第2話「NPO面接、そして運命の再会」
第1章 希望の光への道
「緊張する〜」
みらいは電車の中で手をぎゅっと握りしめていた。今日はNPO法人「希望の光」の面接日。これまでの失敗を糧に、キラリンと一緒に面接対策を徹底的に練習してきた。
「大丈夫よ、みらい」キラリンが励ます。「今度は相手も『困ってる人を助けたい』って気持ちを理解してくれる人たちよ。きっとうまくいく」
「でも、また『悪の組織』とか言っちゃったら...」
「その時は私がつねるから!」
電車が駅に到着し、みらいは降りた。NPO法人「希望の光」は駅から徒歩10分の、少し古いビルの3階にあった。
エレベーターの前で深呼吸。
「よし、今度こそ!」
第2章 意外な高評価
「星野みらいさんですね。お待ちしておりました」
応対してくれたのは、30代くらいの優しそうな女性だった。名札には「事務局長 田村さやか」とある。
「こちらへどうぞ」
案内された会議室は、大手企業のような豪華さはないものの、温かみのある雰囲気だった。壁には被災地での支援活動の写真や、子どもたちからの感謝の手紙が貼られている。
「まず、志望動機をお聞かせください」
みらいが練習通りに答える。
「困っている方々のお役に立ちたいと思ったからです。私は...」一瞬言葉が詰まるが、キラリンが頷いて見せる。「長い間、ボランティア活動に参加していて、人を助けることに生きがいを感じていました」
「どのようなボランティア活動を?」
「清掃活動や...お祭りの手伝いなど...」みらいが緊張しながら答える。
「素晴らしいですね。10年間も続けられたんですか?」
「はい!毎日のように...」
田村が驚く。「毎日?すごい情熱ですね!」
「あ、えっと...」みらいが焦る。毎日怪物と戦っていたのは事実だが...
「そんなに献身的にボランティアを続けられる方は珍しいです。きっと大変なこともあったでしょう?」
「はい...時には命懸けで...」キラリンが慌てるが、田村は感動した表情を見せる。
「命懸け...心に響きます。私たちの活動も、時として危険な場所に赴くことがあります。そんな時、星野さんのような覚悟のある方と一緒に働けたら心強いです」
みらいとキラリンが顔を見合わせる。これは好転している?
「チームワークについてはいかがですか?」
「仲間を信じて、みんなで力を合わせることが大切だと思います。一人では解決できない問題も、みんなで取り組めば必ず解決できます」
「その通りです!」田村が目を輝かせる。「実は、星野さんのような方をずっと探していたんです」
面接が進むにつれ、みらいの緊張も和らいでいく。NPOの活動内容を聞いていると、まさに自分がやりたかったことだった。
「最後に何か質問はありますか?」
みらいが真剣な表情で聞く。
「あの...この活動をしていて、危険な目に遭うことはありますか?」
「そうですね...被災地支援などでは、二次災害の可能性もありますし...」
「そういう時は、どう対処されるんですか?」
「スタッフの安全を最優先に、マニュアルに従って避難します。星野さんは危険な状況は大丈夫ですか?」
みらいが力強く答える。「はい!どんな危険でも立ち向かいます!」
キラリンが「また大げさに...」と呟くが、田村は感激した様子だ。
「素晴らしい!星野さんのような方と一緒に働けることを光栄に思います」
「え...?」
「採用です!来週の月曜日から来ていただけますか?」
みらいが驚く。「本当ですか?!」
「ええ、間違いありません。給料は決して高くありませんが...」
「全然大丈夫です!」みらいが嬉しそうに答える。「お金よりも、人の役に立てることが一番です!」
面接後、みらいとキラリンは喜びに包まれていた。
「やったね、みらい!」
「うん!やっと見つけた、本当にやりたい仕事!」
第3章 運命の再会
面接が終わり、みらいは軽やかな足取りで帰路についていた。コンビニで母親に報告の電話をするためのプリペイドカードを買おうと店に入る。
「いらっしゃいませ」
レジの向こうから聞こえた声に、みらいの体が硬直した。
「え...?」
レジにいたのは、青白い肌に銀髪の美青年だった。名札には「店長 氷川冷」とある。
「みらい?」キラリンが緊張する。「あの髪の色...まさか...」
その瞬間、青年がみらいを見上げた。氷のように冷たい青い瞳。
「プリンセス・ステラ...」
店内に緊張が走る。
「フ、フロスト...?」
「久しぶりだな、星野みらい」
かつて「冷血のフロスト」と呼ばれ、ダークネス軍の四天王の一人として恐れられた男が、コンビニの制服を着てレジに立っていた。
「お、お前...なんでここに...?」
「それはこちらの台詞だ。魔法を失ったお前が、なぜこの街にいる?」
「え、えっと...就職活動で...」
「就職活動?」フロストが眉をひそめる。「お前ほどの戦士が?」
「戦士って言われても...もう魔法使えないし...」
その時、他の客が店に入ってきた。フロストは瞬時に表情を変え、営業スマイルを浮かべる。
「いらっしゃいませ!」
客が商品を選んでいる間、フロストは小声でみらいに言う。
「話がある。閉店後にここで待て」
「え...?」
「逃げるなよ、プリンセス・ステラ」
第4章 元敵幹部の現在
夜11時、コンビニの明かりが消えた。みらいは約束通り店の前で待っていた。
「本当に来たのか」
フロストが店から出てきた。コンビニの制服を脱いで私服になった彼は、やはり元ダークネス軍幹部の威厳を放っていた。
「お前も魔法を失ったのか?」みらいが恐る恐る聞く。
