ハロウィン祭り
オドラル地方は、ハロウィン祭りの準備で溢れている。
「この時期になると、お祭りをやるんだー」
街を歩いているタクとアヤ。
「ね、意外だよね。ネペロ地方じゃ、こう言うのはやらなかったよ」
すると、背後から声が聞こえる。
「君たち。こう言うのは初めてなのかい?」
タクは驚く。
「うぉ。プリンさん」
「やぁ、二人とも」
プリンは穏やかな笑顔を向ける。
「どうしたんですか?こんなところに」
アヤが尋ねる。
「いやーね。王都に住んでるんだけどね。そこのハロウィン祭りはもう飽きたから、こっちのお祭りを見ようかなってね。そんなわけで、君たちの屋敷にしばらく泊まろうかなって」
プリンはバッグの一つも持っていない。
「レイナさん、大変そうですね」
「だいじょぶだいじょぶ。アイツは心の中じゃ嬉しく思ってるからさ」
そう言って、プリンは屋敷の方角へと歩いていく。
「……王都の祭りかぁ」
タクがつぶやく。
「どうしたの?」
すると、光る目をアヤに見せる。
「行ってみたいかも」
「んー……行ってみるか」
*
レイナに許可を取って了承をもらい、王都パレイド行きの汽車を待っている。
「どんなとこなんだろ。王都って」
アヤは体を揺らす。
「まぁ、ここよりは広いだろうね。なにせ、第二の首都って言われてるからね」
王都パレイド――数少ない王都の一つで、魔法大戦争の被害により、汽車以外での許可なき王都の出入りは厳しく禁止されている。そして、王都には四大魔法使いの一人、プリンも住んでいるおかげか、比較的治安は安定している。
トヌーとシルレは、窓の景色を見る。
「ハロウィン祭りが始まりますね。トヌーさん」
花に水をあげているトヌーは小さく頷く。
「そうだね。どうする?一緒に行く?」
「そうですね。でも、今回は父上は無しにしませんか?」
「えー?でも、大公ってこう言う行事好きじゃん。いいの?一人にしても」
「……今回は、トヌーさんだけでいいです」
「…………ふーん」
トヌーはニマニマと笑う。
「なんですか?」
「ううん。言うようになったね」
*
ミミは地図にピンを二箇所立てる。そこは、オドラル地方と、王都パレイドだった。
「祭りを狙おーっと。魔物はどれくらい配置しようかなー。オドラルにルシファーで……ククク……わたしは……」
*
駅を汽車が通り、二人の髪を揺らす。
「よし、行くよ。アヤ」
「よし」
二人は汽車に乗り、向かい合わせの椅子に座る。
*
レイナは頭をかく。
「なんで入れ替わりでお前が来るんだよ。プリン」
「えー、王都の祭りに飽きたんだもーん。あ、もしかして久しぶりに二人きりだから、カノンちゃんと聖夜を過ごす気だった?」
「紛らわしいんだよお前は!」
「え?する気だったの?」
「もう喋んな!もう寝ろ!」
「えー、カノンちゃんのご飯食べたーい。ハンバーグ!」
レイナはため息をつく。
「お前いくつだよ」
「え、二十六だけど」
「そんな堂々と言うなよ」
すると、レイナの部屋の扉が開く。
「いいですね。プリンさん」
入ってきたのはカノンだった。
「カノン……こいつの言うことは聞かなくていいから……」
レイナの声を遮り、カノンは言う。
「ちょうど、かぼちゃの肉詰めを作ろうとしてたんですけど、何か足りないと思ったんですよ。今夜はハンバーグとかぼちゃの砂糖煮にしましょう」
「わーい。カノンちゃんだいすきー!」
プリンはカノンに抱きつこうとするが、カノンは人差し指をプリンの額に当てて動けなくする。
「レイナ。それでいい?」
レイナは何かを言いたげに、口を動かす。
「……わかったよ。じゃ、そうしてくれ。あぁ、手伝おうか?」
「うん、助かるよ」
「え、じゃあ私もー」
プリンが素早く手を上げる。
「焦がすからダメだよ!」
「焦がすからダメですよ」
二人の声が重なる。
「ねぇ、急に夫婦アピールしないでくれる?」
プリンは少し引いている。
「勝手に決めつけるな」
*
汽車で寝ているアヤを、タクは見ている。
(アヤ、変わったな。ホントに)
五ヶ月前までは、体が細くて言葉もたどたどしかったのに、ここまで元気に成長してくれている。魔法大戦争のトラウマも回復しつつある。
(神父様が見たら喜ぶだろうな。近いうちに顔を見せなきゃ)
すると、車内アナウンスが入る。
『次は、終点。王都パレイドです』
タクはアヤの肩を揺らして起こす。
「アヤ」
「……あ、もう朝?」
飛び起きた拍子に、髪が目にかかってしまう。
起きて早々、窓の外の景色を見る。
「夕焼けだよ。もうすぐで着くよ」
「え、そうなんだ」
アヤは髪を整える。
*
プリンはある人物に電話をかける。
「あぁ、メルちゃん?うん。魔法団の二人。この前言ったでしょ?うん、そう。やっぱり、記憶力がいいね。いやーね。レイナがね、屋敷に泊まるならお前の
店を宿にしてくれってうるさいんだよ。だからさ、悪いけど店まで案内してくれない?」
『大丈夫ですよ。久しぶりに腕がなります』
「え?料理する気?あー、メルちゃんのハンバーグも食べたかったー……」
『じゃあ、帰ってきてくださいよ。まったく。優柔不断ですね。だから彼氏もいないんですよ』
「やだー。オドラル地方の祭りを見るの」
『マイペースですね。相変わらず……わかりました。じゃあ、明日の夕飯はハンバーグにしますから』
「っしゃー‼︎」
『ちょ。大きい声出さないでください。夜の犬ですか?』




