「学習するもの」
ウトウトしてきたカノンは、眠気覚ましと念の為に、ドアを開ける。
「…………え」
そこには上半身を起こしたタクがいた。
「……今起きたの?」
カノンが聞く。
「……はい。たった今」
「待ってて。レイナ呼んでくる」
カノンが三個先のドアを開けると、レイナが寝ていた。
「レイナ、レイナ」
レイナをゆすって起こすと、寝癖を持ちながら起きてきた。
「……ん?」
「タクが起きたの」
「……まじか」
翌日、カノンからその知らせを聞き、アヤは飛んできた。
「タク、大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ。まだちょっと痛むけど」
タクは優しく、笑って言った。
*
ミミは地下の階段を降り、紫色の物体に近づく。
「さて。どうかな。最大出力」
指を動かし、その物体に触れる。
「魔生成・陽」
ミミの手が光り、その物体に当てる。だが、それは無事だ。
「よし、土台はオーケー。今度は人間をいっぱい投入しないと。できるだけ、魔法使いがいいんだけどね。ま、いっか。人間の人数を増やせば済む話か。さて、どれだけ進化するのかな。『学習するもの』は」
ミミはクククと笑い、地下の階段を登っていった。
「まったく。エリスが殺しまくったせいで材料が足りなかったんだから」
*
レイナもカノンも出てきた部屋。
「あ、そうだ。アヤ」
タクはアヤを見て、なにかを思いつく。
「……ん?」
「よければ、魔歴書の翻訳をしてくれないかな?この体じゃ、当分ここからは出れないんだ」
「……分かった」
アヤは部屋を出て、教会の書庫に向かう。
そこで神父に会う。
「……神父様」
「アヤ。あなた、だいぶ変わりましたね」
「…………うん、そうだね」
「私からの提案ですが、あなたも魔法団に入ってはどうでしょうか」
「…………え?」
「あなたは、教会にいるときより、タクさんといる方がハツラツとしています。それに、魔法が使えます。あなたの可能性を、私は閉ざしたくないんです」
時に嬉しそうに、悲しそうに言う。
「…………」
「すいません。まだ、早すぎましたかね?」
「……神父様は、どう思ってるの?それ、無理してない?」
その言葉に、神父は顎に手を当てて考える。
「……私は、無理はしてませんよ。私はただ、夢だけを持ったものですから」
「…………」
神父は少し昔話をする。
「私は小さい頃から絵が好きでした。でも、書いても書いても画家にはなれませんでした。そこで、才能を知ったんです。私が神父をしているのも、家業だからですよ。画家になりたいからと父の話に反発したのに、結局はこの仕事に就いています」
「…………おや、すいませんね」
神父はそう言うと、いそいそと書庫から出ていった。
アヤは魔歴書を一冊取ってタクのいる部屋に向かう。
「あ、屋敷で読んだのと同じだ」
タクは本を指差して言う。
「あ、『キー』のところ?」
「そうそう。全然わかんなくて」
「えっっとね、訳するとこうだね」
アヤの解釈に基づく翻訳はこれである。
「今から八百年前のこと。五つの星を取り巻く竜、黒竜皇が現れた。住民は恐怖で動けない中、空から黒いマントを羽織った者が現れた。その姿は、虹色の髪と虹色の瞳を持っており、人々は神と思った。名前は『キー』と言った。そして、ある老人が言った。『あの空にいる竜を撃ち落としてください』。そして、その『キー』は強くうなずいて再度飛び上がり、剣を抜いた。見たものが言うには、空色に輝く剣を持っていた。そして、あまたの魔法と剣で黒竜皇を倒した。この英雄が、後にたくさんの功績を残し、後世に語れらますように」




