初任務
レイナに案内された部屋に、タクは案内される。
「ここですか。僕の部屋」
タクは部屋を一望する。六畳のスペースがある。家具を置ける。
「そうだ。家具は倉庫にあるから好きに持って行ってもいいぞ」
レイナは奥の廊下の扉を指差す。どうやら,そこが倉庫のようだ。
「あ、レイナさん……」
去ろうとしているレイナにタクは声をかけた。
「……ん?」
「あの、怒ってないんですか?僕、あなたの財布を、取ろうとしてたんですよ?」
「……あぁ、大丈夫だ。あれは囮捜査だったんだよ。治安維持局の一番偉い人から、『スリが多発してるから、そいつを捕まえろ』と言われてな。タクを魔法団に入れると言ったら、まぁ不機嫌な顔をしてたぞ」
「くしゅん……!」
「どうしました局長。風邪ですか?」
書類を持った秘書の女性が尋ねる。
「いや、誰かが噂してるかもしれない」
「噂……?誰ですかね?」
「私を嫌う連中だろう。どうせまた愚痴を叩いているな」
秘書の女性から書類を受け取り、そばに置いてあるメガネをかける。
*
タクはベッドを運んでいる。
「ん……タク……魔法」
通りかかったカノンが言う。
「あぁ、はい。一応、基礎的なものは使えるんです」
「…………へぇ」
「……どうしました?」
「ネペロ地方って知ってる?」
急な話題に、タクは少し間をあける。
「……確か北の方の地方ですよね?小さな村がたくさんあるっていう」
「うん。あそこは、オドラル地方より復興が進んでないの」
「…………なるほど」
「で、そこで」
「…………」
「任務に行って欲しいんだ」
「……え、任務?」
さらに急な話題にタクは驚く。
「うん。魔物の討伐任務。あぁ、でも安心してよ。簡単だから。ある程度、部屋の模様替えが終わったら、レイナの部屋においで」
*
(ここか)
タクの部屋から、廊下の角を左に曲がったところに部屋がある。
(よし)
意を決して部屋の扉を開ける。
床が絨毯だ。部屋の隅に幾つかの魔導書が置かれている本棚。目の前には椅子と机。そして、その奥には一つの机があり、そこにレイナが座っている。偉い人の部屋のようだ。
「失礼します」
「きたか」
タクはレイナのいる部屋を見まわす。
「なんだ?俺の部屋がそんなに珍しいか?」
その言葉に、タクは驚く。
「え、ここってレイナさんの部屋なんですか?」
「まぁ、そうだな」
「ベッドは?」
「あー、それなら向こうだな」
レイナは左の扉を指差す。
「あそこに俺の寝室がある。繋がってるんだな。さて、本題は」
「あ、はい」
レイナは指を組んで、机に肘をつく。
「魔法が使えるそうだが、どれくらいできる」
「えーと……物とか体に魔力を込めたり、ものを浮かせたり」
「体に魔力を込めるとどうなるか分かるか?」
「い、いえ」
タクは首を横に振る。
「受ける傷や痛みを軽減できる」
レイナは席を立ち、自分の剣をタクに持たせる。
「切ってみろ」
「え⁉︎」
「大丈夫だ。しっかり魔力は流してある」
(この人、ヤバすぎる)
タクはサヤから剣を抜く。鈍い光が輝いている。
「大丈夫だ。仮に怪我してもすぐに治るし、治療もしてもらえるだろう」
タクは覚悟を決めてレイナの腹に向かって、剣を振った。
(手応えはある……え?)
レイナは血すら出ていない。
「な?すごいだろ?魔法は。相手に手応えを感じさせるが、その相手は怪我さえしてない」
レイナは、タクから剣とサヤを取り、剣をサヤに納めて腰に刺す。
「つまり、魔力を込められると言うことは、魔物に十分対抗できる」
「はぁ」
「魔物には、三種類のランクがある。下から、下級、中級、上級、今回の任務は下級だ。魔物の中でも特に弱い個体だ。それを倒して欲しい」
「いいですけど、僕でも勝てるんでしょうか?」
「あぁ。なんせ下級個体は普通の人間でも捕獲できるほどだそうだ。かなり弱いぞ」
レイナはニヤリと笑った。
(見せてもらおうか。俺を油断させたほどの魔法の才能を)
レイナは魔法で、剣をもう一本取り出す。
「ほら」
その剣をタクに差し出す。
「その剣は初心者用だ。魔力を込めやすいし、なにかあれば勝手に振ってくれる」
「…………なるほど」




