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第36話 新たなる目的

 はじめまして。カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。いつも読んでくださっている方は、大変ありがとうございます。

 スローな立ち上がりですが、10万字を目指して頑張ります。モチベーション維持のために感想を頂けると大変嬉しいです。

 色々大変だったバイトを終えるとまっすぐ帰宅した。朝ラーメンの予定は春宮が先に帰ったことでお預けとなった。


 春の朝陽が眩しい土曜日だった。

 両親は仕事があるらしく、俺のぶんを含めて朝食の準備を整えていた。


「頂きます」


「何もないけど召し上がれ」


「ゆっくり食べろ~」


 家族で食卓を囲む。山田家に訪れた平穏な朝の風景だった‥‥‥はず、なのだが‥‥‥。

 俺の隣にはなぜか芹那(せりな)が座っていた。


「遠慮はいらないからね。芹那ちゃんは2階の空き部屋を使いな。窓開けて換気しとくから、掃除機と拭き掃除は駿に任せたからね」


「今夜は肉焼くぞ~。芹那ちゃんの歓迎会だ」


 朝食を終え両親は俺と芹那を置いて慌ただしく仕事へと出掛けていった。


「泊るのか?」


 上司の酷いセクハラを会社に訴えた芹那は、なんと反対にクビを切られたらしい‥‥‥。

 どんなブラック企業だよ、と思うのだが、まあ世間知らずの俺には会社というやつが一体全体どんなところなのか分かってない。


 会社の独身寮を追い出されるのと同じ時期に、SNSにアップされた俺の画像を見て、慌てて地元へ戻ってきたとのことだった。

 俺が自宅へ引きこもって以来の遭遇(再会)となる。


 その幼馴染の芹那が、なぜ地元に戻ってきたのに自分の家に戻っていないのか? なぜ俺の家に上がり込んでいるのか? というと‥‥‥それは彼女の両親が家を売り払い念願の海外移住を果たしていたからだった。

 なんでも赤道直下の国で人生を謳歌しているとのこと‥‥‥。


 仕事と帰る家を失った芹那は、SNSで晒された俺の画像に導かれ―――いまここにいるという訳である。

 後日、あの画像にイイネしていた内の1人だということが判明した‥‥‥。


「と、とりあえず掃除するわ」

「私も手伝う」


 さすがに眠い俺たち。

 コンビニに突然現れた芹那は、俺のバイト上がりまで春宮とやり合っていた。

 

 俺からは積もる話は1つもない。が、彼女は俺に対して言いたいことは沢山あるだろう‥‥‥。

 とりあえず後のことは寝て起きてから話そうと思う。


 聖域の隣に位置する空き部屋の掃除を終え、母親が用意してくれた客用の布団を運び込んだ。

 なにを言えばいいのかわからない俺は、ただ「おやすみ」と言ってみたのだが‥‥‥。


「‥‥‥」


 無言で睨まれてしまった。

 その目は、他に言うことはないのかと語っている。


「風呂は勝手に使ってくれれば―――」


「‥‥‥」


 また睨まれた。

 俺の話は彼女の求めているものではないことぐらい知ってるよ。いまここで話し始めたら、それこそ終わりが見えない。とりあえず寝よう。 

 

 俺はそのまま聖域に戻り、万年床の上に転がった。

 ぐるぐると色んな考えが頭の中を巡る。このままでは眠れない‥‥‥だから目を閉じて久しぶりに異世界を空想―――認識することにした。


 ◇◇◇◇


 世界が切り替わると朝だった。フルエラの屋敷だ。元の世界と異世界の間には明確な壁があるのだろう。そのお陰で俺の意識に混乱はない。

 

 元の世界での今の俺は、布団にくるまって目を閉じている状態だ。その意識は、おそらく眠っているわけではない。完全に眠ってしまうと、チート能力が使用できなかったことを考えれば、この考えは正しいだろう。

 こんどカメラを仕掛けて、元の世界での俺の様子を確認してみるか‥‥‥。


 そんな事を考えた後、ベッドから元気よく起き出した。

 面白いことに、元の世界の俺は色々あってもの凄く疲れていたはずなのに、異世界の俺は十分な睡眠が取れていてすこぶる調子がいい。


「気を付けるのじゃぞ」


 フルエラが俺と同じような旅装束姿のセリーナを抱擁していた。


「はい。ありがとうございました。必ず手紙を書きます」

「―――うむ。頼んだぞスグル。セリーナを途中で見捨てたら、わかっておろうな?」


「‥‥‥次の目的地までは面倒をみる。その後は知らん」


 そのためにフルエラの孫が同行するのだ。後のことは彼女自身が決めればいい。

 すっかり人気者になったセリーナと()()()みたいな俺たちは村のみんなに見送られ出発した。


「ねぇ~どこへ向かってるのかしらぁ」

「師匠、ボクだけに教えるっす」


 俺たちはフルエラが用意してくれた荷馬車に乗っていた。

 村が見えなくなるとカラミヤとルールーが興味津々といった表情で質問してきた。


「この国の建国にまつわる場所だ」

「もしかして‥‥‥竜神の祠ですか?」


「そうだ」


 王族のセリーナは、その場所を簡単に言い当てた。


「聞いたことがあるな。たしか祠の奥には広大な迷宮が広がっているという話だったような、高い塔に繋がっているという話だったような・・・・・・どっちだったか?」


 セリーナの同行者であるエラノアが、知識があるようでない話をする。つまり聞いている者にとっては、まったく参考にならないということだ。


「その場所に私を連れて行って、スグルさんは何をするんですか?」


「すごいお宝でも眠ってるのぉ~~~!?」


 期待と不安が入り混じったような、みんなの視線が突き刺さった。

 そもそもこの依頼が舞い込んだのは、偶然か必然か。

 目的の鍵となるセリーナ(王族)を手に入れた今、もう黙っておく必要はないだろう。


「―――竜を狩る!」


 進行方向の先に連なる山々の稜線を見据えた俺は、心に秘めた確固たる決意を初めて口にした。

 読んで頂きありがとうございました。

 平日は最低でも3話以上(毎日が理想)の更新ができるようにと考えています。

 もしよかったらリンゴと蜂ミッツを推してくださいね。ブクマ、評価をよろしくお願いします。


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