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第3話 証拠隠滅はお任せを

 はじめまして。カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。いつも読んでくださっている方は、大変ありがとうございます。

 スローな立ち上がりですが、10万字を目指して頑張ります。モチベーション維持のために感想を頂けると大変嬉しいです。

 ―――静まり返った家の中。

 

 昼の遅い時間に起き出した俺は、母親が準備した昼食を1階へ下りて黙々と食べていた。両親のいない日中は聖域の守護という崇高な仕事から解放される。


 不思議なんだが、俺が食べたいと思っているものが結構な確率で出てくるのだ。母親という存在はなんというか‥‥‥恐るべし。

 

 残さず食べていつものように食器は放置。うん!? 誰かなにか言ったか?

 引きニートが食器を洗うとか、それはちょっと世間的に見てどうなんだろうか。結局はあれこれと理由をつけて俺は何もしない。

 

 ぐうたらな生活に慣れた体は正直なもので、寝て起きたばかりなのに腹がふくらめば眠くなる。

 太った体を引きずって聖域への帰還を果たすと、万年床で布団にくるまって目を閉じた。

 

 ―――たちまち頭の中で思い描いた世界が色づいた。


 ◇◇◇◇◇

 

 目深にフードを被り、長旅で薄汚れたマントを羽織った俺たちの服装は、通行証に記載してあった商人のそれではなかった。

 しかし、いつの時代も何処の国でも袖の下は有効である。検問所の担当役人に小遣い程度のカネを握らせると、手荷物検査も行われなかった。―――俺たちは王都の門を無事に潜った。


「ちょろいっすね」

「ああ。王都といっても、所詮こんなもんだ」

 

 幅員(ふくいん)のある石畳の通りには、荷物を満載した馬車や、人を乗せたホロ付きが行き交い、王城のある先のほうは見通せない。

 

 大きな通りの両脇には石造りの建物が軒を連ね、その多くが商いの看板を出していた。さすが王都だな、活気に溢れている。


「師匠、これからどうします? 娼館を探します? それとも情報収集が先っすか?」

「当たり前のように娼館って言うな。そうだな―――」

 

 言葉を切った俺は弟子見習いの肩を抱いて路地裏へと飛び込んだ。


「―――っひ!? し、師匠、昼間っからダメですよ‥‥‥」

「バカ野郎ぉ! 後方、2人だ。準備しろ」


「ふぁぁぁい!」

 

 さっそくズボンに手をやるルールー。追々説明するが魔法発動の準備なんだ。

 一方の俺は羽織ったマントの下―――腰に下げた得物に手を掛けた。

 

 路地裏に入った俺たちに続いて、商人風の中年男が2人、談笑しながら距離を詰めてきた。 

 鋭い目つきと緊張した表情に商人(あきんど)の格好。自分たちの不自然さに気付いていないのは致命的だ。

 

 俺が先に立ち止まり、ルールーが追い抜いた先で立ち止まる。


 足早に距離を詰める男2人。踵を返した俺を認めて、背中に隠し持っていた曲剣(サーベル)を大仰に構えた。


 にじり寄る2人の男は、足の運びで手練れだと知れた。

 俺が口元を緩ませて笑顔を作ると、男たちの顔に警戒の色が浮かんで近づく速度が鈍る。


 俺はその一瞬の隙を見逃さない―――。


 俺の体が滑るように前に出て、男たちとの間合いを瞬く間にゼロにした。

 それは風の魔法を体に纏った暗殺術―――両手に握ったククリナイフが、1つは首に、1つは腹に、それぞれの男に突き刺さった。


「―――ぐぅぎゃーーー!」


「ごぉおおほぇーーー!!」


 首から鮮血をまき散らした男はその場で絶命し、内臓の一部をぶちまけなが路上を転げまわる男は、「助けてくれ」と命乞いをする。

 誰の差し金かは知らないが……無粋な仕事を請け負ったのなら覚悟はしとくもんだ。


「依頼主は?」

「ぐぅふぅううう、ま、魔法使いじゃ、なかったのかよ……」


「期待に添えなくて悪いな」

「聞いてた、話と……ぐほぉ、違、うだろ」


「魔法と暗殺術の掛け合わせ(ハイブリッド)。つまり最強ってことだ」


「ま、魔法……暗殺、術……き、聞いて、ねぇえぞ、ぐぼぉへぇぇぇ!!」


 尋問の時間を作るために、あえて腹を(えぐ)ったのだが、思ったよりも傷が深かった。まだまだ未熟ということだ。顔面蒼白で体を震わせる男の呼吸はすぐに停止した。


「ルールー」

「あいさー! ファイアボーーール!!」

 

