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第8話 暗殺者カラミヤ・ハル その1

 はじめまして。カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。いつも読んでくださっている方は、大変ありがとうございます。

 スローな立ち上がりですが、10万字を目指して頑張ります。モチベーション維持のために感想を頂けると大変嬉しいです。

 ―――朝までPⅴP。

 

 仮想巨乳ビッチ店員『春宮』に対し、殺戮の限りを尽くして朝を迎えた。二度とあんな店員がいるコンビニには行きたくないのだが‥‥‥聖域から一番近いので‥‥‥考えると頭が痛くなった。


 こうなったら寝るしかない。

 万年床に横たわった俺は目を閉じると、現実の嫌な思考を隅へと追いやった。


 ◇◇◇◇◇


 交替で仮眠した俺たちは、深夜になってから静かに動き出した。

 フードを目深に被り、マントを羽織ったいつもの格好。仕事を請け負った際に聞いた情報を基に、目的の部屋を目指す。通路は進むにつれて広くなり、天井が高くなっていく。


 長い廊下を通りいくつもの広間を抜ける。明らかに位の高いものだけに許された絢爛豪華な空間だった。磨き上げられた階段を上り目的の部屋を目指した。


 その間に出くわした衛兵は数えるほど。どいつもやる気がなく、立ちながら器用に船をこいでいた。

 手にかけることなくやり過ごし、何の障害もなく目的の部屋の前までやって来た。あっけない気もするが、腐敗した王国にあっては仕方のないこと―――。


「ここっすか?」


「‥‥‥」


 南に面した城の上階。両開きの飾り立てられた大きなドアが、高貴な人物の部屋であることを示していた。

 不肖の弟子見習いの問い掛けに、沈黙をもって答えた。

 

 ノブに手を掛けると、隣のルールーがゴクリと喉を鳴らす。

 ゆっくりと開ける視界の先―――そこは瀟洒(しょうしゃ)な調度品をしつらえた貴族の部屋だった。

 中の気配を確かめつつ、俺とルールーは静かに体を滑り込ませた。


 部屋の灯りは消えていた。窓から差し込む月明かりで辺りは薄闇に包まれている。

 中央に応接セットと、窓際に大きな机があった。住人の性別や年齢を考えれば、簡素で寂しい印象を受ける。机の上を見るとそれでも可愛らしい小物が見え隠れしていた。


 隣室へと続く扉が開け放たれていた。

 寝室だろうと見当をつけ静かに中を覗くと、そこには人の気配―――中央に設置された天蓋付きの大きなベッドが見え、レース地の薄い幕の内側で横になっている人影を捉えた。


「眠ってるっすか?」


 俺の肩先にちょこんとあごを乗せたルールーが一緒に中を覗き込んでいる。


「本当にヤッちゃうんですか?」

「ヤッちゃうって言うな! イケないことするみたいだろうが!」


 不肖の弟子見習いの言い方だとエッチな事をするようにしか聞こえない。肩を引くとルールーのあごがカクンと落ちた。


「―――痛っ! 舌噛んじゃったっす!」

「うるさいわ! 気づかれるだろうが!!」

 

 互いに言い合ってるが、あくまでも小声で、だ。不肖のルールーを前室に残して1人寝室に滑り込んだ。

 

 今回請負った仕事は、さる王族の()()

 計画を実行に移さずとも、露見しただけで即刻処刑される危険な依頼だった。特別な報酬に目がくらんだ俺は、2つ返事でこの仕事を請け負ったのだ。

 

 眠っている対象に近づくため静かに歩を進めた俺は、両手で得物のククリナイフを握った。

 天蓋の中、月明かりを反射してキラリと瞬いた光を見逃さなかった。


 ―――間に合わない、と判断して得物(ククリナイフ)から手を離す。

 口の中で呟いた短い詠唱によって俺の片手が風を纏うと、それを投げるような動作でおおきく前方に振り抜いた。

 

 シュル、シュル、シュル―――!


 放たれた風魔法―――鎌鼬(ウインドカッター)が鋭い風切音とともにレース地を切り裂き、中に垂れ下がっていた細い糸を切断した。

 それは古典的な技法だった。対象の口先に糸を垂らし、流れ伝った経口毒で息の根を止める。使用する毒にもよるが、一切の証拠を残さない暗殺術だ。

 

 と、天蓋の上部から1つの影が躍り出た。


 ―――キイイイ~ン!


 喉元に迫る短剣の切っ先をククリナイフで弾き返せば、辺りに金属のかち合う甲高い音が響き渡った。

 一撃を弾かれ間合いを取った黒い影は、全身黒ずくめの格好でドクロの面を被っていた。天蓋の上では上手く気配を消していたが、今は全身から殺気が迸っている。


「見え透いた殺気はいただけないな」


 俺の挑発にまんまと乗ったドクロ面が強引に前に出た。無警戒に過ぎるだろう。一流の暗殺者を相手にするんなら、もっと臆病に、もっと慎重になるべきなのに。


 逆手持ちの短剣の切っ先が俺の喉元を捉えた―――そう見えた瞬間、風魔法を纏った俺の身体は滑るように後方へと移動した。

 さっきの一撃でドクロ面との間合いは掴んでいる。短剣の切っ先が空を切ると、ドクロ面から、「っち!」という短い舌打ちが聞こえた。


 が、すでに俺の身体は前進を開始していた。ドクロ面との間合いを瞬時に殺す。


 ―――どすっ! どすっ!


