煉獄
そして、祭りの賑わいが絶頂になり、時刻は十一時五十分。
「あと七分」
路地裏に隠れているミミ。
「ククク。楽しみだねー。王都に魔物が出てくるの」
*
「さて、花火を準備するかー」
城の左右で職員が花火の発射台を引く。
「ちょっと待ってくだい!」
ルナが大急ぎで走ってくる。
「ん……どうかしました?」
職員が目を細めて聞く。
「持ってきてよかった」
ルナは局員の手帳を見せる。
「治安維持局のものです。お話があります」
「……ん?」
*
楽しんでいるタクとアヤの前にメルが現れる。
「どうですか?お祭りは」
「楽しいですよ」
アヤが満面の笑みで言う。
「そうですか。もう少しで花火が上がります。最後までお楽しみください」
そう言って、メルは二人の元から離れる。
*
十一時五十七分。
ヒュューと音を立てて、花火が上がり、空に綺麗な花を咲かせる。
トヌーとシルレはそれを見ている。
(やっぱり、ミミは勘違いだったのかな?)
一方、レイナ達は一斉に上がる花火を見る。
「ミミは出なかったな」
レイナがベンチに座ってつぶやく。
「出ないほうがいいよ。あんな悪魔」
プリンはレイナの膝に座る。レイナの隣にはカノンが座っているからだ。
「プリン。離れてくれないか?」
*
そして、三分が経った。ミミは民家の屋根に上がる。
「さてさて。始めようか。空気中のチリに魔力が付いたところで」
ミミは手を高く掲げる。
「王都とオドラル地方。両方の花火玉に仕込んだわたしの魔力が、ついにね」
ミミはグッと手を握る。
そして、オドラル地方。突如として、空中から下級の魔物が落ちてくる。
「…………は?」
レイナは膝に座っているプリンをどけて、立ち上がる。カノンもつられるように立ち上がる。
「ミミ。やはり、あれは正解だったようだな」
レイナとカノンは剣を抜き、飛行魔法で飛び立つ。
「おかしい……」
ミミは王都を一望する。だが、どこにも魔物が現れない。
「なんで……わたしは、確かに花火玉に……」
「すり替えさせてもらったよ」
振り返ると、ルナが屋根に上がった。
「…………」
「いつもより大公の話が長いせいで、前半に上げるはずの花火が余ったんだって。だから、余った花火を使ったってわけ」
「……ルナ。邪魔ばっかり」
「邪魔?いや、今回が初めてじゃない?」
「言うようになったんだねー。君も。でもね」
すると、城へ続く一本道の住宅街へ続く数多の路地を、鎖が封鎖する。
「こんな時のために備えたんじゃないけど、まさかこれで役に立つとは。タルタロス」
*
「なんだこれ」
「鎖が現れた!」
「帰れない!」
みんなから、そんな声が聞こえる。
「アヤ……」
タクはアヤを見る。
「なにか、良からぬものがある」
すると、一人が声を上げる。
「あ!こんなところに抜け道が」
鎖で封鎖された路地とは別に、明らかにそれは怪しかった。
タクはある気配を感じる。
「そこには……!」
すると、入ってきた人たちが突如として消えていく。
二人は飛行魔法で飛び上がる。
すると、鎖の外に繭のような鎖の塊がある。
「……あの中に、いる。タルタロス」
「……安全なところに」
アヤはそうつぶやくと、飛行魔法で一気に急降下する。
すると、手から魔法のムチを取り出す。アヤの「特殊魔法」だ。
そして、そのムチが突然炎を帯びると、タルタロスを包んでいる鎖を焼き切る。
「炎のムチの刃」
そして、勢いそのまま、燕返しかのように下から再度ムチを振る。だが、中にいるタルタロスは出てこない。
そして、タクが降りてくる。いつでも出てきていいように剣を抜き、構える。
「あっっつ」
後ろから、タルタロスが出てきた。
青い体に、長く伸びた髪と髭を持った大柄な男だ。そして、胸にはチェスの駒、ルークの刺青がある。
「何かと思ったら、貴様らか」
タルタロスは、両腕から鎖を出し二人に向ける。
二人は飛行魔法で飛び上がって鎖を避ける。




