<下>幸福
沢山甘やかしてもらって、膝枕をする? と素敵な提案をしてくれたから喜んで膝の上にお邪魔した。柔らかくて、いい匂いがする。お腹にギュッと抱きついてすりすりしてみたり、顔を埋めて匂いを嗅いでもくすくす笑うだけで止められないから、許されたってことで全力で堪能することにした。下着しか着ていないのに、えっちすぎる提案をしてきたレイラが悪い。しっぽが暴れているけれど、気にしたら負けだ。
時々えっちな吐息に煽られつつ、もう発情期も落ち着いたし耐えられるぞ、と1人気合を入れる。
「ロッティ、もう発情期は落ち着いたと思っているけれど、間違いない?」
「うん。落ち着いてると思う。もう発情期に怯えなくていいんだね。あ、でも毎年来るか……」
レイラが居てくれるから心配はないけれど、毎年あんなに本能に呑まれてしまうと引かれちゃうんじゃないかって思ったら、発情期なんてもう来なければいいのにと強く思う。
「あら、これからの発情期は、私がいるのだから怯えることなんてないでしょう?」
「怯えることは無いけれど、違う意味で怖いかも」
「どうして?」
レイラの表情が曇るのを見て、誤解をされているかも、と焦る。レイラに対しての不安なんて一切ない。ただ、求めすぎて嫌われたら生きていけないから怖い。
「理性を失って、獣みたいになっちゃうもん。レイラに嫌われちゃいそうで、こわい」
「それなら、私だって理性なんて残ってなかったし……そんな私は嫌い?」
「そんなことない!」
レイラのことを嫌いになるなんて、ありえない。求めてもらえて嬉しい気持ちしかなかったのに。否定すれば、優しくお互い様ね、と伝えてくれて嫌がっていないことが分かりホッとした。
「みんな心配しているから、動けるなら顔を見せた方がいいと思うのだけれど、どう?」
「大丈夫」
「良かった。えっと、先触れとか、どうしたらいい?」
威圧が抑えられたから離宮に使用人が戻り始めているだろうし、侍女もきっと鈴が聞こえる範囲にはいるはず。あられもない声は聞こえていなかったと信じたい。
「多分、近くに誰かしら待機していると思うから……侍女を部屋に呼んでもいい? みんなに会う前に、お風呂にも入っておきたいし」
「もちろん。一緒に入りましょうね」
「……うん」
侍女達に入浴させてもらう時は何も感じないのに、レイラと一緒にお風呂は恥ずかしいな……もう全部見られてるし、色々されてるし今だって裸だけど、なんかえっちな気がする。
服を着て、テーブルに置かれていた鈴を鳴らすと、リーンと澄んだ音がして、少し待つと遠慮がちにドアがノックされた。
「入って」
「失礼します」
しばらくぶりの聞きなれた声がして私専属の侍女たちが入室してくる。私を見て泣きそうな表情を見せたのは一瞬で、それぞれ定位置に移動していった。
「シャーロット様、お呼びでしょうか」
「入浴準備をお願い。レイラと入るから、手伝いは不要で大丈夫。その間に部屋のことをお願い」
「かしこまりました」
それぞれ動き出したけれど、レイラの視線が侍女たちを目で追っている。私が隣にいるのに、どうして? 誰か気になるの?
「ねぇ」
「ん?」
「侍女ばっかり見ないで」
「え?」
きょとん、とした表情で見つめ返され、そんな顔もかわいいなと思う。
「私が隣にいるのに、なんでよそ見するの?」
「んん」
レイラは私の番なのに。少しでも、他の人に気持ちを向けて欲しくない。レイラには私だけを見ていて欲しい。
「ねぇ、私だけ見てよ」
レイラが答えをくれなくてどんどん不安になっていく。私はレイラが居ないと生きていけないけれど、レイラはそうじゃない。レイラも獣人だし、番への執着が強い同族だから心配ないのかもしれないけれど、発情期のみの契約でそれ以外は他の恋人と、という事例だって過去にはある。確か他種族だったから状況は違うけれど。
こうして番になってくれて助けて貰って、それだけで充分なはずなのに、それ以上を求めてしまう。どうか、私だけを見て。
「何? 誘ってる? 私がよそ見すると思うなんて、伝わってないってことよね? 分からせてあげようか?」
「ちょ、レイラ……!? 皆部屋にいるんだけど!?」
隣に座っていたレイラに押し倒されて、慌てて押し戻そうとしたけれど、グッと体重をかけられて抵抗を封じられる。もしかして怒ってる……?
