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形に、成る
53/53

2 完

「なぁ、本当にそれ、誰かが入ったってことはあり得ないのか? もしも飯塚さんが今度も死んでいなくて、それで」


「あり得ないよ。彼女の遺体も見つかってる。村木が言っていた墓の下にあったよ」

「そうか」


 それならばお手上げだ。人間の領域から外れてしまった。彼女でないのなら、これ以上何も疑うことが出来なくなってしまった。村木が沈黙したことで、この電話の重要さを自覚したらしい田中が早口で言った。


「やばい、言いすぎた。忘れて。ちなみに、明日こっち来られるか? さっき言った通り、事情聴取したいんだけど」


 田中は村木を無視して、どんどんまくし立ててくる。それにどうにか返答し、通話を終了させた。一時間にも二時間にも思えたのに、時計を確認したらほんの十分間であった。明日の予定を無理矢理入れられたため、上司への面倒な説明と二日連続の残業が決定してしまった。両手を顔に当て、大きく息を吸う。


 状況からして、竹下の右手はどこかに埋められていると言っていた。あの四人と同じ場所か、もしくはあの小さな墓標の下ではないかと思った。おそらく後者だ。今頃、彼女の失った右手の代わりでもしているかもしれない。

──大きさも太さも全然違うけど。


 ヒュオ……。


「うわッ」


 頬を風が撫でた気がして声が出る。すぐにここは窓を閉め切った室内だったと気が付く。会社は高層ビルの二十階にあり、窓を開けることは禁止されている。エアコンの風が当たったのだろう。


「自殺ね。あっけない幕引きだったな」


 わざと口にして自分自身を納得させる。同時に、相園が死んだ時の騒動を思い出していた。


 写真がネットで拡散され、噂が噂を呼び、ついには見ただけで呪われるとまで言われるようになった。その中で、こんな噂も書かれていた。匿名のため、誰が書いたかは分からないが、想像のみの討論会で一番信憑性があると思った記憶がある。




『それを送られたら終わりなんだって』




 まだ仕事も終わっていないのに、村木がデスクの上にある私物を片付け始める。持ち帰る物は鞄に入れた。最後に掴んだスマートフォンを強く握る。体全体が情けない程に震えた。


 あの写真が送られてきた時、自分の番が来たと思った。興味本位に首を突っ込み過ぎた。今すぐ動かなければ、この連鎖を止めなければ、殺されると思った。だから、竹下が犯人だと判明し、共犯の飯塚も死んでいて、全てはゼロに戻ったと安心していたのに。


 もし、もしも、竹下が自殺ではなかったとして。最後の写真を彼に渡したことが原因だったとしたら。いつの間にか、幻だった呪いが形になって現れたのだとしたら。


「俺から……竹下に移ったのか……?」


 山田の時に半ば馬鹿にしていた過去の自分が恨めしい。しかし、あの時から信じたとしても、何も変えることは出来なかっただろう。


 飯塚が温めていた最後の写真も使用された。これで本当に解決したのだろうか。四人目までは生きている人間が起こした殺人事件に過ぎなかった。これから本番が始まるのだとしたら。


 窓を見遣る。外は先ほどまでと変わらない、穏やかな月明りのみ。村木は開かれていたブラインドを勢いよく閉めた。その横にあるエアコンの電源は点灯していない。


 写真が送られてすでに数日が経っている。いつ届いたのか、九月三日か、四日か。毎日郵便受けの確認をしておけばよかった。自分の杜撰さを後から悔いる。


 呪いなんて信じていなかった。今だって信じていない。結局加害者は存在する生きている人間だったではないか。しかし、山で出会った飯塚に関してはどうしても科学的に説明がつかない。


「もし、飯塚さんが竹下さんを恨んでいたとすると、やっぱり彼が飯塚さんの右手を切断した犯人だったってことか……? それがバレて、彼女が彼を」


 村木が首を振る。登場人物は皆死んでしまった。これ以上のことを想像しても村木の妄想に過ぎない。どんな結末であったとしても、ここで糸を断ち切るべきだ。


「仕事仕事」


 帰宅の準備は出来たが、仕事は終わっていない。まだ開きっぱなしのファイルに目を向ける。


 ピンポ~ン。


「は? こんな時間に来客? 受付の人、帰る時にインターフォン切らなかったのか?」


 定時になったら、会社の窓口である受付が閉まるため、インターフォンの電源も落とされることになっている。もし誰かに用事があるとしても、ここには村木しかおらず対応出来ない。訪問者に説明して、明日来てもらうことにしよう。


 村木が立ち上がり、インターフォンのマイクをオンにしようとしたところで、そもそもの電源が入っていないことに気が付いた。インターフォンから一歩、二歩と後ずさる。その間もインターフォンは鳴り続けている。


「なんでだ……」


 ガタン!


 すぐ横にある椅子に当たった音で我に返った村木は、スマートフォンと鞄を引っ掴み、受付側とは逆にある裏口に走った。裏口は非常階段に繋がっている。二十階分走るのは骨の折れる作業だが、何か分からないモノに捕まるよりはずっといい。


「くそッ」


 ここまでやってきて死ぬのはごめんだ。村木は引きちぎれる程に足を蹴り上げ、次々に階段を駆け下りていった。


──もう忘れないといけないところだったのに!


 誰もいなくなり、村木のデスク周りだけほんのり明るいだけの社内は、未だ訪問者からの追撃を受けていた。




 ピンポ~ン。






 ピンポ~~~~ン。



                    了

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