求婚は突然に
村の広場はざわめきに包まれていた。
夕暮れの空を裂くように、巨大な影が舞い降りてきたのだ。
竜王の翼が広がり、村全体を覆うほどの影を落とす。
咆哮が響けば、家々の窓は震え、畑の稲穂は波のように揺れた。
村人たちは悲鳴を上げ、子供を抱きしめ、家の中へと逃げ込んだ。
「竜王だ!」
「災厄が来た!」
「祈れ、祈るのだ!」
人々は恐怖に支配され、竜王の姿を直視できなかった。
老人は震える手で祈りを捧げ、若者は農具を握りしめたが、その農具は竜王の前では無力だった。
竜王はただ立っているだけで、村人たちの心を圧倒していた。
だが、その場に一人だけ逃げなかった者がいた。
リリアだった。
彼女は村人たちの悲鳴を背に受けながら、竜王を見上げていた。
小さな体で、巨大な影に包まれながらも、彼女の瞳には恐怖ではなく好奇心が宿っていた。
竜王はその瞳を見て、心が揺れた。人間は竜を恐れるものだ。
だがリリアだけは、あの時と一緒だった。
彼女は恐れず、真っ直ぐに竜王を見つめていた。
その瞳には恐怖ではなく、知りたいという思いが宿っていた。
「人間よ……」
竜王の声が広場に響いた。
低く、山を震わせるような声だったが、怒りはなかった。
村人たちはさらに悲鳴を上げ、家の中へと逃げ込んだ。
だがリリアは一歩前へ進んだ。
彼女の足は震えていたが、瞳は揺れなかった。
「竜王さま……」
リリアは小さな声で呼びかけた。
その声は広場に響き、竜王の耳に届いた。
竜王は瞳を細め、彼女を見下ろした。
「人間よ。お前は我を恐れぬのか」
リリアは少し考え、静かに答えた。
「……怖いです。でも、それ以上に、あなたを
知りたいと思うのです」
その言葉に竜王の胸が震えた。
竜王は低く笑った。
その笑いは山を揺らすほどの響きだったが、怒りではなく喜びだった。
「面白い。人間よ、お前は我を恐れず、我を見つめる。気に入った」
村人たちはその言葉を聞き、さらに恐怖に震えた。竜王が人間を「気に入った」と言うなど、あり得ないことだった。
彼らはリリアを「竜王に選ばれた花嫁」として見始めた。
だがリリアは村人たちの視線を気にせず、竜王を見つめ続けた。
竜王は翼を広げ、夜空へ舞い上がった。
月光を浴びながら、彼の姿は星々の間に消えていった。
リリアはその場に立ち尽くし、夜空を見上げた。
胸は震えていたが、恐怖ではなかった。
竜王の瞳に映った自分を思い出し、心が温かくなった。
村人たちは恐怖に支配され、リリアを避けるようになった。
だがリリアの心には、竜王への好奇心が芽生えていた。
彼は恐怖の象徴ではなく、知りたい存在だった。
彼女の心は、竜王の孤独を癒す光となり始めていた。
森の静けさを破るように、竜王は再び姿を現した。
その巨体が地に降り立つと、木々は震え、鳥たちは一斉に飛び立った。
だがリリアは逃げなかった。
彼女は竜王の瞳を見上げ、胸の奥に微かな期待と不安を抱いていた。
竜王が自分に会いに来る――それだけで、彼女の孤独は少し和らいでいた。
竜王はしばし彼女を見つめ、低く声を響かせた。
「人間よ。リリア」
その声は山を震わせるほどの響きだったが、怒りはなく、むしろ柔らかさが混じっていた。
リリアは小さな声で答えた。
「はい……竜王さま」
竜王は瞳を細め、彼女を見下ろした。
「我は千年の孤独を背負ってきた。竜も人も我を恐れ、誰も近づかなかった。だが、お前は違う。お前は我を恐れず、我を見つめ、我を理解しようとした」
リリアは驚き、目を見開いた。
竜王の声には、孤独と渇望が混じっていた。
彼の胸の奥にある痛みが、彼女の心に伝わってきた。
竜王は翼を広げ、夜空を覆った。
「リリア。我は決めた。お前を花嫁に迎える」
その言葉は直球すぎる求婚だった。
リリアは息を呑み、顔を赤らめた。
彼女は竜王の瞳を見つめ、胸が震えた。
恐怖ではなく、驚きと困惑だった。
「花嫁……?」
リリアは小さな声で繰り返した。竜王は頷いた。
「そうだ。我の花嫁となれ。お前は我の孤独を癒す光だ。お前がいれば、我は孤独ではなくなる」
リリアは言葉を失った。
竜王の求婚はあまりにも突然で、あまりにも直球だった。
彼女は竜王を恐れてはいなかったが、花嫁になるなど考えたこともなかった。
「わ、私は……」
リリアは言葉を探した。
だが竜王の瞳は真っ直ぐに彼女を見つめていた。
その瞳には揺らぎがなく、決意が宿っていた。
村人たちはその光景を遠くから見ていた。竜王が人間の少女に求婚するなど、あり得ないことだった。
彼らは恐怖に震え、囁き合った。
「竜王が花嫁を求めている……」
「リリアが選ばれたのだ……」
「これは災厄だ……」
「魔女め、いったいどんな手を使ったのか」
村人たちの恐怖はさらに強まった。
彼らにとって竜王は災厄の象徴であり、その花嫁となる者は「竜王に魅入られた存在」だった。
彼らはリリアを避け、彼女を恐れた。
だがリリアの心は揺れていた。
竜王の言葉は直球すぎて困惑したが、その瞳に宿る孤独と渇望を感じ取った。
彼女は竜王の孤独を理解していた。彼の心を癒したいと思った。
だが花嫁になることは、彼女にとって大きな決断だった。
「竜王さま……私は……」
リリアは言葉を探した。
だが竜王は彼女の答えを急がなかった。
彼はただ、彼女を見つめ続けた。
その瞳には期待と優しさが宿っていた。
彼の心の揺らぎから生まれた決意だった。
彼は孤独を癒す光を見つけ、その光を失いたくなかった。
だからこそ、直球すぎる求婚をしたのだ。
リリアは胸に手を当て、心の奥に問いを抱いた。
「私は……竜王の花嫁になれるのでしょうか」
その問いは彼女の心を締め付けた。
だが同時に、竜王の瞳を思い出すたびに、心が
温かくなった。
彼の孤独を癒したい。
その思いが、彼女の心に芽生えていた。
竜王は翼を広げ、夜空へ舞い上がった。
「リリア。我はまた来る。お前の答えを聞くためにな」
その声は夜空に響き、星々に届いた。
リリアはその場に立ち尽くし、夜空を見上げた。
胸は震えていたが、恐怖ではなかった。
竜王の瞳に映った自分を思い出し、心が温かくなった。
竜王の突然の求婚は、リリアの心を揺らした。
彼女は困惑しながらも、竜王の孤独を理解し、彼の心を癒したいと思った。




