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黒狼と銀狼  作者:
1/3

<上>番 (つがい)

新作です。お楽しみいただけたら嬉しいです。

 長期での依頼を終え、拠点としている街に戻ってきて周りを見渡せば違和感があった。何かと思えば、獣人の姿をあまり見かけない。私が不在にしている間に何かあったのかしらね……

 宿に戻ってゆっくりしたい気持ちはあるけれど、まずは報告が良さそうかな。不在にしていた間のことも知りたいし。


「レイラさん! 戻ってくださって良かった……! 帰国命令が出ています」

「帰国命令?」


 完了の報告をしにギルドへ寄れば、完了の報告を伝えるより先に慌てたように声をかけられた。

 強制力のある命令だなんて、そう簡単に出来るはずがないのに、一体何が……? それこそ、国か王家の危機くらいじゃないと……


「レイラさんだけではなく、番の居ない全ての獣王国民が対象です。数日前に発令されており、既に大多数移動済みです」

「全て!? 依頼ではなく、強制よね? 詳細は話せるの?」


 獣人をあまり見かけなかった理由はこれね……冒険者は組合がある国全てで活動が可能となるから、国を出て活動する獣人も多くいる。私もその中の一人で、18で成人してすぐに国を飛び出して、人族、竜人族、同じく獣人が治めている国などを沢山巡り、周辺国には種族に関わらず知り合いが出来て交流が増えた。


「はい。王家の末の姫様の番が見つからないそうで、再検査を行っているとの事です」

「はぁ!?」


 番が見つからない……? 一斉検査でも? 獣人には必ず番がいるけれど、種族や性別も問わず対象範囲が広いため番に出会えないまま生涯を終えるケースが多い。ただし、王家は別。王家は先祖の血が濃く、発情期が来るまでに番が居ないと周囲へも、もちろん自分自身にも影響が大きすぎて生命維持も難しく、過去には悲しい結末を辿った事例もいくつかある。そのため、早期に番を見つける必要があり、獣王国民は検査に協力する義務がある。姫様が悲しい結末を迎えないよう、少しでも早く番が見つかって欲しいと願うばかり。

 再検査を行なっているということは、きっと発情期の兆候があったということだろうから。


「レイラさん?」

「ごめんなさい、考え事をしていて。一斉検査からそんなに経ったのね……もうそんな年齢だなんて。15、6歳くらいかしらね」

「レイラさんが長期依頼の間に、末の姫様はもう成人なされていますよ」

「……は? 成人……? え、検査からそんなに経ってる……?」


 くすくす笑いながら伝えられた言葉に、背中を冷や汗が伝う。


「え、どうしたんですか……?」

「獣人の発情期ってね、種族差は多少あるけれど16歳には8……いや、9割は終えるわよ」

「……え」

「それがもう成人だなんて……何らかの手段で遅らせているとしても、どれ程の負担か……私は一斉検査も終えているから違うと思うけれど、すぐ帰国するわ。依頼は完遂しているから、依頼主からも連絡が入るはず。それで、転出手続きはどのくらいかかる?」

「特例ですので、すぐにでもご移動で大丈夫です! あの、また戻って……いえ、お気をつけて」

「ありがとう」


 急ぎ宿泊先に戻りながら、色々な疑問が頭に浮かぶ。一斉検査に不備があったのか、他種族か、フェロモンの変異か、それともまだ産まれていない……? もし産まれていないとすると絶望的で、暗い気持ちになった。


 *****

 国境で入国手続きをすれば、そのまま隣の建物に移動するように誘導され、その場で検査をされた。結果が出るまで暫くは国内に滞在して欲しいと告げられ、了承を伝えた。まずは王都のギルドで拠点登録と宿の確保を済ませてしまおう。


 王都に到着すれば、雰囲気は暗くて、王城に近づくほどピリピリと肌を刺すような刺激を受ける。これは王家の威圧よね? でも、全く嫌な気持ちではないのはどうしてかしら……昔威圧を感じた時には体が震えたのに。私が強くなったから?