 俺が呼びかけると、すでに準備を終えた弟子見習いが元気よく応えた。

 前方に突き出した両手の先に火球が生じ、次の瞬間男たちの亡骸が炎に包まれる。

 

 そう、不肖の弟子見習いルールーの魔法は戦いの支援ではないのだ。この俺が小娘の助けを必要とするはずがない。

 

 男たちが俺を()()の魔法使いだと勘違いした理由には2つあった。

 それは俺と対峙した敵に生き残るヤツがいないという事実と、死因の隠蔽工作によるものだった。

 

 死体は魔法で燃やす。


 ルールーを飼う以前は、


「師匠、言い方!」


 一緒に旅する前は、倒した敵は俺が燃やしていた。今は弟子見習いの仕事だった。

 隠蔽工作は危険な世界を生き抜くための知恵であり、その作業は思った以上に厄介で疲れるものだった。

 なので、『悪魔』という魔法にゆかりのあるこの世界の上位存在にとっては、うってつけの仕事な訳だ。


 さて、すぐに騒ぎを聞きつけた衛兵が来るな。

 この場所に留まるのは賢明じゃない。


「とりあえずここを離れるぞ」

「ほいさー!」


 路地裏での命の取り合いの後、焼け焦げた亡骸をそのままに俺たちは何食わぬ顔で大通りに出て人混みに紛れた。


「俺たちのことを嗅ぎつけたヤツがいる」

「お腹が空いたっすね~」


「仕事を急いだ方がよさそうだ」

「その前に1発抜いちゃいますか~」


「死体が見つかる前に行動するべきだが……」

「あっ、そうだ! 王都名物の竜モドキ料理が食べたいっす!」


「奴らの死体が見つかる前に―――」

「竜モドキ~からの~~~娼館! 娼館! 娼~~館! 娼館、行くゾ~~~♪」


 聞くに堪えない恥ずかしい歌を口ずさむルールー。

 踊りながら、ぐうーと腹の虫が鳴っている。こいつを見ていたらよくわかる。性欲と食欲は比例するってことが。


「はぁ~~~」


 いつものように会話は成立しない。俺は深い溜息を吐いて、話すのをやめた。

 大きな通りをしばらく歩く。尾行の確認だ。

 

 歩きながら、ふと気になっていることを聞いてみた。


「ルールーならどうする? 大切な人への贈り物。金がなかったら何を贈る」

「ふぁえ!? いきなり何の事っすか? 大切な人って、まさかボクの事‥‥‥!?」


「違うわ! うーん、そうだな‥‥‥ルールーの両親とか」

「両親ですか……」


 呟くように言った弟子見習いが柄にもなく口を閉じてしまった。

 思えば俺はこいつのことを何も知らない。いま判明したことは、両親というワードが地雷だということ。


「そ、そうだな、親じゃなくたってルールーの大切に思ってる人なら誰でもいいんだが……金が無かったら何も買えないだろ。そういう時ってお前なら何を贈る?」


 不肖の弟子見習いに何を聞いているんだろうな。

 もしかして父親が朝に言ってた事を気にしてるのか。しっかりしろよ、引きニート。現実は空想世界を駆逐するんだ。


「それ、サキュバスに聞いちゃいます?」


 俺の顔を見たルールーがニヤリと口角を上げた。


「師匠……遠まわしに誘ってますの? 今夜? それとも今ここで!?」

「誘ってねぇーよおおお!!」


 真顔で突っ込む俺の横で、小さな胸に手をやりお尻を突き出す仕草のルールー。

 癒されるはずの空想世界でなぜだか精神的に疲れ果てた俺は、次第に意識を手放して深い眠りに落ちていった。

 読んで頂きありがとうございました。

 平日は最低でも3話以上(毎日が理想)の更新ができるようにと考えています。

 もしよかったらリンゴと蜂ミッツを推してくださいね。ブクマ、評価をよろしくお願いします。


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