罪に罰を
アヤは寝室で、考え事をしていた。
『あなたも魔法団に入ってはどうでしょうか』
神父の言葉がよぎる。
レイナとカノンは神父と向かい合う。
「そこで、レイナさん。アヤが『魔法団に入りたい』と言ったら、入れてくれますか?」
レイナはしばらく考える。
「……わかりました。確かに、アヤには魔法の才能があります。タクから話を聞く限り、魔法のムチを具現する『特殊魔法』かと」
レイナの虹色の瞳がそう言っている。神父はそう思っている。かつての英雄と姿が酷似しているからだ。
「アヤの精神状態も安定していますが、念のため、もう少し様子を見ましょう。私どもも、そこは危惧していますからね」
「……そうですか」
神父は少し落胆していた。一刻もアヤを安心できるところに入れたい。そんな思いがあった。
*
「気が変わったなー」
ミミは椅子をクルリと回す。指を鳴らし、ロキを自分の前に呼び出す。
「…………ミミ様」
「最後の依頼をしにきた」
「…………最後」
「これができなかったら殺すから」
「…………っ」
「分かった?」
ミミの目はもはや、優しがなかった。相手を見下す目だ。
「…………分かりました。ミミ様」
「よろしい。アヤを奪還してきな」
「……了解しました」
そう言うと、ロキは消えていった。
「あ、魔物を呼んだせいでレイナがいるだろうけどね」
*
ドアを開ける音がして、アヤは目を開ける。
「え、タク。どうしたの?」
突然、タクは猛烈な速さで吹き矢を取り出して吹き、アヤの首に矢を刺す。
「は……」
アヤはぐったりと倒れ込む。
「作戦成功」
タクの服装はありありと変わり、白い髪に、ピンク色の瞳が見えた。ロキだ。
「最初からこうすれば良かったんだ」
アヤを担ぎ、窓から出ようとする。
「……カノン、外に出るぞ」
「え、なんで?」
「魔力だ。『特殊魔法』の類のものだ」
虹色の瞳――魔力を感知し、使っている魔法の種類を分析できる「キー」とレイナのみが持つ伝説の瞳である。
ロキはアヤを担いだまま、瞬間移動しようとする。
「はい、ちょっと待った」
後ろを振り返ると、教会の扉を開けるレイナとカノンがいた。
「なにしようとしてた」
レイナの虹色の瞳がロキを睨みつける。
(こいつが、レイナ。そういえば、こいつ、ミミ様が危険視してたな。待てよ。アヤとレイナを持ち帰れば、一石二鳥だ。ミミ様にも褒められて今までのお咎めなし。もしくは、その成果が認められて女を何人か寄越してくれるかもしれない。ありがたいことだ。ゆるゆるなやつとは違うかもしれないな)
ロキは、もはや生きるために判断を見失っていた。そして、ロキは手のひらからシュッと棘を繰り出し、アヤの首に向ける。
「それ以上動いていいのかな?アヤはこっちが握ってるんだ。返して欲しけりゃ、お前もミミ様のところに行け!」
ロキが持ち出したのは、交換条件だった。「学習するもの」にレイナを放り込めば、強力なエネルギー源となるのを考えたからだ。
(だが、俺がミミのところに行っても、どうせアヤは返さないだろう)
レイナが一歩踏み出すと、ロキの棘はアヤに近づく。
「動くなよ!」
(ダメだ。ロキの目は今、とても敏感だ。瞬間移動でも警戒するだろう。そして、カノンにも目をつけているはずだ)
レイナは二歩下がり、カノンと並ぶ。
「アイカラーチェンジで、黄色があるだろう。雷は落とせないのか?」
「できるよ。でも、それじゃアヤも感電しちゃう。アヤを避けて落とすと、威力が落ちちゃう。感電させてから、直そうと思ったけど、全身の火傷を直せるくらい私の回復能力は凄くない」
「……アイカラーチェンジに、どんなのがある。俺が知ってるのは、赤、緑、黄、紫しかないぞ」
「残念。意外と種類はあるんだよ」
「なにがある」
「白に、条件はあるけど黒とか……」
「白……それは光か?」
すると、ロキの大きな声が聞こえる。
「もう話は終わりだぞ‼︎レイナ。選べ。自分だけが生きてアヤを殺すか、大人しくミミ様の元に行くか」
「…………」
「レイナ」
カノンが名前を呼ぶ。そのままカノンの言っていることを聞く。
「わかった」
レイナはロキに近づく。
(なるほど。後者を選んだか。やはり、仲間の命しか考えていないバカだったか)
「レイナ、今だ!」
カノンの張った声が聞こえる。
ロキはすぐさまレイナに棘を向ける。何かをすると疑っているらしい。
すかさず、カノンがロキの真横に迫り、白い瞳から、強烈な光を放つ。
ロキの目が眩んだのを見逃さず、レイナは腕を伸ばしてアヤを奪還し、蹴り飛ばしてロキを倒す。
視界が晴れたロキが起き上がると、目の前には剣を突きつけるレイナがいた。
「…………」
「終わりだ。ロキ」
「どうして……」
ロキはレイナを見て目に涙をためる。その目は、ミミと重なる。映る景色は死を連想させる。
「なんで、お前らは俺をいつも見下すんだよ!」
「…………は?」
さっきまで、傲慢な態度をとっていたロキとは違う。感情が恐怖で塗りつぶされている。
「確かに、俺はクズだよ!女攫って、散々遊んで!でも、それやったからって、なにしてもいいわけじゃないだろ!」
すると、レイナの横からカノンが現れてしゃがんでロキの胸ぐらを掴む。
「それが何?あなたは散々女の人を弄んだ。その罪は、ミミに制裁くらっても足りないんだよ。どれだけ屈辱でも、あなたの犠牲になった人たちはそれ以上の屈辱を受けたんだよ心じゃない。体だって傷つけられた。その屈辱を知らないくせに、一々喚くんじゃない!」
その瞬間大きな拍手が真っ暗な廃墟のような街に響く。
「ブラボー!いい演説だよ」
そこに現れたのは、ミミだった。子供かと見間違えるほどの小柄だ。
ロキに近づくと、当のロキはズルズルと地面を引き摺りながら後ずさる。
「ねぇ、ロキ」
「…………はい」
「『魔王の駒』。意味、知ってる?」
ロキは恐怖で声が出ず、首を横に振る。
そして、ミミは魔法で長く真っ赤な槍を取り出すと、ロキの胸へ思いっきり、残酷に突き刺す。
ロキの叫びが、夜空にこだまする。
「ほら、東洋のボードゲームで駒って何回も使えるんだって。すごいよね。それってさ」
ミミの顔がだんだん歪む。
「使い捨てみたいじゃん」
ロキは目に涙を、鼻から鼻水を出して無様な顔で言う。
「死にたくないです……助けてください……ごめんなさい」
ロキのそのつぶやきはミミには受け入れてもらえず、弾けて塵になった。