 これだけ王家の威圧が漏れ出ている状態に、もう猶予がないのだなと嫌でも感じる。力の弱い種族は王都から避難しているのか、見かけることが全くない。強い種族も当てられているのか、凶暴性が上がっている獣人もいて、私も何度か絡まれたけれど、少し遊んであげれば大人しくなった。


「ギルドへようこそ。ご要件をお伺いしま……っ」


 前の人の手続きを終えて顔を上げた同族のヤンチャそうな子は、私を見て固まった。


「くろ……」

「拠点登録と宿の確保をお願い出来る?」

「は、はい! うへぇ、S級……」


 私が差し出したカードを慌てて受け取り、手続きをしつつも、私の耳としっぽに視線が向く時がある。


「黒は珍しい?」

「はっ、すみません……! ここまで混じり気のない黒は初めてで失礼を……」


 狼の獣人である私と目の前の彼は王家と同種だけれど、毛色は違う。王家が銀、私は黒で、目の前の彼は茶色。比率としては、金や茶色が多く、黒は少なく、銀は王家のみ。


「慣れているから、構わないわ」

「すみません……宿泊先は、このどちらかは空いています。王都内で問題ないですよね?」

「ええ。では、こちらで」


 その場で宿泊先を手配してもらい、カードが返却された。


「本日の手続きは以上でー」

「あの、すみません……!! 今日入国された女性を至急、探していて……! まだ到着していないと思いますが、珍しい黒狼の女性で、眼はアンバー、背は175くらいって聞いたから、僕よりこれくらい高くて……」


 慌ただしく駆け込んできた鳥族の男の子は隣の受付でメモを片手に必死に容姿を伝えていて、ものすごく心当たりがある。担当している兎族の女の子も、私を見ていて、どうしますか、と目で訴えてくる。


「あの、それってもしかして私の事?」

「え? もう着いてる……? ……お名前は、レイラさんとおっしゃいますか?」

「ええ。今日入国したばかりよ。手続きに漏れがあった?」

「詳しくは僕も分からないのですが、この後お時間大丈夫ですか?」

「構わないわ」


 了解すれば、見つかって良かったぁ……と呟きしゃがみこんでしまった。


 ジルと名乗った鳥族の男の子に連れられ、ギルド近くの王都の検査所に到着した。奥の個室にいたのは、検査の責任者だという狐族の男性。


「よく来てくださいました。時間も惜しいので、単刀直入に申し上げますが、貴方は末の姫様の番です。非常にプライベートな内容となりますが……現在特定のお相手はいないと記載がありましたが、相違ありませんか」

「ええっ!! 番様ぁ!?」

「……ジル」

「げっ、所長、すみません! 失礼しました!」


 ドアを閉めたものの、まだ近くに居たジル君の叫び声が聞こえ、叱責に慌てたように走っていく音が聞こえた。近くにいることなんて匂いでわかるはずなのに、かなり余裕が無いみたい。


「特定の相手はいません。でも、私が番……? 私は末の姫様が生まれた時と、14歳のタイミングの一斉検査では適合しなかったはずですが」

「ええ。まだ確定はできませんが、変異性のフェロモンなのだと考えています。このまま王城へ向かっていただくことは可能ですか? 帰国してすぐと聞いていますので、必要でしたら入浴の準備をさせます。また、間違いなく泊まりになりますので……宿泊先を手配済であれば、こちらでキャンセルしておきます」


 まだ自分が番だというのは信じられないけれど、目の前の所長は私が番だと確信していて、縋るような視線も感じる。


「さすがにこのままは向かえないので、シャワーをお借り出来たらありがたいです。宿泊先は、ギルドへ依頼をしたので、キャンセルをお願いできますか」

「話が早くて助かります。王城には既に伝えています。どうか、よろしくお願いいたします」


 私の了承に安心したのか、言葉は震えていた。


 *****

「番様……!」

「番様が到着された! 早く、陛下にお伝えを!」

「もう伝令を走らせています!」


 王城に到着すればジル君が待機していて、私の姿が見えた時点で伝えられていたのか、門番に声をかける間もなくざわざわしていた。


 すぐに門が開けられ、誘導される。既に城中に情報が伝わっているのか、至る所から所長と同じような、縋るような視線を感じる。どうか姫様をお願いいたします、という声も聞こえてくるけれど、道を遮るものは何も無い。


