教会の隠れ家
部屋に入って寝そうになった時、その音はした。
ギィ……
隣の、奥の部屋からドアが開く音だ。
ゆっくりと、タクもドアを開ける。すると、白い服の後ろ姿をとらえた。髪の長さからして、女の子。
だが……
*
少女は、座ってお茶を飲んでいる神父の前に現れる。
「…………アヤ」
慌てて立ち上がる。
「また痩せてしまって。食事は……」
「…………だれ……か、いる?」
その声は、掠れていて雀の涙ほどの声量だ。
「……えぇ、魔法団の人を泊めています。汽車が少ないものですからね」
すると、足音が近づいてくる。
「神父様!」
来たのはタクだった。少し、アヤを見る。
「これは、どういうことでしょうか」
再びアヤを横目で見ると、手も足もなにかもが枝のように細い。なにも食べていないのだろうか。
「彼女は、どうしてここにいるのですか?それに、どうして、こんなに……」
「タクさん……一旦……」
「まさか、魔法大戦争の……」
すると、アヤが急にうずくまる。
「…………?」
タクは不思議がる。神父はアヤに駆け寄る。
「アヤ……」
「う……」
アヤはその場で荒い息を繰り返し、嘔吐してしまった。
「…………え……」
「タクさん、下がっててください!」
「……はい」
神父の真剣な声に怯み、タクは廊下に出る。
(なんだ、あの子。神父様の子供じゃない。孤児だ。戦災孤児だ)
すすり泣きのような悲しい声が聞こえる。
「そんな……みんな……やだ」
そして、聞こえてきたけたたましい声。
「やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ」
その声に、恐怖を感じタクの背筋が凍りつく。
しばらくして、ドサリと音がする。
物陰からバッと見ると、アヤは顔を涙で濡らして倒れていた。
「…………神父様」
「大丈夫です。失神してます」
「…………」
「しばらく、待っていてください。アヤを、寝かせてきます」
*
神父は戻ってきて、立っているタクに座るように促す。
「…………」
タクは無言で座る。
「……最初に言っておきますと」
最初に神父が口を開いた。
「アヤは、私の子ではありません」
「…………」
「あの子は、私の友人の子供なんです」
「…………あの」
「はい……」
「やはり、魔法大戦争という言葉がダメだったのでしょうか」
神父は口を抑えて黙り込み、口を苦くして言う。
「…………そうです」
「……すいませんでした」
タクは座礼をして謝る。
「大丈夫ですよ。私はアヤではないですから」
その言葉に、胸がズキっと痛む。
「あの、こんなこと言うのは失礼ですが」
神父は口を開く。
「アヤを、魔法団に入れてくれませんか?」
「…………え?」
「……すみません。ちょっと早すぎましたね」
「あの、それって……」
「…………すいません」
神父は立ち上がり、廊下には行かずにどこかへ行った。




