伝説
「あの、レイナさん」
タクはレイナの部屋に入り、プリンが座っていたところの隣座る。
「ん……?」
残ったクッキーをレイナはつまんでいる。
「プリンさんって、どんな人なんですか?」
「…………どういうことだ?」
「あの人は、僕に魔法を使ってネペロ地方に向かわせてくれました」
「あぁ、言ってたな。そんなこと。誇らしげに言ってたぞ。魔法を使ったのは『半年ぶり』だと」
「それと、疑問に思ったことがあります」
「…………疑問?」
「プリンさんもそうなんですけど、レイナさんも、失礼ですけど、瞳の色が特殊な気がします」
「…………」
「それって、何か、意味があるんですか?」
レイナは咀嚼しているクッキーを飲み込み、口を開く。
「魔歴……見たことあるか?」
「はい」
魔歴――正式名称、魔法歴史。魔法に関する歴史のことである。これには、魔法の発展について書かれている。主に、ムーズの残酷な実験が槍玉にあげられるが、ある人物もいる。
「『キー』って、知ってるか?」
タクは記憶をかき回す。
「…………見たことがあります。確か、黒竜皇を倒して魔法の知名度を押し上げた英雄だと」
「…………俺とプリンは、その『キー』の子孫だ」
タクは驚いて目を見開く
「で、この目だ」
レイナは前髪を上げて虹色の瞳を見せる。
「この目は、その『キー』の目の色だと言われている。だから俺は巷じゃ、『今を生きるキー』だなんて呼ばれてるんだ」
「…………なるほど」
「『キー』のことが知りたいなら、この屋敷に書庫があるから見るといいぞ」
*
タクはレイナに教えられた書庫に入る。
「…………広っ」
中は広く、高いところまで本が積まれている。
「あんな高いところに…………どうやって取るんだろう」
「どうしたの?」
その声がこだまする。ここは広くて音が反響するようだ。
すると、カノンが歩いてきた。
「いや、あんな高いところに本があると、取りづらくないですか?」
「あぁ、飛行魔法を……あぁ、使えなかったか。じゃ、教えてあげるよ」
「え…………」
「まずね……」
カノンは言葉を整えているのか、少し黙りこむ。
「まず、『空を飛びたい!』って思うこと。そのあと、ジャンプすればできるよ。やってみな」
(えっと、空を飛ぶ、空を飛ぶ)
そう思い、ジャンプする。すると、体がふわふわと浮く。
「移動なら、移動したいところを見続けることだよ」
試しに、タクは手前の一番高いところの本をじっと見ると、引き寄せられるように本に近づく。
「あ、でも……」
タクはあることに気づく。ブレーキの方法がわからないのだ。
もちろんだが、本棚に頭を打ってしまう。浮いたまま目に涙を浮かべる。
「ごめん。忘れてた」
カノンの小さめの謝罪の言葉が聞こえる。
「急ブレーキはできないんだよ。『止まる』って思えばできるから」
タクは魔歴の本を取り、奥の机に座りパラパラと広げる。
「あった……」
魔歴によると、こうである。
『今より、百の八年前……
今はむかし、五つの星を取り巻き天を覆い尽くす竜。黒竜皇が現れたり
住民は恐怖で石の如くであった。
しかしあるとき、天から黒き布を羽織りしもの舞い降りる。その姿に、雨上がりのような髪と瞳をしていた人を、人々は神と崇めたり。
「あの天にいる竜、撃ち落としてくださいませ」とある老爺。そのもの、深く頷き、また飛び上がり。
曰く、刀身が空のような剣を持ち、幾千の魔法で黒竜皇、打ち破りたり。
地におりた神、名を「キー」と言う。
このもの、数多の功績を残し、後に語られるよう』
タクは机に突っ伏す。
「全然わからん」
古い言葉は苦手なようだ。
それに、一人で読むのは向かない。
ふと、アヤの顔がよぎった。




