よりにもよらないこと
アヤはすんなりと飛行魔法を修得していた。
(やっぱり、習得が速い。やっぱりこの子には才能が……)
タクも飛行魔法で上に上がる。
「どう?アヤ。意外と動くのは難しいんだけど」
「結構、簡単かも」
「えー、それ、凄くない?僕でも、壁に頭をぶつけたのに」
半分冗談でタクが言った。
「…………ん?」
お茶を飲んでいた神父は、地響きのような音を聞く。
窓を開けて顔を覗かせると、そこには信じられない光景があった。
なんと、大量の魔物が道なりに走ってくるからだ。慌てて窓を閉める。
そして、大量の魔物たちは教会も神父も素通りしていく。
*
とある山奥。
「……フフフフフ」
ミミは手にたくさんの葉っぱを魔物に変えていく。
「さぁ、これで大量に作った。さ、あとは頼んだよ。ロキ」
ミミはそう言うと、瞬間移動の魔法で消えていった。
*
その音にいち早く気づいたのはタクだった。そっと下を見ると、魔物たちが自分を階段のようにして上空に上がっている。
(下級個体か)
「アヤ、下を見ないようにして」
腰に刺さっている剣を抜き、急降下する。そして、ハシゴのように高くなる魔物たちを斬り続ける。
(どうして今になって。まさか、あのビショップの……)
地面に着地して、一番下の魔物たちをたくさん切り付ける。そうすると、一気に魔物のタワーが崩れ、ジェンガのように崩れ落ちてくる。
(でも、数が多い。いや、下級個体は知能が低いはず)
すれ違うかのように魔物たちを斬り続ける。走ったり、回転したり。
そして、魔物の一体に目をつける。
(これで二十体目……)
だが、その魔物は腕から長い棘を出す。
「…………!」
ザク――
その一撃はタクの腹を貫いていた。
「…………っ」
すると、魔物は段々姿が大きくなる。
「やぁ……」
ロキだ。なんと、魔物の群れに紛れて奇襲をしてきたのだ。
「まずは一人。狙いは女だな」
棘を抜くと、タクは刺されたところを抑えて地面に座る。
だが、ロキの服をタクが引っ張る。
「……させない」
「あ、そう」
すかさず、タクの顔に回し蹴りをする。
「そこで寝てな。気づけば女の子も死んでるから。アンタもそのうち、おんなじところに行くから」
そう言ってロキは、上空へと上がっていった。
アヤが空中で待機していると、ロキが上がってきた。
(初めて見た時はガリガリだったけど、今は肉もついていい感じになってるな。んー。やっぱりあの男の子は生かしておくべきだったかな)
アヤはロキを見ると、息が荒くなる。
(いいねー。苦しそうな顔。今にも何かを吐き出しそうだ)
アヤはすぐに手からムチを取り出し、ロキに向かう。
(お、神父の怒りがまだ残ってたか)
振ってきたムチをロキは安易と避ける。
「もう油断はしないよ」
(あー、いいなー。今まで何人も女を捕らえたけど、こんなにいい顔で抵抗したのはいないなー)
その後も、アヤが振ってくるムチを避け続ける。ただ、空を切るヒュンヒュンという音が聞こえるだけだ。
そして、遂にアヤの息が切れかける。
「そんなにムチを無造作に振るからだよ。もっと狙いを定めてから振りなよ」
(そろそろ、やっちゃおっかな)
「あー、そうそう」
ロキは急にテンションを変える。
「僕に向かった勇敢な男の子がいてね」
「…………」
「殺しちゃった」
(さぁ、見せてよ。その絶望に変わった顔を。その顔が僕の欲を駆り立てるんだから)
すると、ムチの色がピンク色から濃い紫色に変わる。
そして、またムチを振る。
(同じこと……)
振られたムチは、難なくロキの半身を真っ二つにした。
「……え?」
重力に従い、地面に落ちる。バラバラになった箇所が磁石のように引き寄せられて再生され、立ち上がる。
(まさか、新しい技?そうか。あれから一ヶ月か。どうりで成長してるわけだ)
アヤは飛行魔法を使って降りてくる。
「フフフ。予想以上だ」
ロキは笑いながら言う。
「ヤりがいがありそうな女の子だ」
突然、大きな声が聞こえる。
「カノン、そっちの魔物を頼んだ!」
「……は?」
振り向くと、そこにはレイナとカノンがいた。
「ち、しらけるな」
そう言うとロキは、瞬間移動で消えていった。
アヤはムチをしまい、タクに駆け寄る。
「ねえ、起きてよ……」
彼は目を瞑ったままで、反応はしない。まるで、あの時の人たちのようだ。
アヤに気づいたレイナは、彼女に駆け寄る。
「どうした……」
倒れているタクを見る。腹から血が出ていてmあたりは真っ赤な海になっていた。
「ちょっと待ってろ。カノン……仲間を呼んでくる」
*
ロキは偶然なのか、ミミの前にいる。
「……ロキか」
椅子をクルクルと回し、ミミがロキを見る。
「……ねぇ、どうしてタクにトドメを刺さなかったのかな?」
「…………はい?」
「あれは高い確率で生きてるよ。せっかくわたしが作戦を伝えたのに」
ロキはすぐに跪く。
「申し訳ありませんでした」
「んー。どうしようかな。別に、ロキの『特殊魔法』にもう需要ないし、消してもいいんだけどなー」
「……それだけは、勘弁してください」
「全部が、甘い」
ミミは椅子から立ち、ロキの肩を蹴る。
「全部、全部、全部。全部が甘い。やっぱり、なにか勘違いをしてるのかな?」
ロキの顔は腹正しさで満ちていた。
蹴りが終わると、ミミはこう言った。
「言っとくけど、君には生きてる価値なんてないんだからね」
「…………」
「下がって」
「…………はい」
淡々とした冷たい声でそう言われ、ロキは従うしかなかった。




