第7話 コンビニ・ビッチ
はじめまして。カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。いつも読んでくださっている方は、大変ありがとうございます。
スローな立ち上がりですが、10万字を目指して頑張ります。モチベーション維持のために感想を頂けると大変嬉しいです。
―――両親が寝静まった深夜。
入口のドアに即死系の封印を施した俺は、静かに聖域を後にした。
聖域の守護者にとっては、なんの感慨もない桜の季節だ。
日中は心地良い陽気が続いているが、深夜帯はまだまだ肌寒い。汗っかきの俺の半袖チョイスは間違っていたようだ。
鼻をすすりながら歩いていると、すれ違う人たちの視線が突き刺さるような気がする‥‥‥。
でも本当は、俺のことなんて誰も気に留めてないってことくらい分かっている。これは負い目のある引きニートゆえの思考なんだ。
外界に出ると奇異な目で見られたくはないし、目立ちたくはない。
歩く先に、目的の店舗が見えた。
暗闇の中に浮かんで見えるその場所は、乾いた砂漠に突如として現れたオアシスみたいな魅力があり、水を求める旅人のように客が吸い寄せられる。
「しゃあーせぇー」
自動ドアを潜ると、レジカウンターのほうから投げやりな声が聞こえた。最近見かける20歳前後の巨乳店員だ。
何かの呪文のように聞こえる挨拶には、まったく慣れる気がしない。引きニートが言うのはおこがましいが、乱れた日本語を話す若者を見て嘆かわしく感じる。
着くずした制服の胸元を大きくはだけ、つまらなそうな表情でスマホをいじっていた。
俺の行きつけのこの店は、いつから魔法使いお断りになったんだ! そういう方針に切り替えたのか!? そう思って店内を見渡せば、『春の桜まつり実施中』なる張り紙が目に入った。
―――はっ!? まさかチェリーボーイの暗喩なのか‥‥‥買い物に来たんだ。おかしな妄想はやめよう、悲しくなる。
見たところ巨乳店員は1人のようだ。もしかしたら奥の方にほかの店員がいるのかもしれない。深夜のシフトに入っているところを考えると、経営者サイドの人間ということも考えられた。
狭い地域に乱立するコンビニの経営は難しいと聞く。
コスト削減―――人件費を如何にして抑えるか。深夜帯に経営者家族がシフトに入れば、そのぶんアルバイト代を支払わなくすむ。
まあ無職の俺が考える事ではないのだが。ただ、あの客を舐め腐った態度‥‥‥やはりただのアルバイトだろう。
店内に客は俺1人だった。
カゴを手に取ると、巨乳店員がチラリとこっちを見た気がした。深夜のコンビニでカゴを手に取る俺様は上客なのだ。
―――さて、スマートに買い物を済ませよう。
棚を巡りながらカゴに次々と商品を放り込む。
スナック菓子に2リットルサイズのシュワシュワ系ドリンク。大好きな練乳入りのアイスバーを箱買いして、メロンパン2個と最後にデザートの棚へと―――そこでプッチンプリンを手にする。と、その後ろに隠されるようにしてあったサクラ色のプリンを発見した。
なるほど‥‥‥これが『春の桜まつり』と銘打った商品の1つなのか。ラスト1個のようなので、迷わずにカゴに放り込んだ。
大量の戦闘糧食が入ったカゴをカウンターの上へ置く。
すると、こともあろうに巨乳店員は、「ちっ!」っと舌打ちしてから、めんどくさそうにスマホをポケットにしまった。
客に対するあるまじき態度。乱れた制服といい、俺の中でビッチ確定だ。
魔法使いの俺は、当然のことながら目の前の顔を正視することはできない。
真っ赤なマニュキュアが商品を掴むと、バーコードの読み取り音が聞こえた。それの繰り返し‥‥‥。
「袋は~?」
「ぉねがい‥‥‥」
「―――はぁ!?」
「お、おねがいします‥‥‥」
「ちぇっ、はっきりしゃべれよ」
いや、心の声がはっきりと聞こえてますよ、ビッチ店員さん。
俺は、「上客だぞ! そこに跪け!」と心の中で叫んでいた‥‥‥。
バーコードを通す音が途切れ、ビッチ店員の動きが止まったように感じた。おそるおそる視線を上げると大きく膨らんだ胸の位置に名札が見え、『春宮』とあった。
「これ売り物じゃないんで」
「―――えっ!?」
ビッチ店員『春宮』は、期間限定商品であるサクラ色のプリンを手に持ったままで睨みをきかせていた。俺の口から驚きの声が自然と漏れた。
「3840円に―――」
「―――いや‥‥‥」
「はぁあ~? なんか文句でも?」
このメス豚がぁあああ!!
上客である俺様に向かってなんて口を利きやがる!!! 巨乳ビッチ店員のくせに商品を取り置きしてやがるのかあああ!?
「い、いや、別に‥‥‥棚にあったから‥‥‥あの、売り物じゃないなら、いいです‥‥‥」
「あたしのだから。もう金払ってんの!」
ぶっきらぼうな言い方で、語尾にビックリマークが見えた気がして―――俺の心はポキリと簡単に折れた。
「いらないです。はい‥‥‥」
まさかの横取り。それも店員に‥‥‥。
こんなことあるのか? 許されるのか? 人間耐性とそれに輪をかけて女性耐性の低い俺は、当然相手の目を見ることなんてできやしない。返す言葉が見つからず、みっともない返答しかできなかった。さぞかしキモがられたことだろう‥‥‥。
「キモ」
「‥‥‥」
相手の言葉を言い当てる俺は予言者なのかな‥‥‥。
―――コンビニからの帰り道。
母親以外の女性と会話したのはいつ以来のことだったのかと記憶を辿るが思い出せない。あんなに馬鹿にされたのに、思考がキモいと自分でも思うよ。
さあ、聖域へ帰ろう―――サクラ色のプリンは手に入らなかったが、空想世界の住人が1人増えた。
読んで頂きありがとうございました。
平日は最低でも3話以上(毎日が理想)の更新ができるようにと考えています。
もしよかったらリンゴと蜂ミッツを推してくださいね。ブクマ、評価をよろしくお願いします。