上級個体
レイナの四大魔法使い会議と時を同じくして魔法団の屋敷では――
「おやおや」
カノンはポストに投函されていた手紙を見る。
「中級個体か……」
魔物の目撃情報だ。場所は、ここから東の街。中級個体の魔物はそこそこ危険だ。下手すれば人を襲う危険性も出てくる。
カノンは部屋で剣を抜く。その剣は綺麗なブロンズで、鍔には、アサガオ、刀身にはアイビーが彫られている。
「…………」
魔法大戦争の後の会話を思い出す。
『カノン。剣が折れただろ?』
『うん。でも、新しいの作ってもらったから』
『んー。それがだな……』
カノンはそれをサヤにしまってテーブルに置くと、もう一本の新品のような銀色の剣を腰に刺し、腰の後ろにポシェットをつける。
「よし……」
目がキラキラしていた。
その目は、現地に向かった時に血走るようになった。
街に入ったら、悲鳴がたくさん聞こえたからだ。
地面は血が飛び散り、建物は燃やされ、焦げた匂いが鼻につく。
「あれ、思ったより速い?」
そこには、真っ黒な翼の女性がいた。血がついた黒い服には、チェスのクイーンの駒がある。
(コイツか。ミミ様が言ってた脅威は)
前日――
エリスはミミの前に立っている。
「いい?エリス。レイナは割とどうでもいい。その強さは私が肌で感じてるから」
「…………」
「でも、カノンは戦ってないからわからない。分かることは、カノンはレイナ以上にキレもの。特に、レイナと一緒にいる時はそれがよく出る。そこで、レイナがいない時のカノンの強さを確かめてほしい」
「…………分かった」
エリスは首を曲げて、ポキっと鳴らす。
「いいね。一般人ばっかり殺してきたから、生の魔法使いは初めてだね」
狂気的な笑みを浮かべ、カノンを見る。
(今、わかっていること)
カノンは輝く銀色の剣を抜く。
(ミミの手下で、ここで倒さなきゃいけない。気配からして相当な数を殺してる)
カノンの目の色が赤色になる。
「お、『特殊魔法』か」
エリスがカノンの目の色を見て言う。
そして、カノンが地面を蹴って向かってくる。
風を切ってカノンは剣を振る。
エリスは翼で飛び上がって斬撃を回避する。
(思ったより……)
すかさずカノンは飛行魔法でエリスに向かう。
(速い……?)
剣が振られて回避するが、顔に小さな切り傷がつく。その傷は地面に着地する間に再生する。
(再生……やっぱり、魔物。中級じゃなくて、上級個体)
魔物の中級と上級の見分け方として、口数の多さ、再生能力、容姿が上げられる。口数が多く、言語も堪能、すぐに再生できる、容姿も人間に近い。まさに、上級個体の特徴だ。
カノンもエリスに続いて距離をとって地面に降りる。
お互いにしばらく向かい合う。
先制攻撃を繰り出したのはカノンだった。剣を構え、飛行魔法のテクニックの一種である低空飛行でエリスに急接近する。
エリスはその攻撃を避ける。
(さっきは傷をつけられたのに。まさか、もうスピードの順応した……?)
カノンは地面を引きずりながらブレーキをかける。
(いや、あんな短時間じゃありえない。まさか、「特殊魔法」?だとすると、どんな「特殊魔法」?)
考えているうちに、エリスが魔力の塊の弾である魔弾を撃ってくる。しゃがんで避けると、後ろの建物に当たって爆発する。
そして、エリスが向かってくる。掌から刃を出しながら。
(魔力の塊。やっぱり、魔物)
上級個体は、人間をベースに作られている。それゆれ、人間と同等の知能を持ち、魔法の扱いも魔物になった時点で洗練されている。
カノンは剣を持っている反対の肘でエリスの掌の刃を折る。地面に落ちた刃は、すぐに消えた。
そして、一瞬でガラ空きのエリスの背中を、剣で刺す。
(相変わらず、この感覚は慣れない。毎回、気持ち悪い感触だ)
腕をダランと垂らし、エリスはそのまま動かなくなった。




