事件
夜――
王都パレイドの住宅街でそれは起こった。
「さて、ご飯を作りますか」
とある主婦が冷蔵庫から卵を取り出して、割るためにトントンと打ちつけ、割ろうと指を入れた瞬間――
――家を覆い尽くす爆発が起きた――
そして、立て続けに似たような事件が一夜のうちに起きた。
*
それから数日後。魔法団の屋敷に、電話が鳴る。
カノンは走って出る。
「カノンです」
『……ん?レイナじゃないの?』
聞こえてきたのは、女性の声だった。
「誰ですか?」
少し敵意を剥き出しにするカノン。
『あぁ、怪しいものではありません。私は、治安維持局のルナと申します。そうだね……レイナと同じ四大魔法使いって、言えばわかりますか?』
「…………わかります」
『なるほど。じゃあ、新聞は見ますか?』
「たまに。レイナが捨てたものを……でも、今、入院してて……」
『なるほど。つまり新聞を見ていないと』
「…………はい」
『じゃあ、新聞を読んでからかけ直してください。電話帳に、治安維持局本部局の電話番号があるはずだから、そこにかけて私、ルナを呼ぶように言って』
そう言って、ルナは電話を切った。
ルナは電話を切ると、メガネをかけて新聞を広げる。
『十名が死亡!謎の爆殺事件!』
「またミミかな。いや、もしくは魔法を使ったテロリストか」
しばらくして、電話が鳴る。
「ルナです」
『局長、カノンという人が……』
「繋いで。私が呼んだ」
そして、しばらく電子音が鳴った後、カノンの声が届く。
『もしもし』
「どうも。新聞、拝見しましたか?」
『えぇ、それで、この事件と私に……』
「あぁ、いえいえ。私ではなく、私たちです」
「…………え?」
「急なお願いで申し訳ないのですが、午後から本部局で始まる捜査会議に出ていただけないでしょうか」
『そんな、でも、レイナがいないですよ』
「なら、外出許可を病院で取ってください」
ルナの対応は、合理的ではあるが、冷たいものだ。すぐさまルナは電話を切ると、ため息をつく。
「局長。ココアを淹れました」
そう言いながら、秘書のイリアが入ってくる。
「あぁ、ありがとう」
「給湯室にマシュマロがあったので、浮かべてみました。なんか、かわいくないですか」
イリアから、ココアの入ったマグカップを受け取る。そこには、マシュマロが二個可愛らしく浮かんでいた。
「確かに。かわいいね」
「でも、どうしてマシュマロがあったんでしょうね」
「ホームズかもしれないな。意外と甘党だからな」
そう言って、ココアを啜る。
「午後からの会議、頑張ってくださいね」
「……分かってるよ」
*
大会議室には、椅子や机がびっしりと並んでいる。一番に入ってきたのは、治安維持局の特別部署、魔警官だった。そして、その統括を務めるのは治安維持局の次期局長と名高いホームズである。彼は、キッチリと着こなした制服とは似つかず、目の下には少しばかりクマがある。
「お、みんな速いねー」
反射的かのようにホームズは立ち上がり、礼をする。
「お疲れ様です。トヌーさん」
「あぁ、堅苦しくしないでいいよ。なんでこういう礼儀があるんだろうねー」
トヌー――王都パレイド大公付き人及び治安維持局魔警官最高責任者
「ルナは来てないの?」
トヌーはあえてホームズの隣に座る。
「局長は、時間きっちりに来ますので」
ホームズもそれに合わせて座る。
「なるほど。つまり、話す時間はないか」
「お言葉ですが、トヌーさんもお話をする時間がないのでは?」
「あ、そうだね。これが終わったら、まっすぐ帰らないと」
すると、扉を開けて入ってくる人が見えた。
「お…………ん?」
ホームズは首をかしげる。
「あぁ、僕が呼んだの。レイナ魔法団。知ってるでしょ?」
トヌーは立ち上がり、三人に近づく。
「みんな、お疲れ様」
トヌーはカノンの前に立つ。
ゆるふわな笑顔の好青年である。
「あなたは……」
カノンが言うと、トヌーは目を見開く。
「あぁ、ごめんね。僕はトヌー。いやー、レイナから聞いてると思ったんだけど」
カノンはあることに気づく。
(レイナを知ってる。この人も四大魔法使い)




