「魔王の駒」
四大魔法使いの会議を終え、レイナは屋敷に戻る。
「…………カノン?」
玄関は静かだった。いつもなら、帰ってくれば瞬間移動でもこっちに来るのに。
「あぁ、カノンさんなら、東の街の魔物を倒しに行きましたよ」
通りかかったタクが言う。
レイナは嫌な予感を感じる。
(おかしいな。俺がいない時に限って、都合よくポストに手紙が投函されるものか?なにかおかしいな)
「タク。カノンが屋敷を出たのは?」
「確か…………一時間くらい前ですけど」
(やっぱり。カノンがそんなに時間をかけない。十分くらいなのに)
「俺も言ってくる」
レイナは踵を返し、屋敷を出る。
「えー。魔法使いって、疲れないのかな……」
タクはそうつぶやいた。
*
エリスはカノンの首を掴んで宙に浮かせる。
「油断しちゃったね。いや、そもそも私たちとの戦闘経験がないから無理だったか。魔法大戦争じゃ、アンタはネペロ地方に居たってミミ様が言ってたし」
エリスの足元には、カノンの剣が落ちている。
「私たちは、背中を刺されたって死なない。心臓だよ。そこさえ突けば私たちは死ぬけど、当たりどころが悪かったね。後もう少しで心臓だったのに」
「……“たち”まさか、まだいるってこと」
カノンのその言葉に、エリスは驚く。
「口が軽すぎたな」
そして……
「そうだよ。私たちはミミ様に仕える上級個体の集団。名付けて『魔王の駒』」
「…………」
「私は口が軽いから言うけど、私の『特殊魔法』は、戦闘力を操る。今こうしてアンタを持ち上げてるのも、戦闘力の差があるから」
「…………」
カノンは足を動かして、エリスの顔に蹴りを入れる。
「……ダメだね。それじゃ。戦闘力の差が大きすぎる」
すかさず蹴ってきた足を掴み、徐々に広げ始める。
「どうかな?百八十度に曲げれば折れるはずだけど」
とうとう、太ももに痛みが走る。
「…………っ」
するとエリスの首が吹き飛び、カノンの腰に手が回される。
横を見ると、レイナがいた。
「……上級個体だな。すぐに首は再生される」
エリスは起き上がると、すぐに首を再生する。
「……虹色の瞳」
エリスはレイナの目を見る。
(でも)
(特殊魔法で戦闘力を上げれば、どうってことはない)
「…………剣、使わなかったのか」
レイナは遠くに落ちてあるカノンの剣を見る。
「……もったいなくて」
「とにかく、弱点はわかる。魔法大戦争で山ほど倒したからな。歩けるなら、遠くに逃げてろ」
「…………わかった」
カノンはレイナの手から離れ、遠くに逃げる。エリスは切られた首を再生し、レイナは剣を抜く。
(いくら人が来ても同じこと)
エリスは戦闘力を上げ続ける。
すると、レイナが低空飛行で向かってくる。
(さぁ、来い……)
エリスの目と鼻の先に来た瞬間、レイナの髪の毛が一瞬だけ鮮やかな虹色になる。
「…………⁉︎」
その影響はスピードにも出た。一瞬でレイナはエリスの胸元から、真っ二つにする。エリスはそのスピードさえ見えなかった。
無惨にも、エリスの両半身は地面につく。
(おかしい。なに、あれ。切られると言うことは、私の戦闘力を上回ってる)
*
「……ハハハハハ!」
ミミは瞑っていた目を開ける。
「エリスがやられちゃったか……やっぱり、エリスじゃ弱すぎたか。口は軽いからこっちの情報ペラペラ喋っちゃうし。まぁ、早めに始末してもらって助かったかなー」
*
エリスの全身が包まれるようにして消えていく。
そして、剣を拾って駆け寄ってきたカノンに渡す。
「ほら」
「ありがとう」
受け取り、サヤに刺す。
「……怪我は?」
「大丈夫かな……」
「……なんかあったら言えよ」
「はいはい」
二人は屋敷に向かって飛行魔法で飛んでいった。




