レイナ魔法団VS「魔王の駒」③
トロルに向かって、カノンは剣を向ける。
(トロルは再生能力が高い。まぁ、心臓をつけば一撃だろうけど、そうはいかないよね)
*
アヤは「特殊魔法」のムチを取り出して、地面に何回も擦り付ける。
「……ん?」
タルタロスが不思議がっていると、やがてそのムチはタクの足を縛っている鎖を切り裂いた。タクは立ち上がり、結ばれている鎖を取る。
「…………!」
タルタロスはそうしていた意味を知った。
(なるほど。瞬間熱か。ムチを何度も地面に擦り付けて温度を上げ、鎖を柔らかくして切り裂いた。あのムチには、刃もついているのか)
アヤは再度、ムチを地面に擦り付ける。
「させるか」
タルタロスは手をアヤに向けるが、すぐに剣を抜いたタクが向かう。
(レイナさんから逃げろって言われてるけど)
剣を振ると、タルタロスは鎖でガードする。
「ニードル」
タクは何かを察知して、すぐに離れる。予想通り、鎖はイガイガの小さな棘まみれになっていた。
そして、タルタロスは魔法でさらに鎖を長くする。
(そのまま振り回す気か……)
後ろを振り返り、アヤを見る。まだ地面にムチを擦り付けている。
(熱が、まだなのか)
すかさず、タルタロスの棘付きのムチが振られる。タクは剣を顔の横に構え、鎖を防ぐ。
だが、力が強くズルズルと引きずられる。
タクも諦めない。剣を両手で持ち、歯を食いしばって鎖を弾くと、すぐに息切れを起こす。
「ほぅ」
鎖を縮め、腕にしまうとしばらく考える。
(このまま時間が経つと、俺が不利になる。ならどうするか)
「タルタロス」
声がかかり、タルタロスは後ろを振り返る。
「……ミミ様」
「悪いけど、君は撤退だよ」
「……撤退?それはどうして」
「これ以上、『魔王の駒』には勝ち目が見込めない。だから、君は役に立つから連れ戻そうってやつ。新しい家も確保したし」
「なるほど」
タルタロスは、まだ足を縛ってあるアヤを見る。
「どうします?一人、縛ってますけど」
「んー。大丈夫かな。新しい家の住民も、全員『学習するもの』に放り込んだし。あと、ここの住民も…………ん?」
ミミの目の前には、タクが立っていた。
(…………人間。魔物とは、気配が違う。あれが、リーダー)
タクはミミに襲いかかる。
「お、勘が鋭い」
アヤも鎖を焼き切り、立ち上がると低空飛行でミミに向かう。
ミミも長くて赤い槍を取り出すと、タルタロスが鎖でミミをガードする。
「あー、タルタロス。いいのに。ほら、戻りな」
「……了解しました」
何かを言いたげだったか、タルタロスは霧のように消えていった。
「さて、この二人はどれくらい強いかな?」
すかさず、ミミは地面にしゃがんで土を鷲掴みにして投げる。
「魔生成・陽」
そして、土は光を帯びて魔物に変わった。
*
カノンはトロルの剛腕をひらりとかわし、スキを見て剣をトロルの胸に突き刺すと、すぐにトロルは倒れる。
「よし、これで倒した」
カノンはサヤに剣を納める。
「よくやったな」
レイナが言う。
「…………それにしても、どうしてこんなにも街が破壊されたんだ……!」
レイナの虹色の瞳は、あるものを感じる。
「魔力だ!」
「……え」
「方向は、北。近いぞ。そして、魔力が少ない……ミミだ」
ミミは少し離れて、下級の魔物たちを倒していくタクとアヤを見る。
(実力は中々に高い)
ミミは再度、土を鷲掴みにする。
「魔生成・陽」
刹那、ミミの土を持った腕が切り落とされる。
「…………は」
目の前には、剣を持ったレイナが立っていた。
「ミミ……!」
「……やあああああああああぁぁぁ!」
ミミは大きな悲鳴をあげる。
「ハハハ……なんだろうね。笑いが込み上げてくるよ」
「……だろうな。お前は腕が片方無くなった。つまり、片手でしか魔物は作れない」
「……いや、違うよ」
ミミは急に涙の目がなくなる。
「君が、バカだってこと」
ミミは切られたところを、槍を投げ捨てて腕で抑えると……
「魔生成・蘇」
そして、ミミの腕は切られた跡さえなく、すぐに塞がるように腕が生えてくる。
「……トカゲかよ」
レイナの指摘はあっていた。ミミは何回でも腕や体を再生できるのだから。




