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閲覧禁止  作者:
見立て殺人
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  八月二十日 午前八時


 翌日、非日常を突き付けた事件は瞬く間に全国へ波紋した。新聞を始め、テレビのワイドショーではどの番組をつけても司会や専門家たちがあれこれ意見を言い合っている。挙句の果てにレギュラータレントのグラビアアイドルまでもが犯人像を語るものだから、一種のイベントであるかと勘違いを引き起こしそうだ。村木はパソコンで観ていた動画を閉じ、右手で顔を覆った。


 予想通り、相園の事件は大きな反響を呼んでいる。ネット上でも犯人の予想をする者が沢山現れるし、すでに事件の内容をまとめたページまである。大抵が子どもの暇つぶしであったが、その中に気になる事柄を見つけた。


 どうやら、相園はSNSに日々の出来事を投稿していたらしい。注目すべきは一番最後に上げた気味の悪い画像だった。まだ削除されていないそれは村木もリアルタイムで観ることが出来、その異常さと違和感に眉を顰める。写真とともに記された文章によれば、これは十六日、殺害される二日前に匿名で送られたもの。相園の書き方から察するに、画像を上げたのは差出人を探す目的よりも面白がって皆に知らせたかっただけだと考えられる。


「左目ね……左? 岡崎、相園さんが抉られた目ってどっちだっけ」

「左だったと思いますけど」

「……偶然、か?」


 証拠が少ない。左目の写真を手にした女子高生が左目を抉られて死亡した。統計の取れないたった一件の出来事だけでは測れない上、相園は左目と右手首も攻撃されているわけだから、完全な一致とも言えなかった。


「それにしても、奇妙な手紙の後に殺害されたとあっちゃ、恰好の的だな」


 村木の心配はすぐに現実となった。


 相園が晒した写真は、事件後すぐにインターネット上で拡散された。彼女の目的は、残念なことに彼女自身の不幸により達成されたことになる。数々のメディアで公開、推理され、大抵の者が「写真の見立て殺人」と結論付けた。


 やがてそれは捻じ曲がり、写真を見た者は殺されてしまうという噂まで立ち、各学校に「閲覧禁止」の通達まで流れる始末で、村木は事の転がり具合に笑いが漏れる。一週間経っても変わらない流れに、今朝買って読まずに飽きてしまった新聞をデスクに投げ出した。


「一敬さーん。あれからどっすか」

「いや……何も。一週間前とひとっつも変わらないよ」

「諦めますか」

「ん、んん……」


 提案に対して乗り気になれず、視線をくるくる動かしていると、広がった新聞の一部に既視感を覚える記事を発見した。


 前のめりになって文字を追う。横から覗いてきた岡崎に手を挙げて合図した。「岡崎! これ調べて」


 記事に既視感を覚えるのは当然と思われた。プリントされた事件の概要に目を通してぶつぶつ復唱する。


 被害者は笹沼透ささぬまとおる二十二歳、男。八月二十六日早朝、自宅で死亡しているところを訪ねてきた友人が発見。笹沼は鼻が抉られ右手首が切断された状態で、切り取られた部分はまだ見つかっていない。


 一見して相園と同じだと感じた。顔の傷は違うとしても、一か所を削られ、何より右手首を切断され持ち逃げされている。模倣犯とも考えられなくはないが、それならばいっそ顔の傷すら同じ場所を選択するのではないだろうか。


「写真」


「え」読み入っていた岡崎の元へふいに飛び込んできた単語が心臓を震わせた。意図を汲み取り慌ててパソコンを立ち上げる。


「笹沼にも写真が着ていたかってことっすよね?」

「うん。年齢的にみても、相園さんの事件を知らなくたって相園さんと似た行動を取る可能性は十分にある」

「えーと……ああ、もうアカウント削除されちゃってますね。多分アクセス集中したんでしょう」


 つまりは、例の写真が公開されていたから削除されたとも言える。岡崎にまとめサイトが出来上がっていないか確認させれば、すぐにヒットした。画面に写真が現れる。予想では鼻だけの写真だと思っていたが、異なる様相に村木の眉間に皺が寄る。岡崎も同じ感想を頂いたのだろう、とても仕事時の顔とは言えない状態に陥っている。


「これ……顔になってきてます」

「ああ」

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