アヤの特殊魔法
ロキは勢いよく、教会の外の木に叩きつけられる。
(おかしい。なにが起きた)
ロキはさっきの状況整理する。
(確か、アヤがいた。そしてら、腹に何かを打ち付けられて木に叩きつけられた。ダメだ。打ち付けられて立ち上がれない。再生まで時間がかかる)
すると、目の前にアヤが立つ。
「この野郎。なにしやがった」
(それに、こんなにヒョロイのに、俺を飛ばすほどのパワーはあるのか)
だが、その考えはアヤが握っているもので全てがわかった。
「…………ムチ?」
近くで見ると、そのムチは紫色で魔力でできていた。
「…………『特殊魔法』…………!」
「…………」
アヤは口を開かない。
(なるほど。こんな衰弱していて、俺の遊び相手にもならない女に、どうしてミミ様は手を差し出すのかと思ったが、まさか才能があったとは)
ロキは木を背にして立ち上がる。
「……アヤ!」
アヤの背後に神父が立ち、アヤは神父に顔を向ける。
ロキはニヤリと笑い、ポケットからナイフを取り出す。
(バカが。よそ見はダメなんだよ。童が!)
すると、ロキの足元に剣が刺さる。
「…………は」
驚いているスキに、アヤが呆然としているロキに、顔面に強烈なムチの一撃を入れる。
*
タクは上空で地面に倒れたロキを見る。
「何か起きれば、勝手に振ってくれるか……」
昨日のレイナの言葉を思い出す。剣は、タクが投げたのではない。投げる意思を持った途端、剣が勝手に抜かれて飛び出していったのだ。
そして、タクは地上に降りてロキが開けた穴から神父を教会に戻す。
「…………タクさん」
「いいから。まずは逃げてください」
*
ロキは息を切らして起き上がる。
「まさか、仲間がいたとは。情報不足だね」
「…………」
アヤは続けざまにロキの体に三十発近くムチを叩きまくる。
最後は思いっきり叩き、ロキをふらつかせる。
(まさか、これまで強いとは……)
そして、ロキの腕をムチで縛り付け、木や地面に何度も打ちつける。
「神父様…………あれは」
タクが神父に聞く。
「知りません。でも、あれが、『特殊魔法』ですよね。アヤの」
「…………えぇ、そうです」
アヤは投げるようにロキを離す。ロキの服は土だらけで、所々裂けている。
そして、ムチの色が紫からピンクに変わり、消えてしまった。
「…………ん?」
タクが首をかしげていると、アヤはばたりと倒れてしまった。
「…………まずい」
脱兎のごとく、タクは駆け出す。
*
目の前で気絶しているアヤに、ロキは隠し持っていたナイフを向ける。
「この野郎。散々俺を遊びやがって……」
すると、走ってきたタクがロキの顔を蹴る。グギッと鈍い音が鳴る。
そして、アヤを抱き上げて教会に戻す。
「…………アヤ……!」
神父はアヤを気づかう。
「気絶してるんだと思います。急に激しく攻撃しましたし……」
「おい、待てよ」
二人は後ろを振り向く。
そこには、首が曲がったままのロキがいた。そして、ロキは首を持って動かして位置を戻す。
「俺はその女に、やられた分を返してない。お前ら全員殺して、その死体をアヤに見せて散々に嬲ってやる」
「………………ロキ」
ロキの後ろから声が聞こえる。彼が恐る恐る振り向くと、胸に、チェスのキングの駒の男が現れる。
「……ルシファー」
「あれほど、乱暴をするなと言ったはずだ……その上に、アヤの力までもを覚醒させた」
「…………」
「ミミ様は“脅威を作れ”とは言っていない。ミミ様は『学習するもの』の器を欲している」
「…………」
「ミミ様からの通達だ。“今すぐ帰ってこい”と」
「…………分かった」
そして、キングの男が消えていく。
ロキは去り際に言った。
「今度会ったら、油断はしない」
そう言ってキングに続いて消えていった。




