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アヤの過去

 タクと向かい合って座った神父は、話始める。

「言ったとおりですが、アヤは私の知り合いの娘さんでした。今とは遥かに性格が明るかったです」


 雲が一つもない空が、村を照らしている。

「神父様。行ってきまーす」

 アヤがホウキで教会の周りをはいている神父に声をかける。

「おや、行ってらっしゃい」

 アヤに続けて、友達の女生徒がアヤに抱きつく。

「ちょっと」

 笑い合う声が朝に響く。


 アヤは学校に行くために汽車に乗る。当時、汽車の本数は今よりはるかに多かった。

「あ」

 汽車でよく見る本を読んでいる男子生徒だ。アヤも何回か会っているため、両方とも顔見知りだ。

 彼は本から顔を上げると、アヤを見つけるなり「やぁ」と言うように手を振る。アヤも笑みを浮かべて手を振りかえす。真顔だった彼から笑みがこぼれる。

(やった)

「アヤ、どうしたの?」

 近くにいた友達が声をかける。

「え、あ、いや」

「なに?いい男子でもいた?」

「いや、そんなんじゃ」

「あー、図星だ図星だ」

 もう一人の友達が冷やかす。

「だから、そんなんじゃ」

 遠くからその様子を見ていた彼は、クスリと笑みをこぼした。


「あれ、雨?」

 汽車の景色を見ていた友達の一人が言う。

「えぇ。傘持ってきてないよ」

「こりゃ、何日か続きそうだよ」

「あ、じゃあよかった」

 アヤはカバンから折り畳み傘を取り出す。

「あー!アヤ、ずるい」


「雨?」

 タクは首をかしげる。

「えぇ。魔法大戦争の時は、大半が家から魔物が現れました。魔法についてはわかりませんが、おそらくミミが雲に魔力を込めその雨水が物に当たり、魔物が発生する原因となったのでしょう」


 ――三日後――

 アヤは友達と並んで歩いている。

「長く降ったね。ま、今はやんでるけどね」

 友達は空を人差し指で指す。

「ハハ。案外早かったね」

 アヤは笑いながら言う。

 すると、けたたましい音で多くの屋根を突き破って大型の魔物たちが現れた。

「な、なにこれ」

 友達は驚いている。

「いこ」

 アヤは友人の手を引き、逃げ出す。すると、急に引いていた手が軽くなった。

「え?」

 アヤが見ると、友達と腕が離れていた。腕の持ち主は、どこにもいない。

「え、え」

 アヤは力をなくしたように地面に座り込む。

 

「アヤの見た景色は、残虐でした」


 目に涙を浮かべるアヤの目に映った光景は―

 逃げ惑う友達を、魔物が追いかけ、引きちぎり、捕食し――

「あ……」

 すると、魔物がアヤの前にきた。

 魔物はアヤを掴む。食べられるのだろう。

「やだ。やめて」

 アヤは魔物の腕を叩くが、聞くはずがない。

 魔物が口を開ける。

 だが魔物はアヤを離し、地面に倒れる寸前にチリになった。

「え?」

 アヤの目の前には、剣を持った青いマントをした女性が立っていた。

「怪我は?」

「いや、大丈夫」

「どこでもいいから、隠れてて。あとは私が倒すから」

「は、はい」

 アヤはうなずくと、近くにある小屋に隠れた。

 小屋に隠れたアヤは、人々の断末魔を何度も聞いた。いつ魔物に襲われるかの恐怖を抱えながら息を潜めていた。

(誰か、助けて…………誰か、誰か)

 アヤは気を失った。

 恐怖に身を包まれたからだろう。

 アヤが目を覚ますと、足音も断末魔も消えていた。

「……?」

 アヤはおそるおそる扉を開けて、道に出ると凄惨な光景が広がっていた。

 至る所に血が飛び、点々と人の体や内臓が落ちていた。瓦礫も落ちていて靴じゃない限り怪我をしてしまう。

 ――みんながいない――

「やだ…………そんな。みんな…………やだ」

 鼓動がドンドン激しくなる。



 アヤはなぜか駅にいた。汽車は無惨にバラバラにされ、血と腕や足が散らばっている。

「あ……」

 彼が読んでいた本だ。緑色のカバーだ。

 アヤは線路に行き、本を拾う。


 神父は話すのをやめた。

「そんな事が……」

「えぇ。その後、アヤは覚えていないそうですが、フラフラと歩いているのを私が見つけ、教会で保護しました。しかし、アヤからしたら両親の安否を告げられた時は、目の前が真っ暗になった事でしょう。友達を失い、家族も失ったんですから」

「…………」

「そして、教会を訪れたあの二人が来ました。そして、私は限界を感じてしまったのでしょう。いつの間にか、アヤをミミに売り飛ばすなどと言う愚行を」

 神父は椅子から立ち上がり、窓から陽がさす村を見る。

「神は乗り越えられない試練は与えないと言いますが、アヤも、私もどうなんでしょうかね。見捨てられてしまったのでしょうか」

 タクは、自分もそうなっていたのかもしれないと思った。

(僕は、軽かったんだな)

 自分が当時、どこにいたかは覚えていないが、今はこんな風に魔法団としてイキイキとしているではないか。

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