新たな団員
「わぁ……」
アヤはオドラル地方の駅前の景色を見て、簡単の声をあげた。
瓦礫ばかりの街しか見ていないから,その景色が珍しいのだろう。
「街へは後で行こうよ。レイナさんに挨拶をしないと。それから、回ろ」
「あ、そうだった」
アヤはタクにくっつくように歩く。
「そういえば、大丈夫?その、あれ」
「ん?あぁ、魔法大戦争のこと?大丈夫だよ。もう、あんまり気にはしなくなってきた」
「…………そっか。ごめんね」
(やっぱり、魔法団の人たちはみんな優しいのかな)
アヤはそう思いながら、タクについていく。
すると、タクは辺りをキョロキョロしだす。
「…………どうしたの?」
「ごめん。屋敷の場所、忘れちゃった」
「え……⁉︎」
「こうなったら、飛行魔法を使うよ」
「……うん」
全身に魔力を込め、二人は空へと浮き上がる。
「あ、あった」
「案外近いね」
「じゃ、いこっか」
*
「どうりで魔力を感じたわけだ」
レイナは椅子に座りながら言う。
「悪いが、オドラル地方ではあまり魔法を使わないでくれないか?あぁ、屋敷ならいいんだが。俺の瞳が魔法を感知してしまうんだ。カノンにもそう言ってあるから、頼めるか?」
「はい、わかりました」
二人の声が揃う
「で、急に説教から始まったが、改めて、レイナ魔法団へようこそ。アヤ。そして、タクもアヤの案内をありがとう」
「ありがとうございます。ところで、あの、カノンさんは?」
「あぁ、カノンか。それが……」
すると、大きな爆発音が庭に聞こえて地響きがする。
「あーあ。始まった」
レイナの虹色の瞳は何かを物語っていた。すかさず、レイナは机の上のボタンを押す。
「カノン。団長室の窓を開けるから、そこから入れ」
窓を開けてしばらくすると、飛行魔法でカノンが入ってきた。目の色は紫色だ。
「全く。なにがあったんだ。クッキーでそんな喧嘩になるか?」
「……だって」
「おい、カノンちゃん」
レイナの部屋の扉を開けて、プリンが入ってきた。
「今のはちょっとびっくりしたよ」
すると、プリンの目はアヤを見ていた。そして、いつんの間にかプリンはアヤの顔の前にいた。
(速い……!)
タクもアヤもそう感じた。
「あー、かわいい。初めまして。私はプリン。レイナの親戚だよー」
レイナはプリンの顔を掴み、アヤから遠ざける。
「カノンとアヤから離れろ。プリン」
「えー、三人でお話ししたいよー」
「カノン怒らせといてなに言ってるんだお前は」
カノンの目の色は次第に紫から、元の青色に戻る。
「で、カノン。なんでクッキーで喧嘩になったんだ」
「プリンさんが……全部食べちゃったんだよ」
「それでか?また作れば……」
「あれは……」
カノンは何かを言いかけたが、そそくさとレイナの部屋を出て行った。
「……プリン。お前のせいだからな」
「え、なんでよ」
「俺と喧嘩する時もお前が発端だろうが」
「いや、今回ばかりはカノンちゃんが……」
「整理できないな。プリンから話を聞こうか」
ふと、レイナはタクとアヤを見る。
「ちょうどいい。プリンの対処法を学んでくれ」
レイナはプリンと向かい合って座る。
「カノンちゃんがさー……」
数時間前――
キッチンに入ったプリンは、ステンレスの大きな机に置いてあったクッキーを食べる。
「うま!この味、私好きかも……うまうま。うまうま」
あと一枚を食べようとすると、カノンが現れた。
「あ、プリンさん……!」
カノンがバッとを見ると、クッキーは一枚も無かった。すかさず、カノンはプリンが持っているあと一枚のクッキーを見る。すかさずプリンはそのクッキーを口に入れる。
「あ……」
「おいおい。ちょっと待て。どう考えてもお前が悪いだろ」
レイナの指摘に、プリンは黙り込む。
「だって、美味しそうだったんだもん」
「それしか言わないなお前は。カノンと話してくる」
そう言ってレイナは部屋を出て行った。
「なんでカノンちゃんはクッキー作ったと思う?」
残った二人にプリンは問いかける。
「いつもなら、笑って許してくれるのに」
「それって……」
アヤがあることに気づく。
「……ん?」
「特別なものじゃないですか?」
レイナは庭のベンチで座っているカノンに近づく。
「カノン」
呼ぶと、彼女の目は少し潤んでいた。
「…………」
「プリンには、色々言っといたから。まぁ、あいつは反省してるかは曖昧だし、許しても許さなくてもどっちでもいいけどな」
レイナはカノンの顔を見ながら明るく言った。
「ほとんど喧嘩の原因なんて。ほぼアイツなんだよ。小さい頃だって……」
すると、カノンはベンチの空いている隣を優しく叩く。
「はいはい」
レイナはカノンの隣に座る。
「プリンも困るよな。あんなことして」
*
しばらくして、カノンは立ち上がった。
「もういいのか?」
「うん、いい」
そう言ってカノンが歩き出した時、プリンが瞬間移動してきた。
「……カノンちゃん」
「…………」
「あ、デリケートな話だからレイナはどっか言って」
「あのなぁ」
そう言って、レイナは屋敷に入っていく。
「…………」
二人は顔を見合わせる。最初に口を開いたのはプリンだった。
「クッキーの味付け」
「…………」
「あれ、レイナが好きな味付けでしょ?私もレイナも親戚だから私もバクバク食べたんだと思う」
「……なにがわかるんですか?」
「あれ、レイナのために作ったんでしょ?」
「……!」
カノンの眉が上がる。
「やっぱり。その、ごめんね。勝手に食べちゃって。これからは、許可を取ってからつまみ食いするよ」
「……………………ぷ」
その言葉に、カノンの口がフワリとやわらぐ。
「それ、許可を取ったらつまみ食いとは言いませんよ」
プリンは心の底からホッとした。
「あと、私も気をつけます」
*
レイナはクッキーを食べる。
「うま……」
「うん。さっき食べたやつよりおいしい」
「掘り起こすな」
レイナとプリンの軽やかな声が聞こえる。カノンは、さっきプリンに食べられたものと同じクッキーを作り、みんなに振る舞っている。
「二人も、ありがとうね」
カノンは別のお皿のクッキーを、タクとアヤに差し出す。
「ありがとうございます」
二人はクッキーを食べる。
「おいしい……!」
「今頃だけど、二人ともレイナ魔法団にようこそ。改めて、私は副団長のカノン。まぁ、その肩書きも名ばかりだけどね」
カノンはフフフと笑う。その笑う顔は一切の曇りがなかった。
おまけ
四セリフ小説「街に行った二人」
「あ、タク。美味しそうなのがある」
「アヤ。よく食べれるね。僕はクッキー食べすぎたかな」
「私も同じ量食べたけど」
「……まぁ、差はあるよ」




