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黒狼と銀狼  作者:
2/3

<中>本能

 目の前に、番が居る。番に出逢えたという歓喜と、こんなに弱るまで存在に気がつけなかった己への怒り、儚すぎて消えてしまいそうな不安、自分のものにしたいという欲望全てが入りまじる。落ち着かせようと深呼吸をすれば思いっきり濃密な香りを吸ってしまい逆効果だった。

 荒くなる呼吸を何とか落ち着けて、まずは挨拶をしなければ、と理性を総動員させて真っ直ぐ見つめれば鮮やかな紫の目も見つめ返してくれ、その瞳に私だけが映ることに、喜びを感じる。


「……っ、レイラと申します……っ、近づいても構いませんか」

「レイラ……っ、はぁっ、レイラ……近くに……」


 ベッドの上に腰掛けていた番は心臓の辺りを強くおさえ、切なげに目を細めて許可をくれた。番に名前を呼ばれるだけでこんなにも幸せだなんて、知らなかった。肯定され、歓喜が胸いっぱいに広がる。

 伸ばされた手を絡めれば、折れてしまいそうなくらい細い。触れあっただけで気持ちが良くて、もっと深く触れあいたいと本能が疼く。私と触れたことで誘発されたのか、匂いがさらに濃く、強くなる。


 首筋に王家の紋章が見えるけれど、染まっておらず番がいないということを明確に示していて、すぐにでも染めてしまいたい欲求に負けそう……抑制剤がなければ、目が会った瞬間に本能に呑み込まれて無理やり襲っていたに違いない。そうなれば同意がされず番になる前に体を重ねることになってしまうところだった。王太子殿下、心より感謝いたします。


「は……、私を番にしていただけますか」

「っん、レイラがいい」

「ぁぁ……血液でよろしいですか? それとも、キスをお許しいただけますか」

「……っ、は……ぁ、キス、がいい」

「ぐっ」


 涙目で恥ずかしそうに見上げられ、えっちすぎてほっそい理性がプチッと切れてしまうところだった。つがうためには、体液の交換が必要になり、番に出会えても、片方が受け入れられなければ繋がりは出来ず、お互いの同意が必要となる。

 お互い番だと認識していても、初めて会った私とのキスは抵抗があるだろうから、指先を専用の針で刺して血液の交換が良いかなと思っていたのに。


 屈んで唇を寄せれば、ゆっくり目を閉じてくれたからそっと唇を重ねる。


「ぁ……」


 様子を見ようと少し離れれば、悲しげな声が聞こえて、必死で理性を手繰り寄せた。


 嫌がっていないことを確認して、次は唾液を交換するように、舌を絡ませた。番として繋がったことで相手の状態が感じ取れ、本能と理性で揺れているのは私だけじゃないんだと嬉しくなった。


 視線の先で、首筋の王家の紋章が鮮やかに色づいていく。この感動をなんて表したらいいのだろう。国民なら知っている現象だけれど、この瞬間を見ることが出来たのは、私だけ。


「レイラ、染まった? 何色……?」

「オレンジに染まっています」

「へへ、オレンジかぁ、レイラの瞳の色に近いのかな? 嬉し……レイラ、ありがとう」


 紋章を撫でて幸せそうに微笑むから、とてつもない幸福感が広がっていく。


「ひっ、んぁ……」


 私の感情に引っ張られたのか、発情期が始まったのを感じて、間に合ってよかったと強く思う。どのくらいで発情期が落ち着くかは分からないけれど、体力には自信があるから多分大丈夫。……理性がどこまで持つかは非常に不安なところだけれど。

 今すぐに目の前の番を手に入れろという本能に呑み込まれてしまいそうで、苦しい。


「レイラ……はぁ……っ、なまえ、よんで?」

「ん゛っ」


 私はもう、ダメかもしれないわ……お願いだから煽らないでほしい。


「はぁ……っ、シャーロット様?」

「や」


 ふるふる、と首を振り、じっと見つめてくる。愛称で呼んで欲しいってことでいいの?


「んん……シャー? ロッテ? ロッティ? どれがいいですか?」

「んっ、ロッティがい……けいごもっ、いらないからぁっ、も……ほし……」


 限界なのは、私だけではなくて。ちゅ、と口付けで誘われて、その後はお互い本能に呑まれた。


 *****

「あのね、お腹すいちゃって……ドアの前に落ちてるバスケット、取ってきてもいい?」

「そうだった。すっかり忘れてたわ……」


 本能のまま何度も求め合って、理性が戻ってきたら空腹を感じたようだけれど、私がうとうとしながらも強く抱き締めていたから抜け出せず、おずおずと伝えてくれる。お腹がすいているのに申し訳ないけれど、恥ずかしそうでとても可愛い。


「王太子殿下から、落ち着いたら食べるように、って軽食をいただいていて。待ってて」

「ぁ……」


 頬を撫でて、裸のままでベッドから出れば寂しそうな声がして、直ぐに戻りたくなる。なんでベッド横まで運ばなかったの、昨日の私……


「離れてごめんね。どれが食べたい? 落としちゃったから、少し潰れちゃってるのもあるけど」

「レイラが食べさせてくれるならなんでもいい」

「ん゛んっ、かわいい……」


 食べさせてくれるならって、給餌させてくれるってこと……? 軽率に誘惑するのやめて? そんなの即堕ちますけど。いや、もう堕ちてたわね。休憩なんて取らせずに抱き潰し……だめ、落ち着くのよ……ロッティはきっと誘ってるつもりなんてない。まずは、番に栄養を取らせなければ……でもその前に肌を隠してもらわなきゃ。


