赤い藤
どうもこんにちは。二木緑斎といいます。
ニキじゃなくてフタツギです。
この作品を読んでいるほとんどの人が僕を知らない...いや、ほとんどではなく全員でしょう。
ここから始まるのは僕の事件簿です。
事件簿...という言い方はなんですが、僕は日常でよく奇妙な事件に出くわしてしまうのです。
僕が何かをしているという訳ではありません。
そして僕の街だけでなく、どこかに行くとそこでも事件に出くわしてしまうのです。
今日はその事件の中から1つの事件について話したいと思います。
前置きとして、みなさんは藤の花はご存知でしょうか?多くの人が知っていると思いますが、藤の花は紫色や、桃色などがあります。しかし僕は赤色の藤の花というものを見た事があるのです。別に赤色の藤の花が存在しない訳ではありません...しかし、それは赤色の藤の花よりももっと深い赤色でした。もっと鮮やかで、それでいてなにか、悲哀を感じるような赤。
そしてそれを僕は、ある家の庭で見たのです。
藤の花というのは「不治の病」を連想したり、垂れ下がって咲くことから家運が下がったりするなど、縁起が悪いためあまり庭には植えません。
それでいて、生命力が強く他の木のスペースを奪ったりすることからも植えられません。
しかし、僕は目撃したのです。
庭に植えられた、普通の赤い藤よりも深く鮮やかな赤色の藤を...
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あれは、ある秋の出来事でした。
僕はいつも通り、小説の執筆を終え、近所をランニングしていました。
ランニングの道中、先程お話した赤い藤を見ました。
藤の花は主に春に咲くものですから、秋に咲いているのを見て、不思議に思い、立ち止まりました。
藤の花は、ある家の庭に植えられていました。
その家は、人が住んでいる気配もなく、表札もありませんでした。
試しに玄関チャイムを押してみましたが、反応はありませんでした。
詳しく調べたいと思いました。
それは小説家のさが なのかもしれません。
ですが、担当編集との打ち合わせがありましたから、そこを立ち去りました。
次の日、僕はまたその家の前を通りました。
その藤の花を見て僕は驚きました。
藤の赤色が昨日よりも深くなっていたのです。
元々は桃色の普通の藤が秋に咲いているという突然変異なだけだと思っていましたが、僕の考えは一変しました。これは突然変異などではなく、得体の知れない何かだ!と考えるようになりました。
話が少し変わりますが、僕はよく周りから変人だと言われるんです。分からないことや不思議なことがあるとなんでも詳しく調べたくなる...どんな手を使ってでも...もしかしたら、これが僕に事件が寄り付いてくる要因なのかもしれません。
そんな変人の僕は、調べたいという欲望を抑えられず、その家の前にカメラを置きました。そして四六時中撮影することにしたのです...
1週間後、僕はカメラのSDカードを抜き取りに家の前に行くと、藤は無くなっていました。そして建物も消え、工事現場になっていました。帰って、SDカードをノートパソコンにさし、見てみることにしました...
1日目。僕がカメラを設置した日です。
なんの変哲もなく数時間がすぎたころ、異変が起こりました。
枝が突然 赤くなり始めたのです。
そして数時間かけて、枝は全て赤く染まりました。
時刻は夜の零時でした。
その瞬間、突然カメラの映像が途切れました。
僕はノートパソコンの不調かと思い、巻き戻しましたが、映像はやはりありませんでした。映像は消えていたのです。
続きがあるのではないかと思い、僕は再生ボタンを押しました。
すると数分後、映像は再び流れ始めました。
そこで僕は鳥肌が立ちました。
先程よりも花の赤色が深くなっていたのです!
次の日も、その次の日も、零時になるまでの数時間で枝が赤くなり、零時で映像が途切れ、数分後、花の赤色が深くなっていました。
僕は、気づいてしまいました。
確信は持てませんが、確実に、花の下に”何か”があることに...
僕はその続きの映像も見ることにしました。
あの藤が消えていた理由を知りたかったから...
4日目、建設会社らしき男たちが現れ、重機などを持ってきました。
5日目、建物は壊されました。建物の中には家具も何もありませんでした。
6日目、家の庭にシャベルや青いビニールシートが埋まっているのが発見されました。
そして今日、7日目の朝。
工事に取り掛かろうとしている男たちが映っていました。彼らはあの藤が生えていたところを掘ろうとしていました。
僕は、すぐに家を駆け出し、藤が咲いていた工事現場に行きました。
そこでは、男たちが、心をなくしたような顔をしていました。
そして警察のパトカーがいました。
男たちの中には泣いている者もいました。
その後僕は警察の方に話を聞きました。
あの藤が生えていたところには、3人の死体が発見されたそうです。
つまり、あの藤は...
みなさんもうお分かりかと思いますが、人の血液で育っていたのです。
だから赤色だったのです。
なぜ秋に生えていたのかは分かりません。
そしてその家に元々誰が住んでいたのかも分からなかったそうです。そして死体の身元も...
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前置きで述べたように、藤は生命力が強い花です。
放置しておくと地下茎を延ばしていきます。
地下にあった水分なら、人の血液だろうと吸ってしまうのです。
これが僕が10年前、アパートに住んでいた頃に遭遇した1件の事件です。
僕はまた気になり、その家あった辺りを見に行きました。
そこは更地になっていました。元々は工事現場でしたが、家の購入者が、人の死体が埋まっていたところに住むことを嫌がったのでしょう。
そして、最後に...これが最も驚いた事なのですが...
そこにはまた、赤色の藤の花が咲いていたのです。