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第23話 報酬の正体

はじめての方は、訪れて頂いてありがとうございます。カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。

いつも読んでくださっている方へは、大変ありがとうございます。

モチベーション維持のためにブクマと評価をよろしくお願いします。

 風呂から上がると、そのまま聖域へと戻った。

 朝食を準備してくれた母親には悪いと思ったが、妙な夢を見たせいでなんだか食欲がわいてこない。

 今日は土曜日なのでゆっくりしようと思う。夜にバイトがないことを思えば、それだけで開放感のようなものがあった。どれだけ春宮にこき使われていたのか、ということだ。


 なにはともあれ、先ずは睡眠。

 万年床に転がって布団にくるまると、窓越しにスズメの鳴き声を聞きながら目を閉じた。

 そして鮮やかに色づく空想世界―――風呂で見た夢の内容がくっきりと脳に焼き付いていて‥‥‥本当はもっと楽しい冒険をするつもりだったのだが‥‥‥仕方なく夢の続きから空想を始めた。


 ◇◇◇◇◇


 セリーナの容態が気になっていた俺を、長老のフルエラが隣の部屋に案内してくれた。

 そこにはベッドで眠っている彼女の姿があった。


 傍らには治癒術師(ヒーラー)と思われるよく肥えた初老のエルフ。白衣に近い服を着て、首からたくさんの首飾りを下げていた。


「ぐっすり眠っておりまする」


 そう言った治癒術師(ヒーラー)の男は、長老のフルエラに頭を下げた。


「峠は越えたようじゃな。風の精霊様に託された時はさすがにキモを冷やしたぞ」

「その通りでございます。しかしもう心配はございません」


「そなたのおかげで、わしもまだまだ長生きできそうじゃな」


 エルフが寿命について話をしている。比べて寿命が短い人間の俺にとっては、極めて滑稽な話に聞こえた。


「それが‥‥‥不思議なのでございます。この人間の少女、傷口は塞がっておったのですが、明らかに腹を貫かれておりました。おそらくは細身の直剣かと。しかしながら内臓には1つも損傷がなかったのでございます」


 傷口が塞がったのはエクストラポーションの効果だ。しかし内臓に損傷がないということは‥‥‥2滴程度では流石にそこまでの大きな効能は得られないだろうと考えられた。


「この少女が強運の持ち主か‥‥‥それとも偶然か‥‥‥」

「人の体は複雑にできておりまする。まず偶然はあり得ないでしょう」


 セリーナに兄と呼ばれた男の顔が脳裏に浮かんだ。

 同時に俺の心臓が大きく跳ねる。

 