「はい、あーん」

「あーん、んー、おいし。はい、レイラも。あーん」

「えっ……あー、ありがとう」


 にぱっと笑って給餌をしてくる番が可愛すぎて、きっと私はデレッデレなことでしょう。たまに食べさせてもらいつつ、ロッティへ給餌をする。素直に口を開けて、私からの給餌を受け入れてくれてとても満たされる。何度か繰り返せば、ふるふる、と悲しそうに首を振った。


「お腹いっぱい?」

「うん。しばらく食べられてなかったから、あんまり食べられないや」

「そう。残りは、取っておきましょうか」

「レイラは足りないんじゃ……?」

「私は、ロッティをもらうから」

「ーっ!? なっ……」


 給餌されながら、太ももを擦り合わせる動きをしていたし、まだ身体が疼くんだと思う。匂いもまだまだ強いし、番としてしっかり鎮めないとね?


「まだ辛いでしょ。おいで」

「……っ、ぅん」

「ふふ、可愛い」


 両手を広げて待てば、ぎゅうっと抱きついてきてくれて、首元にすりすりされてくすぐったい。素直で可愛い、私だけの番。もっと、私に溺れて?


 *****

 ロッティは薬の影響もあってかなり弱っていて、身体を重ねた後、眠りに落ちるという状況を繰り返している。一瞬たりとも離れたくなかったけれど、食事も水分も必要だし、シーツも交換したいし、お風呂にも入れてあげたい。そうすると、部屋を出る必要がある。すぐに誰かに会えるといいけど……


 静かにドアを開けて廊下に出れば、カートが置いてあり、食事と飲み物、リネン類が揃っていた。さすが王城、準備が素晴らしい。

 長く離れることにならずにとても有難い。万が一起きた時に私がいなかったら、悲しむだろうから。

 眠るロッティの頬に触れれば、無意識に擦り寄ってくれてとても愛しい。随分と顔色が良くなり、匂いも落ち着き威圧はすっかり抑えられていて安心する。

 目が覚めたら、ゆっくり話をしよう。私のことを知ってもらいたいし、ロッティのことも知りたいから。


 私も眠ることにして、ロッティを抱き締めれば、もぞもぞ動いて私の胸を枕にして落ち着いた。信頼を寄せてもらえていることを実感できて心がポカポカする。

 愛しい番の匂いを胸いっぱいに吸い込み、幸せな気持ちのまま目を閉じた。


「……ら、レイラ」

「ん……? ロッティ、おはよう」

「おはよ」


 番の声に、意識が浮上する。目を開ければ、ロッティがにぱっと笑った。銀色のしっぽもぶんぶん振られていて無邪気な笑顔が眩しい。番が可愛すぎる。


「身体は大丈夫?」

「……っ、あ、うん、大丈夫」


 顔を赤らめ、恥ずかしそうに頷く所も、とても可愛い。

 このまま抱いてしまいたい気持ちはとてもあるけれど、話をしたいと思っていたから、名残惜しいけれどぎゅっと抱きしめるだけにする。


「ロッティとね、沢山話をしたいなと思っていて。番になったけれど、ロッティの事はまだ何も知らないから……あ、身体はもう知っていたわね」

「ーっ!? レイラのえっち!!」

「んんっ、かわいい……」


 だめだ、番が可愛すぎて話が進まない。


「えーっと、では、改めまして自己紹介を。狼族のレイラ、歳は28、性別は女。職業は冒険者で、ソロのS級。しばらく帰国していなくて、気がつけなくてごめんね」

「ううん。来てくれてありがとう。S級冒険者……強いんだね。えっと、狼族のシャーロット、歳は18、性別は女。職業は……無職……? です」

「ふふっ、かぁわいい」

「むぅ、バカにしてるでしょ」


 ぷくぅと頬を膨らませ、笑ってしまった私に抗議をしてくる。恐らく発情期も治まり、食事と睡眠で随分元気になった。小さい頃から、無邪気で明るい姫は国民から大人気で、成人した今も、そんなところは変わっていないみたい。


「あまりにも可愛くて、ごめんね?」

「ぷんっ」

「ぇっ、かっわい……」

「むー」

「ごめんね? 許して? 出来ることなら何でもするわ」


 あ、ロッティが固まった。何をお願いしてくれるのかしらね?


「……甘やかしてくれたら許す」

「喜んで」


 沢山、色々な表情を見せて欲しい。私にしか見せない顔を、もっと。

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― 新着の感想 ―
っくノクターンだったらだいぶ話増えてたんだろうなあ
10歳差でしたかー 逆でレイラが歳下だったらアウトだったんですね お姫様と冒険者今後どうするのか興味深い とりあえず次回少しは落ち着くのかな? お部屋から出れるといいですね(笑)
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