<下>運命
拗ねてしまったロッティを沢山甘やかした結果、すっかり機嫌が良くなって私の膝に頭を乗せて寛いでいる。たまにお腹に抱きついて満足気にしていて、とても可愛い。お互い下着姿だし、あんまり可愛いことをされると我慢ができなくなってしまうのだけれど。
「ロッティ、もう発情期は落ち着いたと思っているけれど、間違いない?」
「うん。落ち着いてると思う。もう発情期に怯えなくていいんだね。あ、でも毎年来るか……」
「あら、これからの発情期は、私がいるのだから怯えることなんてないでしょう?」
「怯えることは無いけれど、違う意味で怖いかも」
これから先は番持ちの王族と何も変わらないし、心配なんて無いはずなのに、何が怖いの? 私では不安ということ?
「どうして?」
「理性を失って、獣みたいになっちゃうもん。レイラに嫌われちゃいそうで、こわい」
え? 何この可愛い子。しゅんとして俯く姿は庇護欲を誘うし、私に嫌われるのが怖いだなんて、愛しくて仕方がない。
「それなら、私だって理性なんて残ってなかったし……そんな私は嫌い?」
「そんなことない!」
慌てたように顔を上げて否定してくれて、お互い様ね、と伝えれば頷いてくれた。
「みんな心配しているから、動けるなら顔を見せた方がいいと思うのだけれど、どう?」
「大丈夫」
「良かった。えっと、先触れとか、どうしたらいい?」
「多分、近くに誰かしら待機していると思うから……侍女を部屋に呼んでもいい? みんなに会う前に、お風呂にも入っておきたいし」
「もちろん。一緒に入りましょうね」
「……うん」
沢山愛し合ったのに、恥ずかしそうに顔を赤らめるのがとても良い。こんなに可愛い姿は見せたくないけれど、身分もあるし、仕方ない。
服を着て、テーブルに置かれていた鈴を鳴らすと、リーンと澄んだ音がして、少し待つと遠慮がちにドアがノックされた。
「入って」
「失礼します」
ロッティが入室を促せば、数人が静かに入室して、1人はこちらに向かってきて、他は壁際に控えた。
「シャーロット様、お呼びでしょうか」
「入浴準備をお願い。レイラと入るから、手伝いは不要で大丈夫。その間に部屋のことをお願い」
「かしこまりました」
すっと頭を下げて、壁際に視線を送れば、それぞれが動き出して、その動きは迷いがなく、とても洗練されている。
「ねぇ」
「ん?」
元気になったシャーロットを見て、泣きそうな表情を見せたのは一瞬で、さすが王城、素晴らしいなぁと感心していれば、横からとても不機嫌な声がする。
「侍女ばっかり見ないで」
「え?」
もしかして、これは嫉妬? 可愛すぎません?
「私が隣にいるのに、なんでよそ見するの?」
「んん」
まさか、侍女にヤキモチをやくなんて。そんな気持ちで見ていなかったけれど、これはちょっと、いじめたくなるかもしれない……
「ねぇ、私だけ見てよ」
反応が鈍い私に焦れたのか、服の袖を掴み、俯きながら不安そうな声で懇願してくる。こんなの、我慢できなくなるって……お風呂が遅くなるけど、少しくらいならいいわよね。番に私の気持ちが伝わっていないってことだし、最優先で分かってもらわなきゃね?