 あの男の能面のような表情からは、まったく感情というものを読み取ることはできなかった。

 なんの躊躇(ためらい)いもなく妹の体に直剣を突き入れた瞬間は忘れない。あの時、あの男は確かに俺の目を見つめていた。


「―――師匠っ! 大丈夫っすかぁあああ!!」


 部屋に飛び込んできたルールーが猛烈な勢いでタックル―――抱き着いてきた。よほど不安だったことがうかがえた。


「怪我はないか?」

「ボクは大丈夫っす。それよりお姫様のほうは大丈夫っすか?」


「ああ」

「よかったっす。報酬に死なれたら今までの苦労が水の泡っすもんね」   


「報酬ってなにかしらぁ‥‥‥?」


 あとから部屋に入ってきたカラミヤがこちらを見て首を傾げた。

 黒猫の仮面は被っていない。明るい場所で見る彼女は少しだけ年上に見えた。あどけない表情にピンクの髪色がよく似合っている。


 つぶらな瞳に凝視されたルールーは、両手を口を押えて「しまった」という表情で俺とカラミヤの顔を交互に見た。‥‥‥余計なことを聞かれたようだ。


「山分けって話よねぇ?」


「‥‥‥」


「ちょっとぉ~。お互いにギリギリの状況だったでしょ。絶対に約束は守ってもらうからぁ~」


 やわらかい口調とは反対にカラミヤの目は笑ってなかった。

 腕を組んで考えてみるがすぐには名案が浮かんでこない。


「2つに分けることはできない‥‥‥」

「ちょっと冗談でしょ!?」


 正直に答えるとカラミヤの口調が変わった。


「冗談ではない‥‥‥」

「ここで死にたいの?」


 冷たい声でカラミヤが言うと、部屋の空気が一瞬で張りつめた。


 と、ここで俺たちを見かねたフルエラが間に割って入る。


「―――2人ともやめるんじゃ!」


 場の空気を霧散させる威厳に満ちた声だった。

 興奮でキャラ変していたカラミヤも流石に口を閉じた。


「ケガ人の前じゃぞ」


「‥‥‥悪かった」

「ふん。す、スグルが山分けを渋るからよ」


 カラミヤは子供が拗ねたような態度を見せ、目に見えて、しゅんとなる。まるで飼い主に叱られた猫だ。それに意外と打たれ弱いのか‥‥‥。


 セリーナと治癒術師(ヒーラー)を残して、俺が寝かされていた部屋に戻ってくると、カラミヤに本当のことを話した。


「第三王女セリーナ・リューレイン本人が今回の報酬だ」


 俺の口から語られた報酬の内容に、カラミヤは驚いて目を見張った。

 言いたいことは分かる。騙すつもりが無かったと言えば嘘になる。


「だから山分けは無理なんだ」

「このあたしを騙すとはいい度胸ね。まあいいわ。別のもので勘弁してあげる」


「別のもの?」

「とぼけても無駄。スグルの魂胆はわかってるわぁ。お姫様を手に入れた本当の理由があるんでしょ~?」


「べ、べべべ、別にないっすよ。ナイッス‥‥‥」


 俺に代わって盛大に動揺するルールー。お前は喋るな‥‥‥もう黙ってくれ‥‥‥。


「やっぱりねぇ~」


 嬉しそうに言ったカラミヤが野良猫のように俺の傍らにすり寄ってきた。


「だめだ」

「あたしを騙しといて、拒否権はないわよねぇ~。あんたもそう思うでしょ?」


 半眼のカラミヤに見つめられたルールーが俺の陰に隠れた。


「‥‥‥」


「おいメスガキ。何か言ってみなさいよ」


「メスガキってなんすか? ボクにはルールーって名前があるっすよ」

「サキュバスなんか連れて趣味が悪いはスグルぅ~。どうせなら私と組まない? ほらぁ狙いを教えなさいよ」


 そう言ったカラミヤが俺の肩に手を添え、必要以上に口を近づけて耳元で囁く。


「むきゃぁ~~~! 師匠に近寄るなビッチ!」

「ビッチってなによ! サキュバスに言われたかないわ!」


「こっちだって色目使って尻尾フリフリする野良猫に言われたくないっす!」

「な、なんですって!? このぉおおお―――」


「―――やめるんじゃ!!」


 またしても威厳に満ちた声に止められた。

 と、ここで1人のエルフが慌てた様子で部屋に飛び込んできた。

 監視役のエルフと同じような格好の男は、フルエラの前で膝をつき何やら報告している。


「追ってが迫っておる。第三王女とな‥‥‥そなたらはこの村に大変な災いを持ち込んだようじゃな」


 報告を終えた男が部屋から出ていくと、険しい顔のフルエラが言った。

 俺は治療は頼んだが、これ以上この村に迷惑をかけるつもりはなかった。


 ああ、意識が揺らぐ‥‥‥空想世界が色を失い始めた。

 風呂で温まった体が弛緩して‥‥‥このまま夢は見ないであろう予感を抱きながら、泥のような深い眠りに落ちていった。

読んで頂きありがとうございました。

平日は最低でも3話以上(毎日が理想)の更新ができるようにと考えています。

モチベーション維持のため、作品向上のために感想をお聞かせください。


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