「大丈夫。既に居ないわよ。ホント、優秀ね」
「いつの間に……!?」
「お風呂、少し遅くなるけどいいわよね?」
「……お手柔らかにお願いします」
笑顔なのに、獲物を狙う目で見つめられ拒否権なんてない。求められて嬉しいから拒否なんてしないけれど。
*****
あの後、好き、愛していると囁かれ、もう疑わないように、としっかり身体に分からされることになった。
自力では動けなくなった私に慌てたレイラはとても心配しつつお風呂に入れてくれ、沢山甘やかしてくれた。
少し休んでからプライベートスペースに移動すれば、家族がみんな揃っていて、見回せば、悲壮感が消えていることがとても嬉しい。
「あぁ……シャー」
「母様、心配かけてごめんなさい。この通り、染めてもらえたよ」
感極まる母を父がそっと抱き寄せて、兄姉達に囲まれる。
「番の色だな。おめでとう」
「綺麗なオレンジ色ね」
「間に合わないかと思ったが、本当に良かった」
「シャー、幸せそうで安心したわ」
「兄様、姉様……ありがとう。うん。レイラの色に染まったよ。幸せだから、安心して」
それぞれ言葉をかけてくれて、みんな嬉しそうに笑ってくれて、レイラのおかげだなと視線を送ればこちらを見ていて微笑んでくれた。あぁ、好きだなぁ。
ざっと今後のことを確認されたけれど知識としては知っていたから、特に真新しい内容はなかった。レイラが今後どれくらい冒険者として活動するかは、レイラに聞いておかないと。長期で不在とかは、絶対耐えられない。短時間だって離れたくないし遠くに行って欲しくないし、なんなら部屋から出ないでほしい。
レイラも同じことを詳しく説明されているはずだけれど、どんな感じかなと見てみれば困惑を隠しきれない表情をしており、いっぱいいっぱいな様子が見て取れた。それはそうだよね。
家族にレイラのところに行くと声をかければ、そうしなさい、と送り出してくれた。
「レイラ」
「ロッティ……」
私を見てホッとしたように笑ってくれた番が愛しすぎて、胸が苦しい。レイラの体温を感じたくて、膝の上に座って首筋に顔をうずめて匂いを嗅いだ。舐めて噛んだらだめかなぁ……安心する、いい匂いに包まれて、幸せでふわふわする。
宰相がまだ説明をしていたけれど、私は知っているし、レイラが分からなかったところは私から説明するから問題ない。むしろ、私が全部説明をしたかった。
レイラを見上げても、宰相の話を聞いていてこっちを向いてくれないのがつまらないなぁと思って視線を下げれば、綺麗な指が目に入った。指を絡めて、親指ですりすりさすってみればピクリとレイラが反応してくれて嬉しくなった。指も、舐めて甘噛みしたい。
視線を感じて家族の方を見れば、生暖かい視線が向けられていてちょっと恥ずかしくなったけれど、皆だって番が傍にいれば同じだからね?
少し考えて、舐めるのと甘噛みは2人の時にしようと決めてぎゅっと抱きつくことにした。
見上げれば、レイラと目が合った。目が合って嬉しくなったけれど、この笑顔はまずい。怒られるかもしれない。でも、首も指も舐めなかったし、噛むのもちゃんと我慢したし、怒るんじゃなくて褒めて欲しいなぁ。
様子をちらりと伺っていれば、レイラが天を仰いだ。え、大丈夫?
「シャー、話は終わったようだから、このまま蜜月に入るといい。もう部屋に戻りなさい」
「やったぁ! レイラ、戻ろ!」
「レイラ殿……いや、レイラ。本当にありがとう。娘が増えて嬉しく思う。末っ子気質でお転婆な娘だが、どうか見捨てずよろしく頼む」
父から苦笑と共に退室と蜜月に入る許可が出たけれど、最後の一言は余計では……?
廊下で待機していた侍女が新しく用意された部屋まで先導してくれる途中、沢山の人からお祝いの言葉をもらった。紋章を見て悲しむ姿は消え、喜びとなったのが嬉しい。
「こちらです」
「ひっろ」
案内された部屋に入れば、レイラから声が漏れ、興味深そうに部屋を見回している。
天蓋付きのベッド、ソファにテーブル、簡易的なキッチンがあり、更に4つ扉がある。トイレ、お風呂、それぞれの部屋となっているとの事だった。それぞれの部屋なんていらないのにどうして用意したのかなぁ……
「何かあればお呼びください。カーテンを閉めていただければ外からは見えませんので、ご安心くださいませ。それでは、失礼いたします」
「いや、ホント凄いわね、王城。部屋を見てきてもいい?」
「一緒に行く」
片方の部屋にはレイラの荷物も運ばれていてすぐにでも住める状態になっていて、私の部屋も覗けば、私室の荷物が運ばれていた。ベッドまであるじゃん。いらないよ。レイラが1人で寝たいって言ったら、1日くらいはちゃんと我慢できる、と思う。……たぶん。
「それぞれの部屋なんていらないのになぁ……」
「え」
うわ、声に出ちゃった。こんなこと言われたら使いにくくなっちゃう。失敗したなぁ……
「あっ、ごめん、今のなし、なし! レイラが1人になりたい時はもちろん使ってもらっていいし、過ごしやすいように整えて……レイラ?」
慌てて弁解すれば、レイラに手を引かれてベッドに誘導された。カーテンも閉められて、外からも見えなくなった。
「私も、それぞれの部屋なんていらないのに、って思っていて。ロッティも同じだったのね」
「うん。嬉しい」
頬を撫でてくれるのも嬉しいけれど、別のこともしたい。さっきは我慢したけれど、2人きりになったし、もういいよね?
反対側の手をとって、綺麗な指を丁寧に舐める。甘噛みをすればレイラから声が漏れて、感じてくれていて色っぽい。
「っ、蜜月のお許しがでたし……いい? 優しくするから」
「んっ……うん。優しくなくていいから……レイラでいっぱいにして?」
「ーっ! ぁあ、もう、ほんっと……」
ベッドに押し倒されて、欲のある視線で見つめられて、求められていることに喜びを感じる。もっと、私のことしか考えられなくなって。
これから先、私を選んでくれたことを後悔させないように、全力で愛を伝えていくから。
一緒に幸せになろうね。
お読み下さりありがとうございました。