 こちらです、とドアが開き、視線の先にはズラっと並ぶ銀色。

 真っ直ぐ連れてこられたのはプライベートスペースと思われる空間で。そこには、王族が勢ぞろいして立っており、皆様憔悴されていて末の姫様がどれだけ大事にされているか、それだけで分かった。


 同席していた宰相閣下の話によれば、末の姫様はフェロモンが変質し、一斉検査では私と適合しなかったとの事。ここまでは、所長の話と同じだった。

 追加の情報は、最初の発作から薬を飲み続けて抑えてはいるものの、これ以上強い薬は開発が間に合っていないこと。そして、発作の間隔が短くなっており、威圧も抑えられず、王族しか近づけないこと。発情期はいつ来てもおかしくなく、もう猶予がないということだった。


「レイラ殿、どうか、娘と……シャーロットと会っていただきたい。番となれればこれ以上喜ばしいことは無いが、もちろん、強制はしない。発情期のみの契約でも構わない。シャーロットを助けていただけないだろうか」

「……えっ、頭をおあげ下さい……陛下……! ひぃっ、皆様まで……!? 宰相閣下、どうしたら……っ!?」


 説明を聞き終えれば、陛下に頭を下げられ、王家の皆様も倣い、頼みの綱の宰相閣下まで。嘘でしょ……


 一刻も惜しいはずなのに、こんなに丁寧に説明を受けるなんて思わなかった。私だって獣人だし、番への憧れがある。番に出会える奇跡に恵まれたのに断るなんて、有り得ないのに。


「すぐに会わせていただけますか?」

「ああ、もちろん……! 感謝する……!」

「……っ、ありがとう……!」


 王妃様は泣き出してしまって、どれだけ辛い日々を過ごされたのだろう。あとは、私が本当に番なのか、番だとしても、お互いが受け入れられるかどうかにかかっている。


 *****

 案内されたのは、離宮の1番奥の部屋。王族でないと威圧に耐えられないから、と王太子殿下が直々に案内してくれ、ドアの目の前までたどり着けば、薬を渡された。


「良かったら、抑制剤を。このドアは匂いや威圧を抑えるものだ。威圧がこれだけ漏れているから、説得力は無いかもしれないね。貴方は妹の番だから、恐怖はないのではないかと思うが、大丈夫だろうか?」

「そういうことだったのですね。王都に来てから、威圧は感じ取っていましたが、嫌な気持ちにはならなくて、不思議に思っていたので」

「それは良かった。さて、心の準備は良いか? 準備もせずに開けたら、理性が飛ぶだろうから。どれだけ精神的に強くても、番の匂いに抗うのは難しい。抑制剤を飲んでおけば、最初だけかもしれないが意識を保てる……はずだ。妹も開発に携わっていて、王家では必需品になっている。シャー、こちら側の準備が出来たら、ドアを開けるがいいね? ……どうか、妹を頼む」


 部屋の中から了承の返事が聞こえ、声を聞いただけでゾクッとした。王太子殿下はまた頭を下げて戻って行ったから、離宮には私と、部屋の中の末の姫様だけ。


 渡された抑制剤を飲み込み、よし、と気合を入れてからノックしドアを開けば、暴力的なまでの濃密な香りと銀色。そして目の覚めるような紫色の瞳。

 あぁ、番だ。私の、半身。身体中の血液が沸騰したかのように熱くなる。

 間違いなく番がそこにいて、落ち着いたら2人で食べるように、と渡された軽食の入ったバスケットが落ちる音がやけに響いた。

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― 新着の感想 ―
〉間違いなく泊まりになる 獣人同士の番が出会ったらホント待ったナシなんですねw 王族相手だからよりひどいのかな? 翌朝チュンでは済まなそうな重い愛の物語 期待感たっぷりです♪
狼の獣人とかめっちゃ家族大事にするんだろうなあ
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