 ほぼ同時に2本の得物(ククリナイフ)を躊躇なくドクロ面の頭と胸に叩きつけた。寝室に鈍い音が響き渡り、黒ずくめの暗殺者はその場に崩れ落ちた。


「師匠おおお~!!」

「や、やめろ。頼むから静かにしろ!」


 扉から顔だけ出してこちらを見守っていたルールーが、大声を上げて抱き着いてきた。

 まだ仕事は終わってないんだよ。と、言っても先の戦いの音で対象は目覚めているだろう。


 寝室は暗殺者どうしの殺し合いからいっきに静まり返った。そして天蓋付きのベッドの方向から衣擦れの音が聞こえた。


「何者です!」

 

 凛とした雰囲気の落ち着いた声色だった。


「ボクらは暗、あん、ちょ、師匠‥‥‥むむむっ!?」

 

 ここは無言で通せ‥‥‥暗殺者は自己紹介などしない。咄嗟にルールーの口を押さえ付けていた。ゆっくりと薄い幕が開き、1人の王女―――いや女騎士が出てきた。

 

 ―――うん!? 罠か?


 最悪の状況を想像した直後、しかし窓から差し込む月明かりに照らされた女騎士の顔を見て少しだけ緊張が解けた。


「第3王女セリーナ・リューレインだな」


「‥‥‥‥‥‥」


 女騎士は問い掛けには答えなかった。

 庶民とは話をしないのか? だがそれでもいい。答えは出ていた。


 情報通り気品溢れる端正な顔立ちと、月明かりの差し込む薄闇の中にあって黒に染まることをよしとしない凛とした群青の長髪。その美しい髪と同色の瞳に左目の泣きぼくろが目指す対象だということを示していた。


「その格好は?」


「‥‥‥」


 天蓋付きのベッドに鎧姿。なにかのプレーか? 暗殺対象の格好を見て素直に疑問を口にした。しかし第3王女は俺の問い掛けをことさら無視して、こと切れているドクロ面に視線を向けた。


「これは‥‥‥あなたたちが‥‥‥」


「そうだ」


「助けてくれたのですか?」


「違うっすよ」


 なぜだか胸を張るルールー。

 なんと答えたらよいものか……思案中に、「お命頂だい!」と隣のバカが叫んだ。


 それを受け第3王女が身構える。もう少し考えて行動してくれよ。助けを呼ばれたら厄介だろう。


「やはり私の命を狙いに!!」


「俺は暗殺者だが今回は違う」

「違うって何なんすっか? 特別な報酬って言ってたじゃないっすか!?」


「ふっ、仲間割れですか。人殺しを生業にしている下賤な者たちの末路ですね」


 俺たちの正体を見極めた第3王女は、悲しそうに小さく笑った。そしてドクロ面の亡骸と俺たちの顔を交互に見やり、携えていた直剣を鞘から抜いた。


「暗殺のダブルブッキング。それにしても人気ものだな――――――」

 

 そう言った俺の言葉の意味を正しく理解していたのは、寝室内には()()いなかった。

 

 風魔法を纏った俺の体が滑るように前に出て第三王女の後方―――入口とは反対方向の月明かりが届かない部屋の隅へと移動する。

 両手の得物(ククリナイフ)で、暗い淀みを水平に薙いだ。

 

 ガギッ―――!!


 金属同士が食い合う鈍い音と同時に火花が散って、真っ黒い人影が真横に飛んだ。

 不意打ちで相手との間合いを一瞬で相殺した必中のハイブリッド技。完璧に防がれたのはいつだっただろうか―――記憶を辿っても思い出せない。

 だから強敵と理解した―――。

 

 ―――月明かりに照らされて、黒光りする面積の小さなボンデージスーツに身を包んだ巨乳女が窓の傍に艶然と立っている。

 俺たちの目の前に、闇に潜んでいたもう1人の暗殺者が姿を現した。


「ふふふ、王女さまの命はこのあたしが頂くわぁ」

 

 小さく笑った新手の暗殺者の片手には得物の(ムチ)

 鼻から上を黒猫の仮面(マスク)で覆っていて、2つの穴から覗くつぶらな瞳には妖しい光や宿っていた。

 読んで頂きありがとうございました。

 平日は最低でも3話以上(毎日が理想)の更新ができるようにと考えています。

 もしよかったらリンゴと蜂ミッツを推してくださいね。ブクマ、評価をよろしくお願いします。


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