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追う、追われる
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2

 先の駅で降りるのか、まだ人が多い中、目的の駅で降りたのは村木ただ一人であった。川の近くまで歩いていきたいので、駅前にいたタクシーに見向きもせず人通りの無い道をゆっくり進んだ。右を見ても左を見ても、駅前商店街を過ぎてしまえば店らしい店は無く、かといって住宅街にも入らず、転々と年季の入った家があるのを観察するに留まる。


――情報が少なすぎる。


 飯塚が殺された場所に行けば高岡に関する何かヒントが、あるいは生き残る手段が分かるかもしれないと思っていた。


 しかし、事実だけ述べるとすれば、過去に殺人があった場所、それだけだ。


 焦り過ぎたか。かと言って、あのままルーティンで行動している方が犯人の思うつぼだろう。常に動き回っていた方が生存率が高くなると村木は考えた。


「山の中……川が流れているところだったよな」


 だいたいの場所は覗き見た資料で分かっている。とりあえず、殺害現場まで行くことにした。


 駅から徒歩でニ十分。大可井山(おおかいさん)と書かれた看板を越え、あまり舗装されていない山道を進んだ。人通りは無し、上の方にガードレールを挟んで道路があるが、山が見えてから今のところ一台も通ることはなく、普段から人気は無いらしい。後ろめたいことを行うにはうってつけといったところか。


「隠れるのにはいいけど、さすがに現場に住むっていうのは考えにくいか」


 犯人は現場に戻るというが、それは確認しに来ているだけで、住むまでいったら狂気の沙汰だ。


 プルル。


「うわ……ッ電話か」


 嬉しくないタイミングだったため出ようか躊躇うが、相手が岡崎だと分かり何回も通話ボタンをタップして出る。


「もしもし!」

『お疲れ様です。お元気ですね~。さっきはすみません、全然気付かなくて。急用ですか?』

「いや、それほど急いではないよ。岡崎は外出中?」


『はい。さっき出たところで』

「そっか。じゃあ、続きは会社で大丈夫だから」


 岡崎の様子から、何も無いことを悟る。不幸に至る封書を受け取ったのが自分だけならひとまず安心だ。こちらが急用でないことを伝えたら、岡崎はあっさり引き下がった。この事件は被害者四人で終わりだという見解を村木と共有している。山田の件はまだ伝えていないが、彼女に関係する西村が殺された時点で、もう彼女の中では一度終わった出来事なのだ。


『なんか一敬さんの後ろで鳥の鳴き声聞こえません?』

「ああ、ちょっと登山しようと思って」

『自然に癒されるやつっすね。お気をつけて』

「じゃあ、また会社で」


 そう、今日の自分は自然を浴びるために登山に来た旅行者。ただそれだけだ。誰にも怪しまれてはならない。


 上を見上げる。木々が生い茂っていて分からないが、登る前に山を見た時はそう大きくは感じなかった。今日の天気は晴れ、陽が高いうちに終わらせれば、軽装備でも問題無い。念のため登山靴で来たが、リュックの中身はもっと軽くてよかったかもしれない。


 辺りを注意深く見渡しながらゆっくり歩く。一年前なら規制テープが張られて分かりやすかっただろうが、すでに規制が解かれた後だとどこが現場か素人目では判断出来なくなっていた。


 おそらく残りの体の捜査は終わっていないが、規制する程ではなくなったか。もしくは持ち主がいて、その人物の希望か。もし自身の土地で殺人事件なんて起きたら、村木だったら早々に手放す。そんな土地に足を踏み入れたくない。


──山に先祖の墓があったら、そうもいかないか。


 舗装された道が無いので、いよいよ国が管理している可能性が低くなった。登山出来るような山なら、どこかしらに登山道があるはず。


「いや、山の名前があるんだから、やっぱり個人の土地じゃないのかも。もしかして、入り口を間違えたか?」


 山の一部が個人所有とも考えられる。万が一所有者と出くわして注意されたら、大人しく謝罪して帰るしかない。


 時刻は十一時十分。山に入ってから十五分程経った。誰ともすれ違っていない。この山には誰もいないのだろうか。無駄足だったかもしれない。どうしたものか。そろそろ帰って、違う方法を考えようか。


「うわっ」


 雨が降ってきた。仕切り直しをしろということかもしれない。とりあえず、木の下で雨宿りをする。念のため持ってきたレインコートを着る。


「小雨だけど、ひどくなるかもしれないし、帰るか……また戻ってくるの面倒だけど」


 足を元来た道へ向ける。ふいに横を見遣ると、開けた広場があった。何とはなしにそこへ入る。


「へー。 バーベキューとか出来そうだな」


 広場を歩き回る。奥の方に川が流れていた。村木が走り寄る。


「川だ!」


 山の規模を考えて川が何か所も流れているとは考えにくい。おそらくこの川が清戸川であろう。後ろを向き直る。


「もしかして、ここがそうか?」


 川の前が広場。西村が言うには「斧が落ちていて、それを振り回していたら飯塚に当たった」ということだから、振り回そうと思える場所だったと推測出来る。つまり、このような広場ならちょうどいいというわけだ。


「なるほど」


 地面に落ちている枝を拾い、川に真っすぐ入れてみる。抜いて濡れた部分を確認する。三十から三十五センチ程度か。入ったとしても、膝より下くらいの浅い川だ。しかし、気絶した人間が落ちたら大変な結果になるだろうし、手だけならあっという間に流される。


 資料では山、川の中ともに捜索したが、右手以外は発見に至っていないと書かれていた。川から海へ流れたと考えるのも妥当か。しかし、手首から先だけなら分かるが、人間一人分の大きなものが、うまいこと流れていくのか疑問だ。


「いや、右手が切り取られているなら、他もバラバラだった可能性もある」


 そうなると、やはり笹沼ではなく、飯塚を殺した真犯人が必要になる。

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