新クイーン・巴御前
「カノン」
言うと同時に、レイナは剣を抜く。
カノンが前を見ると、そこには胸にクイーンのマークがある女性の魔物が現れる。
カノンはシャッと剣を抜く。
「おかしい。クイーンは倒したはずなのに」
「いや、ミミが補充した可能性がある」
そして、その魔物、手には長いナギナタを持っている。
「……あれは」
「東洋の歴史で書かれている武器。ナギナタって言うらしい」
カノンが簡単に解説する。
「なんだ、ここの者か」
女性はグルグルとナギナタを回す。
「ちょうどよい。妾はここいらはわからん。なにか、いい軍勢は知らんか?」
「…………は?」
カノンは驚く。
「いささか、腕が鈍っているやもしれぬ。無礼だが教えてはくれぬか?」
すると、レイナがカノンの前に出る。
「ここにいるぞ」
「ちょ、レイナ。気をつけて」
「なんでだ」
「ミミが弱い魔物なんて作らないはずがない。東洋の書物に出てくる、女性の将軍と言えば」
「…………」
「巴御前」
「……それ、なんて記録が」
言う暇もなく、巴御前のナギナタがレイナの顔を掠める。
「…………っ」
(速い‼︎)
レイナは驚いた顔をする。
「隙こそ、至極の好機ぞ」
(ダメだ、こいつ、隙を与えない気だ)
レイナは後退し、巴御前から離れる。
「これで、なまりは治ったの」
巴御前が再度ナギナタを回し、構える。
「さぁ、どこからでもかかれ」
「じゃ、お言葉に甘えさせるよ」
レイナは姿勢を低くして、飛行魔法で一気に迫る。その速度はカノンでも見切れないほどだ。魔力を高出力で絞り出して、自身の体を押し出しているからだ。
だが、それさえこの武将の前では通じない。
「なるほど。忍者であったか」
言いながらナギナタを振ると、ブォンという風さえも切るような大きな音が響き、レイナの足にナギナタを刺しこんでいた。
「…………は」
レイナは飛行魔法で飛び上がり、ナギナタから離れると、息を切らして足を抑える。ダラダラと雫のように血が垂れている。
(足を切られるなんて、初めてだ。どうして、俺の攻撃が通じない)
カノンも飛び上がり、目を緑色に変えるとレイナの足に手をかざす。すると、レイナの傷は塞がってきている。
「……もういい。カノンも魔力を温存しておけ」
「……なんで」
「…………巴御前は俺しか攻撃しない。いわゆる、一騎打ちってやつだ。俺が飛行魔法を使ったのに、ターゲットをカノンに移していない。それが何よりの証拠だ」
巴御前が飛べないのか、ナギナタを振り回している。
レイナは息を整えて地上に降りる。
「なるほど。そなたは忍者であったか」
早々に巴御前が話しかける。
「どうりで気配が違うわけだ。その剣術も伊達ではないな?」
「あぁ、そうかい」
レイナはまた高速で迫り剣を振る。だが、次に巴御前がした行動はナギナタを振るものではない。少し跳ねて足を広げ、地面と尻が着くくらい姿勢を低くすると、ナギナタをの刃先を上に向ける。
今度は掠ったものではない。顎に刃が刺さった。痛みを感じる直前に瞬間移動でレイナは離れる。
(体やわらけー……カノンより柔軟性がある。つまり、俺が苦手な相手だ。俺、体は硬いのにな)
*
ミミは魔生成の視覚共有で、巴御前の視界を見る。
「さすが。善戦してる。やっぱ、東洋の書物をもっと買った方がいいのかも」