「ダークネスが倒された時点で、我々の力も失われた」フロストが淡々と答える。「当然のことだ」
「それで...コンビニ店長に?」
「笑うか?」フロストの目が鋭くなる。
「笑わないよ!私だって就職活動中だもん」
フロストが意外そうな顔をする。「そうか...お前も苦労しているのだな」
「うん...25歳、高校中退、職歴なしって、思った以上に厳しくて...」
「...俺は28歳、最終学歴不明、職歴は『魔王軍幹部』だ」
二人の間に奇妙な連帯感が生まれる。
「どうやってコンビニの仕事を?」みらいが聞く。
「最初は大変だった」フロストが振り返る。「面接で『前職は?』と聞かれて『四天王』と答えたら、『どちらの麻雀クラブですか?』と言われた」
「麻雀...」
「履歴書に『氷結魔法』と書いたら『冷凍食品の管理経験あり』と解釈された」
「なるほど...」
「幸い、この店長は理解があった。『君の冷静さと責任感を評価する』と言ってくれて...」
フロストが空を見上げる。
「今では、この仕事に誇りを持っている。24時間、街の人々の生活を支える...ある意味では、魔王軍にいた時より社会の役に立っているかもしれん」
みらいが感心する。「すごいね...」
「お前は?就職先は決まったのか?」
「今日、NPO法人の面接に受かった!」みらいが嬉しそうに報告する。
「NPO...」フロストが考え込む。「困っている人を助ける仕事か」
「うん!魔法が使えなくても、人を助けることはできるって思って」
フロストが微笑む。それは、みらいが初めて見るフロストの笑顔だった。
「らしいな、お前らしい」
第5章 新たな関係
「あの...フロスト」みらいが遠慮がちに言う。「今度、時間がある時、お茶でもしない?」
「茶?」
「うん。元敵同士だけど...今は同じ『社会人1年生』でしょ?」
フロストが考え込む。
「...悪くない提案だ。だが、俺は氷川冷として生きている。フロストと呼ぶな」
「わかった、氷川さん」
「氷川で構わん」
「じゃあ、私もみらいで」
二人が握手を交わそうとした時、キラリンが慌てて止める。
「ちょっと待ちなさい!みらい、この人元敵よ?大丈夫なの?」
「大丈夫だよ、キラリン。今は普通の人間同士」
フロスト...氷川がキラリンを見る。
「そのマスコット、まだお前と一緒にいるのか」
「マスコットって言うな!」キラリンが怒る。「私は妖精よ!」
「今はただのぬいぐるみにしか見えないがな」
「ひどい!」
みらいが苦笑いする。「キラリン、氷川さんもきっと良い人だよ。コンビニで一生懸命働いているんだもん」
「そうですね...」キラリンが渋々認める。「確かに、悪の組織にいた頃より健全かも」
氷川が意外そうに聞く。「お前、その妖精と会話できるのか?」
「うん、今でも話せる」
「俺には...もう聞こえない」
氷川の表情に一瞬寂しさが浮かぶ。
「でも、それで良い」氷川が言い直す。「過去は過去だ。今は氷川冷として、この街で生きていく」
みらいが温かい笑顔を向ける。「私も星野みらいとして、NPOで頑張る!」
新しい日常の始まり
1週間後の月曜日。みらいは初出勤の日を迎えていた。
「行ってきます!」
「頑張って、みらいちゃん」母親が見送る。
NPO法人「希望の光」の事務所で、みらいは新しい同僚たちに挨拶していた。みんな温かく迎えてくれる。
「よろしくお願いします、星野です」
「こちらこそ!早速ですが、今日は被災地支援物資の仕分け作業をお願いします」
みらいが生き生きと働いている頃、氷川も早朝の品出し作業に励んでいた。
「おはようございます!」バイトの高校生が元気に挨拶する。
「おはよう。今日も頑張ろう」氷川が優しく応える。
昼休み、みらいのスマートフォンにメッセージが届く。
『氷川です。仕事はどうですか?今度の日曜日、時間があれば近所のカフェでも』
みらいが嬉しそうに返信する。
『初日だけど楽しいです!日曜日、ぜひ!』
キラリンがみらいの肩で呟く。
「まさか元敵と友達になるなんてね...」
「人って変わるんだよ、キラリン。私たちも変わった」
「そうね...でも良い変化だと思う」
夕方、みらいが帰宅すると、両親が心配そうに迎えた。
「お疲れさま、みらいちゃん。どうだった?」
「すごく良かった!みんな優しいし、やりがいのある仕事だった」
「よかったわね」母親がほっとする。
「NPOって給料安いんでしょ?大丈夫?」父親が心配そうに聞く。
「大丈夫!お金より大切なものを見つけたから」
みらいが自分の部屋に戻ると、キラリンが感慨深そうに言う。
「みらい、やっと見つけたのね。あなたらしい生き方を」
「うん!魔法少女じゃなくても、人を助けることはできる。今度は労働基準法に守られながらね」
「それは大事よ!」キラリンが大きくうなずく。
窓の外では、氷川が深夜のコンビニで真面目に働いている姿が見えた。元敵同士が、今では同じ社会で頑張っている。
「新しい人生の始まりね」みらいが呟く。
「そうね。でも、きっとまた新しい『事件』が起こるわよ」キラリンがいたずらっぽく言う。
「事件?」
「だって、ダークネス軍の他の幹部たちも、きっと同じように転職活動してるのよ?」
みらいが想像する。炎の将軍がラーメン店主をしていたり、雷帝が電気工事士になっていたり...
「それはそれで面白そう」みらいが笑う。
こうして、元魔法少女みらいの新しい日常が始まった。魔法は失ったけれど、人を助けたいという想いは変わらない。そして今度は、ちゃんと給料をもらいながら、社会保険にも加入して働くのだ。




