「……ありがとう、そらぽん」

 アストラの声が、元の落ち着いた優しい声に戻っていた。

「……ねえ、そらぽん」

アストラが言う。

「素顔が地味とか言われて嫌じゃなかった?」

「騒動が収まって、『ルナ』って子はそらぽんのおかげで救われただろうけど、そらぽんにとっては所詮ただの他人で」

「そらぽんには放っておくこともできたのに、どうしてわざわざすっぴんをみんなに晒したんだ?」


 空は──少し考えてこう言った。

「だって、私が巻き起こした事だし、そのせいで関係ない人が傷つくのって嫌じゃない?」

「そっか……」

 アストラは、何かを噛み締めるように答えた。

そして──


 プライベートチャットの通知が鳴った。

アストラからだ。

<そらぽん>

<うん?>

<二人きりで、会いたい>

 空は、息を呑んだ。

<え……?>

<リアルで。君と、ちゃんと話したいことがあるんだ>


 心臓が、激しく脈打ち始めた。

(会いたい……?)

(アストラが、俺に……?)


 いや、違う。

アストラが会いたいのは──「そらぽん」だ。

女性だと思っている、「そらぽん」に。


<どうして……?>

<……君に、伝えたいことがあるから>

 空の手が、震えた。

(これって……まさか……)

告白──?

(でも、俺は……)


 ネカマだ。

女装してオフ会に出ただけの、男だ。


<そらぽん?>

<……うん。いいよ>

 空は、震える声で答えた。

<会おう>

<本当!? ありがとう!>

 アストラの声が、弾んだ。

<じゃあ、日程は後で相談しよう>

<うん>


 チャットを閉じて──

空は、一人、部屋で呆然としていた。

(どうしよう……)

 胸が、高鳴っている。

嬉しい。でも、怖い。

(アストラに、会える)

(でも……)

 このまま、嘘をつき続けていいのだろうか。

空は、天井を見上げて──深く、深く、息を吐いた。


 *****


 待ち合わせ場所の駅前広場。

空は、「そらぽん」としての姿でそこに立っていた。

蓮が監修してくれたファッション──ナチュラルなメイク、インナーカラーの入ったウィッグ、

体型を綺麗に見せるワンピース。鏡で見た自分は、完璧な美女だった。


(でも、多分何度経験しても慣れないんだろうな……)

空は、周囲の視線を感じながら、落ち着かない気持ちで立ち尽くしていた。

(変な目で見られてないだろうか……)

 でも、すれ違う人々の視線は──明らかに「あの子可愛いな」というニュアンスを帯びていた。

何人かは、二度見していく。

(客観的に見ても……「そらぽん」としての俺は、かなりの美人なんだと思う)

メイクが完成した時、鏡に映る自分の姿にドキッとしたくらいだ。


 でも、同時に──

(普段の姿と、落差がありすぎる……)

複雑な気分にもなる。

「そらぽん」は美女。でも、朝野空は──地味で、冴えない、「男らしくない」男だ。

(この姿で一人だと、落ち着かない……)

早く、アストラに来てほしい。来てほしいのだけど──


(正体が、バレないだろうか……)

 不安の種は尽きない。

(アストラは、どんな少年なんだろう)

 ゲームの中で語られた情報から想像するに──明るくて、爽やかで、モテる高校生の少年。

(俺みたいな冴えない男とは、正反対なんだろうな……)


 そして──

(アストラは、どんな気持ちで来るんだろう)

相棒として? それとも──異性としての気持ちが、混じっているのか。

「二人きりで会いたい」

あの言葉の意味を、空は考え続けていた。

(もし、告白だったら……)

 どうすればいいんだろう。

俺は──


 その時だった。

突然、待ち合わせの広場全体が、ざわめき始めた。

「え、何……?」

 人だかりができている。視線が、一点に集中している。

空も、思わずその方向に目を向けた。


 そして──


 息を呑んだ。


(……嘘、でしょ)


 そこに立っていたのは──まるで照明を当てられたかのように輝く、美しい少女だった。

黒髪のロングヘアが風になびき、透き通るような白い肌と、完璧に整った顔立ち。

国民的美少女コンテストなら文句なしのグランプリ。

国民的アイドルグループなら不動のセンター間違いなし。

誰もが振り返る、圧倒的な美貌。

彼女の存在だけで、周囲の風景が全てモノクロに見えるほどの、強烈なオーラを放っていた。


(見たことない顔だけど……。アイドル、なのかな?)

美少女は、人混みをすり抜けて──

空の目の前で、立ち止まった。

そして、少しはにかんだように微笑んだ。

「そらぽん」


 え──?

「ごめん、待たせた?」

美少女が、いたずらっぽく笑う。

 その笑顔は──

見覚えがあった。

ゲームの中で、何度も見た笑顔。

「……俺だよ。アストラ」

空の脳が、一瞬停止した。


「え……?」

「ふふ、驚いた? 私が、アストラだよ」

 美少女は──アストラは──

空の手を、そっと取った。

そして、自分の指先に触れさせた。

 空の華奢な手とは違い、アストラの指先は、僅かに硬く、タコができていた。

「毎日ギターを練習してるから、指先がちょっと硬いの。ほらね?」

「あ……」

 それは、確かに──アストラが語っていた通りだった。


「私、本名は『美月』って言うんだ」

美月──美しい少女が、柔らかく微笑んだ。

「中学までは、男子に混ざってサッカーやってたけど、男子の体の成長に追いつけなくて辞めちゃって」

 それは、紛れもなく──ゲーム内で「アストラ」が言っていたことだった。

「オフ会に来たそらぽんが、女の人だって聞いて……嬉しかった」

 美月の瞳が、真っ直ぐに空を見つめる。

「私が女だって知っても、動揺しないかなって……。それで、私もリアルで会いたくなったの」

 空は、何も言えなかった。

(アストラが……女の子……?)

 頭が、混乱している。

(じゃあ、俺が想像してた、爽やかな高校生の少年は……?)


「そらぽん?」

美月が、心配そうに覗き込んでくる。

ふと──空は、自分と美月が広場の注目を浴びていることに気づいた。

 客観的に見れば、「そらぽん」である空は美女だ。

そして、美月は──誰と比べても劣ることのない、絶世の美少女だ。

そんな二人が、広場の中で手を握って、見つめ合っている。


(……百合?)

(尊い……)


 周囲から、そんな囁きが漏れ聞こえてくる。

スマートフォンを向けている人もいる。

美月も、その視線に気づいたようだった。


「ねえ、落ち着いたところで話そっか」

美月が、いたずらっぽく笑った。

「今日はデートだね」

「で、デート……?」

「だって、私たち結婚相手でしょ?」

 その笑顔は──確かに、アストラと一緒だった。

ゲームの中で、いつも見せてくれた、屈託のない笑顔。

 空は、胸が高鳴るのを感じた。

(アストラが……こんなに、綺麗な女の子だったなんて……)

 そして──

(俺、どうすればいいんだ……?)


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