雨が降る
神妙な面持ちで、神父は部屋を出て、礼拝堂に入る。そこには、アヤとレイナとカノンがいた。レイナはすぐに立ち上がる。
「神父様。タクは……」
「カノンさんの応急処置のおかげで、目を覚ます確率は上がりました。ですが、傷口が深く、出血も多いですね。念のためですが、覚悟はしておいてください」
「…………私のせい?」
小さく聞こえたその声に、カノンは振り向く。
(この子、見覚えがある。この目は似てる)
「私が、外に出ようなんて……」
震えるアヤの手をギュッとカノンが握る。
「大丈夫だよ。タクが生きてる確率は高いんだから」
「……あなた、あの時の……」
「覚えててくれたんだ」
「私の、命の恩人だから」
その言葉に、カノンの顔に笑みが見える。
*
屋敷の食堂のような場所で、ロキは机をトントンと指で叩く。
(くそ。アイツらのせいでミミ様に怒られた。不快だ。どうしてこの俺がアヤなんかに、負ける。だが、あの女の「特殊魔法」の成長速度はただものじゃない。怒りだ。怒りでパワーアップをするのか?)
「ロキ、うるさいぞ」
背後に現れたルシファーが言う。
「あぁ、そうかい。忠告ごくろうさん」
そう言って立ち上がり、ルシファーから離れる。
「…………」
「ミミ様」
ルシファーはミミの机の前に立つ。
「ん、どうしたの?ルシファー」
「ロキですが、私は危険視をしています」
「あぁ、そうだね。んー。美味しい」
呑気にクッキーを食べるミミ。
「このままでは、ロキはあなたに牙を剥きかねません」
「いいんだよ。別に」
ミミはもう一枚クッキーをつまむ。
「その時は私がロキを倒すから」
「…………」
「ロキは都合のいいやつ。たまたま通りかかったから魔物にしただけだよ。あぁ、君たちも気をつけなよ」
クッキーを飲み込む。
「君たちもいつ首が吹き飛ぶかわかんないからね」
「…………」
「あ、首じゃなくて心臓か」
笑えないような冗談を、ミミは笑いながら言った。
*
「局長!これを……号外です」
「なに?イリア」
ルナの秘書の女性、手に新聞を持ってイリアが入ってくる。
ルナはイリアから新聞を受け取り、メガネをかける。
「…………これは」
新聞の見出しにはこう書かれていた。
『スクラップストリートに魔物が大量発生!』
「……局長……これはもしや」
「ミミだね。現地で魔物にして一気に命令した」
「どうします?ネペロ地方に、大量の魔警官を……」
「いや、いい」
イリアの焦りを、ルナは止める。
「どうしてですか?」
「ミミは、もういない。それに、魔警官を配備しても、またネペロ地方に張り付いている新聞記者が黙ってない。あそこは、新聞記者がたむろしてる。被害を免れた村に住み着いて、トクダネを探してる。魔警官が行ったって、また記事を書かれる」
ルナは椅子の背もたれに背中をつける。
*
真っ暗な部屋で床に伏せている女性は、号外の新聞を見る。
「…………」
『この突然な事件は、レイナ魔法団により鎮圧された。このような事件にも臆さず立ち向かうレイナは、まさに、あの黒竜皇をも倒した「キー」である』
その文を見た瞬間、女性は新聞をビリビリに破る。
*
ロキの襲撃を見込み、レイナはタクが寝ている部屋の前に立つ。
「……来ないな」
廊下からカノンが歩いてくる。
「レイナ。交代」
「分かった」
タクが教会に運ばれてから半日くらい経ったが、一向に目を覚ます気配はない。
(まさかこのまま……いや、縁起が悪いのはよそう)
レイナはそのまま廊下を歩き、神父がいるキッチンに向かう。
すると、神父は割れた花瓶のかけらを拾っていた。
「……落としました?」
レイナが笑って言うと、神父は苦笑いを浮かべながら言った。
「怒って、タクさんを刺した犯人……いや、あの魔物が来ましてね。頭に来て花瓶を投げつけてしまったんです。で、花瓶の破片はそのままに」
「……なるほど」
レイナもしゃがみ、一緒に花瓶の破片を拾う。
(割れる……壊れるか)
レイナはいつの間にかそう思っていた。
見張りをしているカノンは、とある人物を見つける。
「……心配なの?」
目の前にはアヤが立っていた。
「はい。一応……」
「待って」
カノンはアヤの言葉を止める。
「なんて言おうとした?」
「…………私の、せい」
弱ったネコのような声量でアヤは言った。
「そんなこと言っちゃダメだよ」
「……はい」
アヤは弱弱しく首を振った。




