古代遺跡の封印文書
追放されて三日。俺は今、野宿している。
「……なあ、これマジで死ぬんじゃね?」
食料ゼロ、金貨ゼロ、スキル《翻訳》──以上。
頼れるのは己の足と口だけだが、そもそも異世界の地理も文化もまるでわからない。
それでもどうにか東へ進み、ようやくたどり着いたのが、小さな村。ファルメア辺境領の端っこの寒村らしい。
「おい、そこの兄ちゃん。見ねぇ顔だな。旅人か?」
声をかけてきたのは、ごつい体の中年の男。肩に薪を担ぎ、斧を腰に下げてる。
「えっと……はい、旅人です。ちょっと、道に迷ってて……」
「おうおう、そうかい。だったら村長んとこ行きな。今日は魔獣も出ねぇし、休んでけ」
……優しい世界。
どうやらここは、王都のように、スキル至上主義って感じじゃないらしい。
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「なるほど。追放された、と……」
村長の家で、俺はざっくり事情を話した。
嘘はついてないが、スキルのことは伏せた。言ってもバカにされるだけだろうし。
「まあ、よければここにいてもいいぞ。人手は常に足りてないからな」
「ほんとですか!?」
「ただし、役には立ってもらうぞ? この村は神殿遺跡の調査で資金を得ておる。お前もそこを手伝ってもらう」
……遺跡? ダンジョン的なアレか?
──それが、すべての始まりだった。
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次の日、俺は遺跡の入口に立っていた。山のふもとにぽっかり開いた石の門。それだけでもかなり神秘的だけど……
「……なんだこれ。門の上、文字が刻まれてる?」
読めない。異世界語だ。けど、スキル《翻訳》を試してみる価値はある。
「《翻訳》、起動……?」
そう口にした瞬間──
『起動条件、音声認識確認。翻訳スキル:対象文字列を読み取り中……』
光が走った。俺の目の前で、古代の石に刻まれた文が、すーっと別の言語に変わっていく。日本語だ。
『この門より内に立ち入る者よ。知識なき者、扉を開くべからず』
「……マジで翻訳された……!」
そのとき、後ろから誰かの声が飛んだ。
「おい、今お前……それを読んだのか!?」
振り返ると、肩までの銀髪を揺らす少女がいた。レザーの軽装、腰には短剣。見た目からして冒険者か?
「え? うん、なんか勝手に読めるように……っていうか誰?」
「私はルナ。遺跡調査隊の副隊長だ。で、あんた、本当にこの古代語が読めるの?」
「たぶん……スキルで」
少女の表情が真剣になる。
「すごい……! 十年以上、誰も読めなかったのよ、この封印文書……!」
なんか、すごく大変なことになってきた。
俺のスキル《翻訳》は、どうやら――
この世界でも誰にも読めない古代文字さえ、読み解けるらしい。
……もしかして、これって──
「《翻訳》、最弱じゃなくね?」
そう思った時、遺跡の扉が、ゆっくりと音を立てて開き始めた。