周囲の侍女と視線を合わせれば、力強く頷かれて、退室していく。感謝の気持ちを込めて頭を下げた。
「何? 誘ってる? 私がよそ見すると思うなんて、伝わってないってことよね? 分からせてあげようか?」
「ちょ、レイラ……!? 皆部屋にいるんだけど!?」
隣に座っているロッティを押し倒して、至近距離でニヤリと笑って見せれば、慌てたように押し戻そうとしてくる。
「大丈夫。既に居ないわよ。ホント、優秀ね」
「いつの間に……!?」
「お風呂、少し遅くなるけどいいわよね?」
「……お手柔らかにお願いします」
期待と不安が混ざった表情で見つめられ、ちょっといじめてしまった私は悪くないと思いたい。
*****
あの後、病み上がりなのに無理をさせてしまったから、下心なしでお風呂に入れて、少し休んでから人生で二度目の王城のプライベートスペースにやってきた。
目の前には、心温まる光景が広がっている。ロッティを囲む王子、王女殿下たち、そしてそんな姿を見て涙ぐむ王妃様、王妃様の肩を抱いて優しい表情の陛下。憔悴していた姿を見ているから、本当に良かったなぁ、と眺めていた。
私がこの場にいるのも、凄いことよね。
ロッティと目が合ったから微笑みかければ、にぱっと笑顔を見せてくれて、可愛さに悶えることになった。
家族団欒を過ごしてもらっている間に、宰相閣下から直々に今後について説明してもらえることになった。
今後の冒険者としての活動に制限はないこと、正式に王家の一員に加わること、既に番が見つかったことは公布済みであり、大々的にお披露目をすること、ロッティと私のための部屋の準備は既に整っている事など、色々と心の準備が追いつかない。それから、番登録は検査で提出済みの血液で申請をしておいてくれるらしく、プレートの受け取りが待ち遠しい。あと、王都は既にお祭り騒ぎらしい。
キャパオーバーとなった私の様子を見て、ロッティが来てくれたけれど、私の膝の上に座り、擦り寄ってきたり匂いを嗅いだりと好きに過ごしていて理性を保つのに必死だった。あの、説明聞いてくれる? 私を落ち着かせるどころか、番の体温や柔らかい身体に触れて余計に頭が回らなくなってくる。
王家の皆さんからの生暖かい視線は、気が付かなかったことにしたい。2人きりになったら、覚悟しなさいね?
私の笑顔に身の危険を感じたのか、ロッティがビクッとなり、しっぽも耳もピーンと立っていて、警戒しているみたい。チラチラと上目遣いで見てくるのがあまりにも可愛くて天を仰いでしまった。私の番が可愛すぎてつらい。
苦笑した陛下からお礼とともにこのまま蜜月に入るといい、と退室を許され、廊下で待機していた侍女が新しく用意された部屋まで先導してくれる。
ロッティは私の腕に抱きつきながら、すれ違う度にかけられるお祝いの言葉ににこやかに応対している。先日の様子が嘘のように、王城の雰囲気はとても明るい。
「こちらです」
「ひっろ」
案内された部屋に入れば、天蓋付きのベッド、ソファにテーブル、簡易的なキッチンがあり、更に4つ扉がある。トイレ、お風呂、それぞれの部屋となっているとの事だった。
「何かあればお呼びください。カーテンを閉めていただければ外からは見えませんので、ご安心くださいませ。それでは、失礼いたします」
絶対にカーテンを閉めないと。本当に優秀ね。
「いや、ホント凄いわね、王城。部屋を見てきてもいい?」
「一緒に行く」
片方の部屋には私の荷物も運ばれていて、すぐにでも住める状態になっていた。ロッティの部屋も覗けば、ピンク系が多くて、とても可愛らしかった。部屋の作りは同じだけれど、全然違うように思える。個人の部屋にもベッドがあり、別々で寝ることもできるようになっていた。それぞれの部屋なんて、いらないのだけれど。ロッティが1人で寝たいって言ったら、全力で抵抗してしまいそう。
「それぞれの部屋なんていらないのになぁ……」
「え」
「あっ、ごめん、今のなし、なし! レイラが1人になりたい時はもちろん使ってもらっていいし、過ごしやすいように整えて……レイラ?」
同じことを考えていたことが嬉しくて、ロッティの手を引いてベッドに誘導し、ベッドカーテンを閉めた。
「私も、それぞれの部屋なんていらないのに、って思っていて。ロッティも同じだったのね」
「うん。嬉しい」
ベッドに座らせて頬を撫でれば、目を細めて擦り寄ってくる。反対側の手を取られて、指を舐めたり甘噛みをしてくるから、理性がガリガリ削られていく。
「っ、蜜月のお許しがでたし……いい? 優しくするから」
「んっ……うん。優しくなくていいから……レイラでいっぱいにして?」
「ーっ! ぁあ、もう、ほんっと……」
愛しの番にまんまと誘われて、ベッドに押し倒して馬乗りになる。きっと、私は余裕のない表情をしているんだろう。誘ったのはロッティだから、覚悟しなさいね?
番という運命で繋がった私たちだけれど、それだけではない心の繋がりを深めて、一緒に幸せになりましょうね。
お読みいただきありがとうございました。 近々シャーロット視点も公開しますので、投稿したらお読みいただけたら嬉しいです。