それはそれ
ロキはルシファーに連れられ、ある椅子に通される。
「連れてきました。ミミ様」
椅子がクルリと回り、女性が姿を現す。そこには、十代の少女がいた。
まさか、こんな純粋な顔をしている少女が、約二十万人を葬ったとは思えない。
「ルシファー、ありがとうね……さてと」
ミミはロキを見る。ロキはすぐに言う。
「だって、しょうがないじゃないですか。アヤが、突然『特殊魔法』が発動したんですから」
「ロキ!言い訳か!」
ルシファーが声を荒げる。
「あぁ、いいんだよ」
彼の激情を止めたのはミミだった。
「……申し訳ありません」
ミミは続ける。
「うん。そうだね。わたしもロキみたいになってたかもね。それに、急に前倒しにした私も悪い」
「…………」
「さ、この話はおしまいおしまい」
ミミはぱんぱんと手を叩く。
「また次、頑張ろうね」
「…………はい」
ミミの笑っている顔からは、なにも読めなかった。
*
「アヤ……」
神父は、アヤの部屋の扉を開ける。
「魔法団の人が話を聞きたいそうです…………できますか?」
「……う……ん」
途切れ途切れだが、頷く。神父も苦い顔をして「どうぞ」と促しタクを部屋に入る。
「…………」
腕は細く、とてもあのムチでロキを吹き飛ばしたとは思えない。
「アヤ……」
タクが名前を呼ぶ。
「早速だけど、どうしてあの魔法を使えたの?」
「……知らない…………でも、怒った……そうしたら、勝手に出てきて……振ってた」
「……なるほど。他に、何か覚えてないかな?」
アヤは首を縦に振る。
「……そっか……そうだ」
タクはあえて何かを思いついたかのように言った。
「レイナ魔法団に、入らない?」
「…………」
「多分、そのムチは魔法だよ。だから……」
すると、アヤの息が荒くなる。
「…………!」
タクは慌てて神父に寄る。
「ここまでですね」
そう言うと、神父は入れ替わるかのようにアヤの背中をさすった。
しばらくして、神父は戻ってくる。
「ルシファーの言葉からして、もうミミはアヤを捕獲はしないでしょう。それだけはわかります」
*
「…………」
ロキは廊下を歩いている。そして、あの記憶が蘇る。
ミミの命令への失敗。そして、何よりの屈辱。アヤという自分より格下の存在に殺されかけたこと。
(ありえないことだ)
前髪を手で掴み、クシャッと握る。
「俺は…………する方なのに」
イライラして、壁を殴る。
「うるさい!」
後ろから瓶が飛んできて、ロキの足元で割れる。ロキは振り返る。
「お前の方がうるさいんだよ。エリス」
背中に黒い翼を生やした女性。胸に黒いクイーンのチェスの駒がある。よく見ると、黒い服に点々とシミがついている。
「またやったのか。何人だ」
「覚えてない。大体百人くらい」
「…………ミミ様も大喜びだろうな」
そう言うと、ロキは廊下を歩いていった。




