最弱スキル「翻訳」、その価値ゼロにつき追放です
――トラックは、唐突にやってきた。
空は晴れ渡り、いつも通りの大学通学路。
横断歩道を渡ろうとした、その瞬間。
「……は?」
不自然なまでに静かなエンジン音とともに、真っ白なトラックが現れた。
次の瞬間、視界が真っ白に染まり、音も重さも何も感じないまま、意識がふっと消えた。
ーーーー
「……目覚めましたか、異世界の来訪者よ」
目を開けると、目の前には金髪ヒゲの老人。荘厳な玉座の間――まるでRPGの世界だった。
「え、異世界……?」
「うむ。汝、佐伯透よ。我が世界にて、神託により召喚された選ばれし者なり」
異世界召喚!?
テンプレ展開すぎて、逆に笑いそうになったが、冗談ではないらしい。
「……それで、俺には何のスキルが?」
こうなれば気になるのはそこだ。異世界といえば、チートスキルだろ。
王の合図で、魔法陣が床に浮かび上がる。
俺の体が光に包まれ、宙に浮いた魔法書のようなものが、俺の頭上でぱらぱらとページをめくる。
「判明しましたな。我が主よ、彼のスキルは……《翻訳》でございます」
「は?」
……え、なんだそれ。攻撃スキルとかじゃないの?
「翻訳とは、異なる言語を理解する能力ですな。戦闘には不向きです」
召喚に関わった宮廷魔術師が言い捨てるように言った。
「戦闘力……ステータスも平均以下。知力は凡人、魔力適性も低い……これは完全にハズレですな」
「むう……神託に誤りはないはずなのだが……」
王の口ぶりも歯切れが悪い。
……ちょっと待てよ。翻訳って、異世界に来たばかりの俺には最もありがたい能力じゃないのか?
でも、どうやらこの世界では、戦えない=無価値らしい。
「よって――」
王が手を上げ、静かに告げる。
「佐伯透よ。汝を辺境《ファルメア辺境領》へ追放とする」
「ちょっ、え? 追放? 早くない!?」
「不要な者に王都の資源を使う余裕はない。せめて生き延びる努力をせよ」
兵士に抱えられ、問答無用で城から放り出される。
騎士や貴族たちの冷笑が、背中に突き刺さった。
ーーーー
こうして――俺は、異世界エラルディアに転生し、
与えられた最弱スキル《翻訳》をバカにされ、王都から追放された。
……だけど。
「翻訳って、ほんとに……役立たずなのか?」
その疑問は、俺が辺境の地で出会うことになる、世界を変える言葉たちとの運命の始まりだった。