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蒼い糸  作者: 和達譲
尾田と黒石
13/19

第十三話:恋人ごっこ



「───そんで?

変わったってのは、どこらへんが?」


「全部だよ、ぜ・ん・ぶ!

あのあとすぐ質問攻めにあってさ、捌くのホント大変だったー。」




黒石の潔白が証明された。

私の突撃がよほど効いたのか、今度は噂を流していた奴らが肩身の狭い状況にあるとのこと。




「質問攻めって、たとえば?」


「さっき話してたのは誰だったー、とか。もしかしてあの子が噂の友達ー、とか。いろいろ。

だからこの際、ぜーんぶ白状して、証明してやったわけさ!」


「というと?」


「仁科さんが前に見かけた、不良っぽい友達っていうのは、確かに彼女のことで、でも彼女は、不良なんかじゃないってこと!

真面目で優しくて可愛くて、わたしの一番の友達なんだってこと!」


「……フーン。」


「あ、照れた?照れたね?

やだー、わかりやすいんだからー。ウフフ。」


「うるっさい。こっち見んな。」




意地悪な態度で接してくる人は殆どいなくなり、黒石自身の業務も正当に評価してもらえるようになり。

今ではお昼を一緒に食べてくれる相手まで出来た、と。


何もかも私のおかげのように黒石は言うが、実際は黒石の努力が実を結んだのだ。

このまま黒石には平和な日々を過ごしてほしいし、黒石を貶めようとしていた奴らには反省してほしい。




「そっちは?

例の件、どうなったの?」


「……今はまだ、下っ端のバイト扱いだけど。

一年働いたら正社員にしてくれる、ってとこに決めた。」


「どこどこ!?」


「駅前の、"ISOLDEイゾルデ"ってアパレル。」


「えっ……。ISOLDEって、あのISOLDE!?

わたしもたまに行ってるよ!安くてオシャレな服いっぱい置いてるし!」


「あ、マジ?実はワタシもでさ。

印象いいかなって思って、全身ISOLDEコーデにしてったら、面接の人にセンスいいですねって褒められたんだよね。

だからこんなクソみたいな経歴でも、受け入れてもらえたのかもしんない。」


「すごいすごいよ!おめでとう!!よかったね!!」


「あんがと。」


「でもそっかー。これからは、あそこ行けば尾田さんに会えるのかー。

今度から入り用の時は、ISOLDEオンリーで済ませようかな。」


「あんまし通われると恥ずいからヤメテ……。」




一方、私はというと。

全国的にもちょっと有名なアパレルブランドで、アルバイトとして雇ってもらえることが決まった。

ハイグレードな服からプチプラな小物まで幅広く扱う、客を選ばないオープンな服屋だ。


といっても、私には特別な資格も、昼職での接客経験もない。

正社員になるためには、前述の通り、一年間のアルバイトを義務付けられた。

そこは仕方ないと思うし、期間中にも業績次第で賃金を上げてくれるそうなので、むしろ重畳といえるだろう。



私も黒石も、仕事の面では良い風が吹いている。

逆を言うと、仕事以外の面が、なかなか上手くいってくれない。


目下一番の関門である、黒石の政略結婚問題が、まだ解決していないのだ。




「メッセージで言ってたけど、お見合い。またセッティングされたんでしょ?いつ?」


「二十日後……。」


「キャンセル効くまでは?」


「明々後日まで……。」


「……突破口は?」


「じぇんじぇん見つかんにゃい……。」




玄関先で母親と口論して以来、多少は譲歩してもらえたようだが、さすがに限界というわけらしい。


先日、お見合いの席が再びセッティングされた。

しかも今度のお相手は、今までの誰より高学歴かつ高収入。

お見合いの打診も、向こうから是非にの形で進められたとのこと。


つまり、この縁談に応じたら最後。

やっぱりやめておきますと、後になって断るのは、非常に難しくなってしまう。




「なんならワタシの男友達、派遣しようか?

ご両親のお眼鏡に適いそうなヤツは、さすがにいないけど……。」


「うーん……。

ありがたいけど、やめとく。

うちの親、そういうとこだけ妙に鋭かったりするから。

誰かに合わせてもらっても、すぐバレちゃうと思う。」


「でも、キャンセルの条件は、誰か連れてくことなんでしょ?」


「うーん。うーん。

……こうなったら、そのへんの猫でも捕まえて、わたし人間は愛せないのー、とかって一蹴すれば───」


「絶対失敗するからやめとけそれは。」




目前に迫った大本命。

猶予は残り三日足らず。

突破口は見付からないまま、じりじりと背水の陣へ。


どうしたものか。

代役を立てるにしても、相応しい人材は私にも黒石にも当てがない。

最悪、出張彼氏的なサービスから引っ張ってくるって手もあるけど。

黒石のことをよく知らない他人に任せても、あの怖そうなお母さんに詰められたら、即時アウトな気がする。


どうせ選ぶなら、黒石のことをよく知っていて、黒石と親しい空気感を出すことができて、それきり新しい見合い相手を勧められずに済みそうな、決定的な抑止要素のある人物を。




「……ねえ、黒石。」


「なに?」


「最悪、そのへんの野良猫でもいいんだよね?」


「へ……。あ、うん。

さすがにそれは冗談だけど、そのくらいぶっ飛んだ相手でもわたしは───」


「だったらさ、」




「───ワタシを仮の恋人にすんのって、どう?」



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